働きながら親の介護が始まったら|最初の30日にやることリストを現役の社会福祉士が解説

働きながら介護 最初の30日にやることリスト 在宅介護のリアル

先週、離れて住む親が入院した。医師からは「退院後は、介護が必要になるかもしれません」と言われた。自分はフルタイム勤務。何から手を付ければいいか分からないまま、頭のどこかで「仕事、辞めないといけないのかな」という言葉がちらつき始めている——。

この記事は、そんなあなたのための「最初の30日」の行動リストです。

先に、この記事の結論をお伝えします。

介護の初動30日でやることは、「自分で介護する」準備ではなく「介護の体制を組む」準備です。そして、仕事を辞めるかどうかの判断は、この30日のあいだにはしなくていい。体制を組んだあとで考えても、遅くありません。

こんにちは。むむぶどう🍇です。社会福祉士として福祉の現場に20年、現役のケアマネジャーとして働いています。回復期病院のソーシャルワーカー(MSW)として、退院を前に不安を抱えるご家族と向き合ってきました。地域包括支援センターでは、「何から始めれば…」という家族からの電話を数えきれないほど受けてきました。

その経験から言えるのは、初動の30日で差がつくのは「介護の技術」ではなく「動く順番」だということです。順番さえ知っていれば、働きながらでも体制は組めます。

※本記事の制度に関する記述は2026年7月時点のものです。介護保険の運用は市区町村により、両立支援制度の細部はお勤め先の就業規則により異なります。最終確認はそれぞれの窓口でお願いします。

  1. 結論|最初の30日チェックリスト【まずこれだけ保存してください】
  2. 大前提|なぜ「仕事を辞めない」が出発点なのか
  3. 1週目|「情報集め」に徹する7日間
    1. 親の状態を「4つのメモ」にまとめる
    2. 親が入院中なら、病院の「相談室」に声をかける
    3. 親の住所地の「地域包括支援センター」に電話する
    4. 会社の就業規則で「両立支援制度」を確認する
  4. 2週目|「申請」と「職場」を動かす
    1. 要介護認定を申請する|結果まで原則30日、だから早く動く
    2. 職場に「事実」を伝える|隠すのがいちばんのリスク
    3. 介護休暇(年5日・時間単位)は「手続きの日」に使う
    4. 介護休業(93日・3回分割)は「介護する」ためではなく「体制を組む」ために取る
  5. 3〜4週目|あなたがいなくても回る「体制」を組む
    1. ケアマネジャーを決める|働く家族が見るべき3つの基準
    2. 家族の分担を決める|「キーパーソン1人+支える係」
    3. お金の管理を決める|介護費用は「親のお金」から
    4. 「自分がやること」と「プロに任せること」の線を引く
  6. 30日が過ぎたら|1〜3か月目に考えること
    1. 働き方の調整メニューを知っておく
    2. 施設の「見学と情報集め」は決める前に前倒しする
    3. お金の全体設計を見直す
    4. それでも両立が難しいと感じたら|「辞める」の前に選択肢を並べる
  7. よくある質問(FAQ)
    1. Q1. 遠距離です。親を呼び寄せたほうがいいですか?
    2. Q2. 要介護認定の結果が出る前に、サービスは使えませんか?
    3. Q3. 介護休業中、収入はどうなりますか?
    4. Q4. 会社に「うちには介護休業の制度はない」と言われました
    5. Q5. 親が「介護なんていらない」と拒否します
    6. Q6. 要介護1でも介護用ベッド(特殊寝台)は借りられますか?
  8. まとめ|30日後のあなたは「介護する人」ではなく「体制を組んだ人」
  9. 参考文献・出典

結論|最初の30日チェックリスト【まずこれだけ保存してください】

全体像を先に置きます。詳しいやり方は、このあと週ごとに解説します。

■1週目|情報集め(自分はまだ動かない・調べて電話するだけ)

  • 親の状態を4つのメモにまとめる(病状・お金・書類・連絡先)
  • 親が入院中なら、病院の「相談室(MSW)」に声をかける
  • 親の住所地の「地域包括支援センター」に電話する
  • 会社の就業規則で両立支援制度(介護休暇・介護休業など)を確認する

