オールラウンド社会福祉士のむむぶどうです。
ここ数年、現場で確実に増えているのが「親の介護で会社を辞めようか迷っている」という40代・50代からのご相談です。
そして辞めた方の多くが、後になってこう言います。
「もっと早く制度を知っていれば、辞めずに済んだかもしれない」
本記事は感動論や精神論を一切抜きにして、辞める前に絶対に知っておくべき4つの制度と、職場での具体的な動き方だけをまとめます。
賢く制度をフル活用して乗り切るための実務ガイドとして、最後まで読んでみてください。
※制度は2026年5月時点の情報です。最新の詳細は厚生労働省・お住まいの市区町村・ハローワークでご確認ください。
- 介護離職は年間約10万人、辞めた人の多くが後悔している
- 介護離職のリアルなコスト(数字で見る損失)
- 【制度①】介護休業:通算93日まで、3回に分割できる
- 【制度②】介護休業給付金:賃金の67%が支給される
- 【制度③】介護休暇:年5日(家族2人以上なら10日)、時間単位もOK
- 【制度④】短時間勤務・時差出勤・所定外労働の制限:3年間使える長期戦の武器
- 介護のための在宅勤務:2025年4月から「努力義務」に
- 会社(職場)への伝え方:いつ・誰に・どこまで話すか
- ケアマネ・地域包括との連携:93日をどう設計するか
- 辞める前に試すべきチェックリスト
- どうしても辞めるしかない場合の制度
- まとめ:「辞めない選択肢を知ってから決める」だけで結論は変わる
介護離職は年間約10万人、辞めた人の多くが後悔している
総務省の就業構造基本調査によると、介護・看護を理由に離職する人は概ね年間10万人前後で推移しています。直近の調査では10万6千人ほどで、5年前と比べてむしろ増えているという結果でした。
特徴は2つあります。
- 離職者の約8割が女性
- 年代別では50代が最多
つまり、まさに働き盛りの40〜50代に直撃する問題です。
相談屋として一番伝えたいのは、辞めた人の多くが「金銭的にも、精神的にも、思っていたより追い詰められる」と口を揃えるという事実です。
仕事を辞めれば介護に専念できて楽になる、というのは大きな誤解です。収入がなくなった上に介護がフルタイム化して、結果的に共倒れになるケースを何度も見てきました。
介護離職のリアルなコスト(数字で見る損失)
感情論を抜きにして、辞めた場合の経済的インパクトを整理します。
たとえば年収500万円の50歳の方が介護で離職し、その後も再就職できなかった場合、定年までの15年でざっくり生涯収入7,500万円が消えます。退職金や厚生年金への影響も含めれば、損失はさらに膨らみます。
仮に再就職できたとしても、
- 介護を抱えながらの転職活動で年収ダウンするケースが多い(目安として2〜3割減も珍しくありません)
- 国民健康保険・国民年金への切り替えで、毎月の負担が増える
- 厚生年金の加入期間が減るので、将来もらえる年金額も下がる
という「三重苦」が待っています。
辞めるかどうかは個人の自由ですが、「辞めると何が失われるか」を数字で把握した上で判断する人と、感情だけで判断する人とでは、5年後の生活がまったく違ってきます。
【制度①】介護休業:通算93日まで、3回に分割できる
ここから本題の制度です。
介護休業は、育児・介護休業法で定められた法定の休業制度です。要介護状態の家族1人につき、通算93日まで、3回まで分割して取得できます。
ポイントは以下の通り。
- 対象家族:配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫
- 「要介護状態」とは、概ね2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態(要介護認定を受けていなくても、条件を満たせば対象)
- 申出は原則として休業開始日の2週間前までに書面等で会社へ
- 雇用形態を問わず、有期雇用の方も一定要件を満たせば取得可能
93日という日数は、「自分で介護に専念する期間」というよりは、介護体制を整えるための準備期間と捉えるのが正解です。
最初に1回まとめて使うか、状況の節目(入院・退院、施設入所、看取り期など)で分割するか、設計が肝になります。
なお要介護認定の申請から結果が出るまでは原則1〜2か月かかります。詳しい流れは 要介護認定の流れ でご確認ください。
【制度②】介護休業給付金:賃金の67%が支給される
介護休業中は基本的に給与が出ない会社が多いですが、雇用保険から介護休業給付金が支給されます。
- 支給額:休業開始時の賃金日額×支給日数×67%
- 上限:月額の上限が定められています(毎年8月に改定。目安として概ね月34万円前後ですが、最新額はハローワークでご確認ください)