■2週目|申請と職場(公的な手続きと、職場への一報)

  • 要介護認定を申請する(結果まで原則30日かかるため早めに)
  • 直属の上司に「親の介護が始まりそう」と事実を伝える
  • 介護休暇(年5日・時間単位)を手続きや通院同行の日に使う
  • 介護休業(通算93日・3回分割)の使いどころを設計する

■3〜4週目|体制構築(チームを組む)

  • ケアマネジャーを決める
  • 家族の分担を決める(キーパーソン1人+支える係)
  • お金の管理方法を決める(介護費用は親のお金から)
  • 「自分がやること」と「プロに任せること」の線を引く

■30日のあいだに「やらなくていい」こと

  • 退職届を出すこと
  • 施設に入れるかどうかの結論を出すこと
  • 親を呼び寄せる・同居するという大きな決断

やることより、やらなくていいことのほうが大事かもしれません。大きな決断ほど、体制が整ってからのほうが正確に判断できます。

大前提|なぜ「仕事を辞めない」が出発点なのか

リストの前に、この記事の土台になる考え方をひとつだけ。「辞めるかどうか」で頭がいっぱいの今こそ、読んでほしい部分です。

総務省の就業構造基本調査(2022年)によると、介護・看護を理由に仕事を辞める人は年間約10万人います。また経済産業省は、働きながら介護する人(ビジネスケアラー)が2030年に約318万人にのぼると推計しています。あなたの状況は、決して特殊ではありません。

そのうえで、判断材料を3つ挙げます。

  • あなたの収入は「介護の原資」になる。介護保険サービスは1〜3割負担で使えますが、それでもお金はかかります。収入を手放すと、使える選択肢そのものが狭まります
  • 介護は年単位で続くことが多い。生命保険文化センターの調査(2024年度)では、介護期間の平均は約4年7か月。「数か月がんばれば終わる」前提で辞めると、設計が狂います
  • 辞める判断はいつでもできる。戻る判断は難しい。40〜50代の再就職で、同じ待遇に戻れるとは限りません

誤解しないでほしいのは、「辞める人が間違っている」という話ではないことです。介護のために働き方を変える選択が、その家庭にとっての最適解になる場合もあります。ここで言いたいのは順番の話です。辞めるかどうかは、体制を組み、介護の全体像が見えてから判断しても間に合います。30日で決めることではありません。

1週目|「情報集め」に徹する7日間

1週目のゴールは「介護を始めること」ではなく、状況を紙の上に見える化して、専門職とつながることです。自分の体はまだ動かさない。調べて、書いて、電話する。それだけです。

親の状態を「4つのメモ」にまとめる

これからあなたは、病院・役所・包括・ケアマネと、同じ説明を何度も繰り返すことになります。先にメモを作っておくと、毎回の説明が3分で済みます。書く場所はスマホのメモアプリで十分。

  • 体のメモ: 病名・入院先・主治医名・今できること/できないこと(歩行・食事・トイレ・もの忘れの程度)
  • お金のメモ: 親の年金月額(分かる範囲で)・預貯金の口座がどこにあるか・加入している保険
  • 書類のメモ: 介護保険被保険者証・健康保険証・マイナンバーカード・通帳・印鑑の保管場所
  • 人のメモ: きょうだい・親戚・近所の人・かかりつけ医など、関係者の連絡先

全部埋まらなくてかまいません。「どこが空欄か」が分かること自体が収穫です。空欄は、次に親本人へ確認することリストになります。

親が入院中なら、病院の「相談室」に声をかける

ここが、元・病院ソーシャルワーカーとしていちばん強くお伝えしたい部分です。

入院中は、介護の体制づくりの最大のチャンスです。理由は3つあります。

  • 親が安全な場所にいる。見守りの心配をせずに、あなたは準備に時間を使えます
  • 手続きが院内で進む。要介護認定の調査は入院中でも病院で受けられ、退院前には病院・ケアマネ・サービス事業者が集まる話し合い(退院前カンファレンス)を組めます
  • MSW(医療ソーシャルワーカー)という無料の相談職がいる。退院後の生活設計を一緒に考えるのが仕事で、相談にお金はかかりません

病棟の看護師さんに「退院後の生活のことを相談したいので、相談室につないでください」と伝えるだけで動き出します。多くの病院には「地域連携室」「患者サポートセンター」などの名前で相談窓口があります。

逆に、いちばん危ないのが「退院してから考えます」です。退院した瞬間から、認定なし・サービスなし・ケアマネなしの「素手の介護」が自宅で始まってしまいます。わたしがMSWとして退院調整をしていた頃、働きながらのご家族がつまずくのは、ほぼこのパターンでした。

わたしが担当の相談員として関わった実例をひとつ紹介します(実際にあった相談をもとに、特定できないよう細部を変えています)。

一人暮らしの親御さんが脳梗塞で倒れて入院し、退院後の一人暮らしが難しい体の状態になったケースです。それまでは「一人でもなんとかやれていた」生活が、一度の入院で一変しました。遠方で働く一人息子さんには、①独居を続けてサービスで支える ②同居する ③施設に入る、という3つの選択肢が同時に降ってきます。きょうだいはおらず、相談相手もいない。仕事と並行して、一人で決めることになりました。

このとき息子さんの有休がいちばん消えたのは、介護そのものではなく施設決めでした。見学、申し込み、入所時の持ち物の準備。働く家族の時間は、ここに集中して吸い込まれていきます。だからこそ、次の2つが効きます。

  • 見学は候補を2〜3か所に絞り、1日にまとめて回る(候補出しは病院の相談室やケアマネに手伝ってもらえます)
  • 申込書類と持ち物リストは施設から先にもらう(記入や買い物は昼休み・週末のスキマ時間に回せます)

この息子さんのケースは、このあとの章にも続きが出てきます。

親の住所地の「地域包括支援センター」に電話する

親が入院していない場合(あるいは退院がまだ先の場合)の第一窓口はここです。地域包括支援センターは、高齢者の暮らしに関する「よろず相談窓口」として市区町村が設置している機関で、全国に約5,400か所あります。相談は無料です。

地域包括支援センターで働いていた立場から言わせてください。電話のハードルは、あなたが思っているより低いです。「相談がまとまってから電話しよう」と考える必要はありません。実際の電話は、こんな一言で始まります。

「離れて住む親のことで相談です。先週入院して、退院後に介護が必要になりそうなんですが、何から始めればいいか分からなくて

これで通じます。むしろ「何から始めればいいか分からない」段階の相談こそ、包括の本業です。注意点はひとつだけ。担当は「あなた」ではなく「親」の住所地の包括です。「(親の市区町村名) 地域包括支援センター」で検索するか、親の市区町村の高齢福祉課に電話すれば教えてもらえます。

▶ あわせて読みたい:地域包括支援センターとは?相談できること・使い方・探し方

会社の就業規則で「両立支援制度」を確認する

1週目の残り時間で、社内の制度を調べておきます。見るのは就業規則の「育児・介護休業規程」です。イントラネットか、人事・総務への問い合わせで確認できます。

チェックするのは次の4点です。

  • 介護休暇(対象家族1人につき年5日・時間単位で取れるか)
  • 介護休業(申出の書式・提出先・締切)
  • 短時間勤務・時差出勤・残業免除などの働き方メニュー
  • 会社独自の上乗せ制度(法定より手厚い会社もあります)

ここで知っておいてほしいことがあります。2025年4月の育児・介護休業法改正で、会社側の義務が変わりました。従業員から「介護に直面した」との申出を受けた会社には、制度の個別説明と意向確認が義務づけられています(出典: 厚生労働省・育児・介護休業法改正)。「言い出しにくい」の壁は、法律の側からも下げられています。

2週目|「申請」と「職場」を動かす

2週目のゴールは2つ。公的な時計(要介護認定)を回し始めることと、職場に一報を入れることです。

要介護認定を申請する|結果まで原則30日、だから早く動く

介護保険サービスは、要介護(要支援)認定を受けてはじめて1〜3割負担で使えます。そして申請から結果通知までは原則30日以内とされています(出典: 厚生労働省「介護保険制度の概要」)。つまり、今日申請しても結果は約1か月後。この待ち時間があるから、初週〜2週目の申請が効くのです。