- 受給要件:介護休業開始日前2年間に、雇用保険の被保険者期間が12か月以上あること
- 申請:原則として会社経由でハローワークへ。介護休業終了日の翌日から2か月後の月末までに申請
そして見落とされがちな大事なポイント。
介護休業給付金は非課税です。
所得税も住民税もかかりません。さらに休業中は社会保険料の本人負担も発生しますが、給付金からの所得税控除がない分、手取りの目減りは想像より小さいケースが多いです。
【制度③】介護休暇:年5日(家族2人以上なら10日)、時間単位もOK
介護休業とは別に、介護休暇という短期の休暇制度があります。
- 対象家族1人なら年5日まで
- 対象家族2人以上なら年10日まで(「全体で10日」であって、1人ごとに5日ずつではありません)
- 1日単位だけでなく、時間単位でも取得可能
- 取得理由は介護に関する諸対応全般(通院付き添い、ケアマネとの打ち合わせ、施設見学、役所手続きなど)
通院付き添いや地域包括との面談で半日だけ抜けたい、というニーズに使えるのが介護休暇です。介護休業を温存しながら、日々の細かい対応はこちらで回す、という設計が現場では一般的です。
2025年4月の改正で、勤続6か月未満でも労使協定の例外を除き取得しやすくなり、より使いやすい制度になりました。
【制度④】短時間勤務・時差出勤・所定外労働の制限:3年間使える長期戦の武器
ここが一番効きます。
会社は、要介護状態の家族を介護する従業員に対して、連続する3年以上の期間、以下のいずれかの措置を講じることが義務付けられています(2回以上利用可能)。
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制
- 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤)
- 介護費用助成
さらに、所定外労働の制限(残業免除)、時間外労働の制限(月24時間・年150時間まで)、深夜業の制限(午後10時〜午前5時)も、本人が請求すれば会社は原則として認めなければなりません。
介護休業の93日は「ダッシュ区間」、短時間勤務等の3年間は「持久走区間」と考えるとイメージしやすいです。
介護は長期戦なので、後者をどう設計するかが、辞めずに乗り切る最大のカギになります。
介護のための在宅勤務:2025年4月から「努力義務」に
2025年4月施行の育児・介護休業法改正で、新しく加わったのが介護を理由とする在宅勤務(テレワーク)です。
- 介護を担う労働者がテレワークを選択できるよう、会社が措置を講じることが努力義務化されました
- 「義務」ではなく「努力義務」なので、すべての会社が必ず対応するわけではありません
- ただし会社には個別の周知・意向確認も義務付けられたため、まずは聞いてみる価値が大いにあります
通勤時間の往復2時間を、デイサービスの送り出しや夕方の見守りに充てられるだけで、生活はぐっと回りやすくなります。コロナ禍で在宅勤務インフラを整えた会社なら、交渉次第で十分実現可能なケースが増えています。
会社(職場)への伝え方:いつ・誰に・どこまで話すか
ここは制度の話ではなく、現場で20年見てきた「実務のコツ」です。
いつ伝えるか:要介護認定の申請を出すタイミング、もしくは入院・退院の見通しが立った時点が目安。「まだ大丈夫」と引き延ばすほど、職場の選択肢は狭くなります。
誰に伝えるか:直属の上司+人事担当者の2ルートが基本。上司だけだと制度の正確な情報が止まる場合があるので、人事にも必ず一報を。
どこまで話すか:診断名や家族関係の細かい事情までは話す必要はありません。「要介護状態の親がいて、今後◯◯の制度の利用を検討している」程度でOK。
初回面談で必ず押さえる3点はこちら。
- 現状の見立て:いつ頃から、どのくらいの頻度で介護対応が必要になりそうか
- 使いたい制度:介護休業・介護休暇・短時間勤務・在宅勤務など、希望する制度を明示
- 業務の引き継ぎ方針:誰に何を引き継ぐか、緊急対応時の連絡ルートをどうするか
引き継ぎ書は「業務一覧/優先度/関係者連絡先/緊急時対応手順」の4項目に絞れば、A4用紙2枚で十分です。完璧を目指さず、まず作ることを優先してください。
ケアマネ・地域包括との連携:93日をどう設計するか
ここからは本業の話です。
介護休業93日の使い方を、ケアマネと一緒に設計してください。多くの方が「とりあえず休んで様子を見る」と使ってしまい、肝心の介護体制が整わないまま93日を消化してしまいます。
ケアマネに伝えるべきことは3つ。
- あなたの就業状況(フルタイムか、短時間勤務に切り替えるか、在宅勤務が可能か)
- 介護休業の取得予定(いつから、何日くらい、目的は何か)