働く家族が押さえるべきポイントは3つです。

  • 入院中でも申請できます。認定調査は病状が安定してから病院で受けられます
  • 申請の代行を頼めます。地域包括支援センターや居宅介護支援事業所が申請を代行できるため、平日に役所へ行けなくても進められます
  • 認定の効力は申請日にさかのぼります。結果が出る前でも、暫定的にサービス利用を始められる仕組みがあります

窓口・必要書類・認定調査で軽く判定されないための準備は、こちらの記事に一本にまとめてあります。

▶ あわせて読みたい:介護保険の申請から要介護認定までの完全ガイド

職場に「事実」を伝える|隠すのがいちばんのリスク

「迷惑をかけるから、ギリギリまで黙っておこう」。この気持ちはよく分かりますが、おすすめしません。突発の呼び出しで急に休む日が続いてから事情を明かすより、先に事実を共有しておくほうが、職場もあなたも動きやすくなるからです。

伝えるのは直属の上司に、次の3点セットで足ります。

  • 状況: 「親が入院して、退院後に介護が必要になりそうです」
  • 当面の影響: 「今月は手続きのため、半日単位の休みを数回いただくかもしれません」
  • 相談: 「介護休暇や介護休業の制度について、人事に確認しながら進めたいです」

介護の詳細や家庭の事情まで話す必要はありません。伝えるのは「業務にどう影響しうるか」だけ。前述のとおり、申出を受けた会社側には制度の個別説明と意向確認の義務があります。あなたが一報を入れることが、制度のスイッチを押す行為でもあるのです。

介護休暇(年5日・時間単位)は「手続きの日」に使う

介護休暇は、対象家族1人につき年5日(対象家族が2人以上なら年10日)、しかも時間単位で取れる休みです(出典: 育児・介護休業法)。2025年4月の改正で、勤続6か月未満の従業員を労使協定で除外する仕組みも廃止されました。

5日と聞くと少なく感じますが、使いどころを「介護そのもの」ではなく「体制づくりの手続き」に絞ると、かなり戦えます。

  • 要介護認定の申請・認定調査の立ち会い(半日)
  • 退院前カンファレンスへの出席(2〜3時間)
  • ケアマネジャーとの契約・サービス担当者会議(1〜2時間)
  • 主治医からの病状説明への同席(1時間)

時間単位で取れることが、働く家族には効きます。「丸1日休まないと何もできない」わけではありません。

介護休業(93日・3回分割)は「介護する」ためではなく「体制を組む」ために取る

ここが、この記事でいちばん伝えたい制度の話です。

介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限に分割して取れる休業です。休業開始予定日の2週間前までに、書面などで会社に申し出ます。雇用保険の被保険者で一定の要件を満たせば、介護休業給付金(休業開始時の賃金の67%)が支給されます(要件の詳細はハローワークまたは人事に確認を。出典: 厚生労働省・ハローワーク「介護休業給付」)。

93日という日数を見て、「93日間、自分が介護すればいいのか」と考えてしまう方がいます。これは危険な誤解です。93日を自分の介護労働に使うと、94日目に何も残りません。介護は平均で4年半ほど続きます。93日で終わる介護のほうが少ないのです。

そうではなく、93日は「体制づくりの工事期間」として設計します。分割3回の使い方の一例です。

  • 1回目(例: 2週間): 初動期。認定申請・ケアマネ決定・サービス開始の立ち上げに使う
  • 2回目(例: 2〜4週間): 転機のとき。退院直後の在宅移行、状態悪化時の体制組み直し、施設入所の準備など
  • 3回目(残り): 最終盤のために温存しておく。看取りの時期に親のそばにいるための日数

「取れる日数を最初に使い切らない」。これが、長距離戦としての介護休業の使い方です。なお、勤続1年未満の方は労使協定により対象外となっている場合があるため、就業規則で確認してください。

介護休業・介護休暇を含む4つの制度の詳しい要件と手続きは、こちらにまとめてあります。

▶ あわせて読みたい:「介護離職」を防ぐ4つの制度

現場のひとこと: 介護休業を「フルタイム介護の93日」にしてしまった家族を、わたしは現場で何人も見てきました。休業明け、介護は続いているのに日数はもうない。制度が悪いのではなく、使い方の設計図が知られていないのだと思います。93日は「工事期間」。完成させるのは、あなた抜きでも回る体制です。

3〜4週目|あなたがいなくても回る「体制」を組む

3〜4週目のゴールは、「人」「家族」「お金」の3つの役割分担を決めることです。ここまで来ると、介護は「あなたが背負うもの」から「チームで回すもの」に変わり始めます。

ケアマネジャーを決める|働く家族が見るべき3つの基準

要介護1以上の認定が出そうなら、居宅介護支援事業所のケアマネジャーと契約します。要支援の場合、ケアプラン作成の窓口は地域包括支援センターです。候補は地域包括支援センターの事業所リストや、入院中なら病院のMSWからの紹介で探せます。

現役のケアマネとして、働く家族にすすめたい選び方の基準は3つです。

  • 連絡手段が合うか: 日中に電話へ出られないあなたにとって、メールやSMSなど「非同期の連絡」に応じてくれるかは死活問題です。最初の面談で率直に聞いてかまいません
  • 仕事への理解があるか: 「平日昼間に来てください」ばかりのケアマネだと、両立は苦しくなります。担当者会議の日程などをあなたの勤務に配慮して組んでくれるか
  • 事業所の体制: 担当者が不在のときに事業所内で対応が引き継がれるか

合わないと感じたら、あとから変更もできます。選び方・変え方の詳細はこちらへ。

▶ あわせて読みたい:ケアマネジャーの選び方・変え方

1週目の章で紹介した、脳梗塞で入院した親御さんと遠方の息子さんのケースには続きがあります。息子さんは、遠方に住んだままでした。わたしは担当の相談員として、息子さんが電話に出られる時間帯を見計らい、こちらから電話をかけて意向を確認する形で調整を進めました。息子さんが毎回駆けつけたわけではありません。

遠距離介護の成否を分けるのは「通う回数」ではなく、現地の専門職と関係ができているかです。連絡の取り方さえ合意できれば、意思決定のかなりの部分は電話で回ります。ケアマネ選びで「連絡手段が合うか」を最初に確認してほしいのは、このためです。

家族の分担を決める|「キーパーソン1人+支える係」

きょうだいがいる場合、早い段階で30分でいいので家族で話す場を持ってください。決めることはシンプルです。

  • キーパーソンを1人決める: 病院・ケアマネからの連絡窓口は1人に集約します。「全員に連絡」は、現場が混乱するいちばんの原因です
  • 支える係を分ける: 近くに住む人は駆けつけ担当、遠くの人はお金の管理や書類作成の担当、というように「距離に応じた分担」にします
  • 情報はグループで共有する: 家族のグループLINEなどに、ケアマネからの報告や決定事項を流す場を作ります

「言い出した人が全部やる」状態を防ぐのが目的です。切り出し方や、きょうだい間で揉めやすい論点の整理はこちらの記事が使えます。

▶ あわせて読みたい:親の施設入居、どう切り出す?家族会議の進め方

お金の管理を決める|介護費用は「親のお金」から

原則をひとつだけ覚えてください。介護費用は親の年金・預貯金から払う。あなたの家計から出し始めると、あなたの老後資金と子どもの教育費が削られ、介護が長期化したときに共倒れします。

3〜4週目にやることは3つです。

  • 親の年金月額と預貯金のおおよその総額を把握する(1週目の「お金のメモ」の空欄を埋める)
  • 介護費用の支払い口座と、管理する人(キーパーソンまたはお金担当)を決める
  • 自己負担が高くなったときに戻ってくる高額介護サービス費の存在を知っておく

在宅介護で実際にいくらかかるのかの目安と、負担を抑える制度は、それぞれ別記事で詳しく計算しています。

▶ あわせて読みたい:在宅介護にかかる月額費用シミュレーション

▶ あわせて読みたい:高額介護サービス費とは

「自分がやること」と「プロに任せること」の線を引く

体制づくりの仕上げは、線引きです。紙に2列書いてみてください。

あなたにしかできないこと(残す)

  • 親と話すこと・気持ちを聞くこと
  • 治療やお金に関する意思決定
  • 契約・手続きなどの書類仕事
  • ケアマネへの要望出し(チームの「監督」役)