- 休業中に達成したいゴール(要介護認定の取得、サービスの契約、施設見学、デイサービス導入など)
ここを共有すると、ケアマネは「働き続ける前提のケアプラン」を作ってくれます。逆にここを伝えないと、家族介護を前提にしたプランになりがちで、結果的にあなたの負担が増えてしまいます。
担当のケアマネが合わないと感じたら変更も可能です。詳しくは ケアマネの選び方 で解説しています。
地域包括支援センターも同様で、平日日中に動ける人が家族にいない前提で動いてくれるよう、最初の面談で「フルタイム勤務を続けたい」と明言してください。これだけで提案の質が変わります。
辞める前に試すべきチェックリスト
辞表を出す前に、以下をすべて確認してください。1つでも「まだ」があるなら、辞めるのは早すぎます。
- [ ] 要介護認定の申請を出した(または結果を受け取った)
- [ ] ケアマネと契約し、ケアプランを作成してもらった
- [ ] 介護休業・介護休暇・短時間勤務・在宅勤務、会社で使える制度をすべて人事に確認した
- [ ] 介護休業給付金の支給見込み額をハローワーク(または会社)に試算してもらった
- [ ] 家族(兄弟姉妹・配偶者)と役割分担を話し合った
- [ ] デイサービス・ショートステイ・訪問介護など、外部サービスの導入を検討した
- [ ] 施設入所も選択肢として情報収集した(特養・老健・有料老人ホーム)
「一人で抱え込んで辞める」が一番もったいない選択です。チェックリストを埋めながら、3〜6か月かけて判断してください。
どうしても辞めるしかない場合の制度
それでもやむを得ず離職する場合に備えて、知っておくべき制度をまとめます。
雇用保険の特定理由離職者:介護を理由に離職した場合、ハローワークで申告すれば「特定理由離職者」として認定される可能性があります。認定されると、自己都合退職の給付制限(原則2か月)がなくなり、失業給付を早く受け取れます。離職票の離職理由コードと、必要に応じて要介護者の主治医による証明書類が必要です。
健康保険の任意継続 vs 国民健康保険:退職後の健康保険は、2年間は会社の健保を任意継続するか、市区町村の国保に切り替えるかの2択。保険料を両方試算して、安い方を選んでください。
住民税の納付:住民税は前年所得に課税されるため、退職翌年は無収入でも請求が来ます。一括徴収か普通徴収か、退職時に選択が必要です。
高額療養費の世帯合算/高額医療・高額介護合算療養費:同じ健康保険の家族の医療費・介護費は、世帯単位で合算して上限超過分の払い戻しを受けられる制度があります。詳しい仕組みは 医療費控除と介護費用の完全ガイド もあわせてご確認ください。
退職前に市区町村と健康保険組合に必ず一度問い合わせてください。
まとめ:「辞めない選択肢を知ってから決める」だけで結論は変わる
ここまでお読みいただきありがとうございました。
最後にお伝えしたいのは、介護で会社を辞めるかどうかは、制度を全部知ってから決めても遅くないということです。
- ✅ 介護休業93日(給付金67%・非課税)
- ✅ 介護休暇 年5〜10日(時間単位OK)
- ✅ 短時間勤務・時差出勤・残業免除 3年以上
- ✅ 介護を理由とする在宅勤務(2025年4月から努力義務)
- ✅ 会社からの個別周知・意向確認の義務化
これだけの武器が、すでに法律で用意されています。あとは使うかどうか、職場と交渉できるかどうかだけです。
相談屋として20年見てきて思うこと
介護離職を選ぶ人と、踏みとどまる人を分けるのは「情報量」だけです。性格でも、根性でも、家族の優しさでもなく、知っているか知らないかだけ。
そして知っている人ほど、辞めるという結論にはなかなかなりません。なぜなら、辞めない選択肢が想像以上に豊富だと気づくからです。
もし今、辞めるかどうか迷っている方がいたら、まずはこの記事のチェックリストを1つずつ埋めてみてください。それでも辞めるしかない、となったときは、それはもう立派な「制度をフル活用した上での合理的な判断」です。胸を張って次に進んでください。
最新の制度詳細は、厚生労働省「介護休業制度特設サイト」、お住まいの市区町村の介護保険担当課、最寄りのハローワーク、地域包括支援センターでご確認ください。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この記事を書いた人
むむぶどう🍇|社会福祉士・ケアマネジャー(20年)
訪問介護・居宅介護支援・障害福祉サービスを運営する株式会社の所長。1件1件、誠実に向き合うことを大切にしています(^o^)


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