プロに任せられること(手放す)

  • 入浴・排泄などの身体介護 → 訪問介護(ヘルパー)
  • 日中の見守り・食事・機能訓練 → デイサービス
  • 買い物・調理・掃除の一部 → 訪問介護の生活援助や配食サービス
  • 家族が休むための宿泊 → ショートステイ

罪悪感を持つ方が多いのですが、順番は逆です。身体介護をプロに手放すから、あなたは「子ども」として親に向き合う時間を残せます。なお、ヘルパーには頼めること・頼めないことの線引きがあるため、そこは事前に知っておくと計画が立てやすくなります。

▶ あわせて読みたい:訪問介護とデイサービスの違い・使い分け完全ガイド

30日が過ぎたら|1〜3か月目に考えること

30日で体制の骨組みができたら、次は「長く続ける」ための調整に入ります。ここは急がなくてかまいません。

働き方の調整メニューを知っておく

介護休業・介護休暇のほかにも、育児・介護休業法には働きながら使える仕組みがあります(出典: 厚生労働省・育児・介護休業法)。

  • 所定外労働の制限(残業免除): 請求すれば残業が免除されます(1回の請求は1か月以上1年以内の期間。回数制限なく、介護が終わるまで繰り返し請求できます)
  • 時間外労働・深夜業の制限: 月24時間・年150時間を超える時間外労働や、深夜勤務を制限できます
  • 選択的措置義務: 会社は短時間勤務・フレックスタイム・時差出勤・介護費用の助成のうち、いずれかの措置を用意する義務があります。利用開始から3年以上の間で2回以上使えます(介護費用の助成を除く)

「休む」だけが両立支援ではありません。毎日の勤務を介護仕様に少しだけ変えるメニューが法律に用意されています。

施設の「見学と情報集め」は決める前に前倒しする

1週目の章から続けて紹介してきた息子さんが、施設を選ぶ過程で漏らした言葉があります。「施設に入るイメージがなさすぎて、ピンとこない」

これが初動のストレスの正体だと、わたしは思っています。イメージがゼロのまま、期限のある決断だけを迫られる。パンフレットの文字だけで、親の暮らす場所を選ぶことになるからです。

だから、順番を分けてください。「施設に入れるかどうかの結論」は30日で出さなくていい。でも「見学と情報集め」は、決める前から始めていいのです。介護休暇の半日や面会のついでの30分で、近くの施設を1か所見ておくだけでも、いざ選ぶ場面での解像度が変わります。

この息子さんは、悩んだ末に施設を選び、仕事は辞めずに済みました。イメージがない状態から始まっても、情報を集めながら決めた選択は、その家庭の答えになります。

施設の種類ごとの違い(特養・老健・有料老人ホーム)は、見学前にこちらで予習できます。

▶ あわせて読みたい:特養・老健・有料老人ホームの違い完全ガイド

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お金の全体設計を見直す

介護が始まると、家計の前提が変わります。親の介護費用そのものは親のお金から払うのが原則ですが、あなた側にも交通費(特に遠距離)・通信費・急な休みによる収入の変動が生じます。

このタイミングで一度、次の3点を見直す価値があります。

  • 自分の保険(親の介護と自分の老後、両方を見据えた保障になっているか)
  • 緊急予備費(介護の突発出費に耐える現金があるか)
  • 遠距離介護の交通費の平準化(航空会社の介護割引などの活用)

家計全体をどう組み替えるかは、FP(ファイナンシャルプランナー)など第三者の視点を入れると整理が早くなります。

それでも両立が難しいと感じたら|「辞める」の前に選択肢を並べる

体制を組んでも、職場の実態として両立が苦しいケースはあります。そのときも、いきなり退職に飛ばず、選択肢を順番に並べてみてください。

  • 社内で部署・役割を変える(異動・降格願いも含めた相談)
  • 介護休業の残り日数で、体制をもう一段組み直す
  • 介護と両立しやすい条件(在宅勤務・フレックス・転勤なし)への転職を検討する
  • 収入と支出を再計算したうえで、離職を「選ぶ」

ポイントは、離職を「追い込まれて選ぶ」のではなく「比較して選ぶ」ことです。同じ辞めるでも、次の収入源と介護体制を設計してからの離職は、共倒れのリスクがまったく違います。

よくある質問(FAQ)

Q1. 遠距離です。親を呼び寄せたほうがいいですか?

まず「親の生活圏で体制を組む」ことから検討するのをおすすめします。高齢の親にとって、住み慣れた土地・かかりつけ医・近所の人間関係は、それ自体が介護資源です。呼び寄せは環境の変化が大きく、心身の調子を崩すきっかけになる場合もあります。遠距離のまま、現地の包括・ケアマネと組んで回している家族は珍しくありません。呼び寄せ・同居は、30日で決める事項ではなく、体制を組んだあとの比較検討事項です。

Q2. 要介護認定の結果が出る前に、サービスは使えませんか?

使える道があります。認定の効力は申請日にさかのぼるため、結果を待たずに暫定のケアプランでサービスを始める方法があります。ただし、見込みより軽い認定が出ると差額が自己負担になるリスクがあるため、ケアマネや地域包括支援センターと相談しながら進めてください。

Q3. 介護休業中、収入はどうなりますか?

雇用保険の介護休業給付金として、休業開始時の賃金の67%が支給されます(出典: ハローワーク「介護休業給付」)。注意点は2つ。申請は原則として会社経由で行うこと、そして育児休業と違い、介護休業中も社会保険料(健康保険・厚生年金)の免除はないことです。手取りベースの見込み額は、人事に確認しておくと安心です。

Q4. 会社に「うちには介護休業の制度はない」と言われました

介護休業・介護休暇は育児・介護休業法で定められた労働者の権利で、就業規則に記載がなくても、要件を満たせば申出できます。会社が申出を拒むことは原則できません。話が進まない場合は、都道府県労働局の「雇用環境・均等部(室)」が相談窓口になります(相談は無料)。

Q5. 親が「介護なんていらない」と拒否します

初期には本当によくあるご相談です。正面から「介護保険を使おう」と説得するより、入口を変えるほうが通りやすい場合があります。「病院の先生がすすめている」「わたしが心配だから、様子を見に来てもらうだけ」など、本人のプライドを守る言い方から始めてみてください。地域包括支援センターは本人が拒否している段階でも家族からの相談を受けられますし、訪問のしかたも一緒に考えてくれます。

Q6. 要介護1でも介護用ベッド(特殊寝台)は借りられますか?

介護保険でのレンタルは、原則として要介護2以上が対象です。ただし、要支援〜要介護1でも道が2つあります。

  • 例外給付: 主治医の意見などの条件がそろえば、軽度でも保険でレンタルできる場合があります。ただし手続きに手間がかかり、運用は市町村により異なるため、ケアマネや地域包括支援センターに確認してください
  • 自費レンタル: 保険適用時(1〜3割負担)よりは割高になりますが、軽度の方向けに通常の全額自費より抑えた自費レンタル料金を設定している事業所があります。急ぎでベッドが必要なときの現実的な選択肢です

まずはケアマネか福祉用具事業所に「要介護1だけどベッドを使いたい」と、そのまま相談してみてください。

まとめ|30日後のあなたは「介護する人」ではなく「体制を組んだ人」

最後に、この記事で持ち帰ってほしいことを3行だけ。

  • 最初の30日でやるのは、「自分で介護する」準備ではなく「介護の体制を組む」準備
  • 順番は「1週目=情報集め → 2週目=申請と職場 → 3〜4週目=体制構築」。大きな決断(退職・施設・同居)は30日の外に置く
  • 介護休業の93日は「工事期間」。あなた抜きでも回る体制を作るために、分割して使う

今日の次の一歩は、電話1本です。親が入院中なら病院の相談室へ。在宅なら、親の住所地の地域包括支援センターへ。「何から始めればいいか分からなくて」——その一言から、体制づくりは始まります。

あなたの仕事も、あなたの生活も、介護と同じくらい大切なものです。ひとりで抱えず、チームで行きましょう。

参考文献・出典

※本記事は一般的な制度解説と筆者の現場経験に基づくものであり、個別のケースについては各窓口(市区町村・地域包括支援センター・勤務先・労働局)にご確認ください。

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