「親の物忘れがひどくなってきた」「退院後の生活が不安」「そろそろ介護保険を使ったほうがいいのかも」——そう思ったとき、最初の関門になるのが介護保険の申請と要介護認定です。
結論から言うと、介護保険サービスは「申請して、認定を受けてからでないと、原則使えません」。ヘルパーもデイサービスも福祉用具のレンタルも、全部この申請が出発点です。
この記事では、現役社会福祉士20年・現役ケアマネジャーとして年間100件以上の認定申請に関わってきた立場から、申請の窓口・必要書類・認定までの流れ・結果に納得できないときの対応までを、ご家族目線で一気通貫に解説します。
※本記事は厚生労働省「介護保険制度の概要」(2024年度版)を出典に、現場運用を加えて書いています。お住まいの市町村で細部が異なる場合があります。
介護保険サービスを使うには「申請」が必要です
多くのご家族が誤解しているのが、「年齢がくれば自動で使える」と思っている点です。実際は本人または家族が市町村に申請し、要介護(要支援)認定を受けてはじめて、介護保険サービスが1〜3割負担で使えるようになります。
なぜ申請が必要なのか
介護保険は「どれくらい介護が必要か」を客観的に評価したうえで、必要度に応じた支給限度額の範囲内でサービスを使う制度だからです。やみくもにサービスを使えるわけではなく、「あなたは要介護2なので、月◯万円分まで保険が効きます」という枠が決まる仕組みになっています。
申請しないと損する3つのこと
- サービスが1〜3割負担で使えない(全額自己負担になる)
- 福祉用具のレンタルや住宅改修費の補助が受けられない
- ケアマネジャーが付かないため、相談先がないまま家族だけで抱え込みやすい
現場でよくあるのが、「まだ元気だから」と申請を先延ばしにして、転倒骨折や肺炎入院で一気に状態が悪化し、退院時に慌てて申請するパターンです。「ちょっと不安かも」の段階で申請しておくのが、結局いちばん家族の負担が軽くなります。
申請できる人・できない人
介護保険には「第1号被保険者」と「第2号被保険者」の2つの区分があり、それぞれ申請できる条件が違います。
第1号被保険者(65歳以上)
65歳の誕生日を迎えた人は、原因を問わず「介護が必要な状態」であれば申請可能です。脳梗塞、認知症、関節リウマチ、転倒骨折後のリハビリ中など、理由は問われません。
市町村から「介護保険被保険者証」(二つ折りのもの。色は市町村によって異なります)が郵送されているはずなので、まずは手元にあるか確認してください。
第2号被保険者(40〜64歳)
40〜64歳の医療保険加入者は、国が定めた「特定疾病16疾患」が原因で介護が必要になった場合のみ申請できます。交通事故や労災が原因の場合は対象外で、こちらは医療保険や労災保険、障害福祉サービスでの対応になります。
特定疾病16疾患(40〜64歳が申請する場合)
- がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病(パーキンソン病関連疾患)
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
※2024年時点の厚生労働省告示に基づきます。詳しくはお住まいの市町村介護保険課でご確認ください。
40歳未満は対象外(障害福祉サービスへ)
39歳以下の方は介護保険の対象外です。難病やケガで介護が必要になった場合は、障害福祉サービス(自立支援給付)での対応になります。
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申請の窓口と必要書類
申請窓口はお住まいの市町村役場の「介護保険課」です。ただし、ご本人や家族が直接行かなくても、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所が代行申請してくれます。
窓口は3つから選べる
- 市町村役場 介護保険課:本人・家族が直接申請する場合の正規窓口
- 地域包括支援センター:おおむね中学校区に1か所ある高齢者の総合相談窓口。代行申請OK
- 居宅介護支援事業所:ケアマネジャーがいる事業所。代行申請OK
初めての方には地域包括支援センターをおすすめします。無料で相談でき、申請から認定後のケアマネ選定までトータルでサポートしてくれます。
必要書類
- 要介護・要支援認定申請書(市町村窓口・ホームページから入手可)
- 介護保険被保険者証(65歳以上の方は二つ折りのもの。色は市町村によって異なります。65歳になると自動で郵送されています)
- 医療保険被保険者証(40〜64歳の方は健康保険証のコピー)
- マイナンバーがわかるもの
- 主治医の氏名・医療機関名がわかるメモ(主治医意見書の依頼に使う)
- 申請者(家族等)の本人確認書類
本人が窓口に行けないとき
寝たきり、認知症で外出が難しい、入院中など、本人が窓口に行けない場合は家族が代理で申請可能です。本人の同意があれば家族以外(親戚・知人等)でも申請できます。
家族が遠方の場合は、地域包括支援センターに電話で相談してみてください。郵送での申請に対応してくれる市町村も増えています。
申請から認定までの流れ(5ステップ)
申請から認定結果が出るまでは、原則30日以内と法律で定められています。ただし実態としては45〜60日かかることが多いので、その前提でスケジュールを組んでください。
①申請書提出
市町村窓口・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所のいずれかに、申請書と必要書類を提出します。提出した日が「申請日」になり、ここから認定の効力期間が決まります。
申請日以降のサービス利用は、認定が出れば申請日にさかのぼって保険給付の対象になります。「認定が出るまで待たないと使えない」わけではない点は覚えておいてください(詳しくは後述の「暫定ケアプラン」)。
②認定調査(訪問調査・74項目)
申請後1〜2週間で、市町村の認定調査員が本人宅(または入院先の病院)を訪問し、全国共通の調査票(基本調査74項目)に沿って心身の状態を聞き取り評価します。
調査項目は「歩行できるか」「自分で食事できるか」「着替えに介助が必要か」など、生活動作と認知機能の両面にわたります。所要時間は30〜60分程度です。
家族が同席する意味は大きい
認定調査では、本人が「できる」と答えても、実際は家族が手助けしている場面が必ずあります。家族が同席して、普段の困りごとを補足説明することで、より実態に近い評価につながります。
事前に「最近の困りごと」を箇条書きにしてメモしておくと、調査員に伝え漏れがありません。たとえば「夜中に起きてトイレに行こうとして転ぶことが月2回ある」「お風呂で立てなくなり、息子が抱えて出している」など、具体的に書きます。
③主治医意見書
市町村が主治医に意見書の作成を依頼します。主治医とは「ふだんかかっている医師」のことで、申請時にメモした医療機関に市町村から依頼書が届きます。
主治医意見書には、現在の病気・治療内容・日常生活への影響などが書かれます。費用は介護保険から支払われるので、家族の自己負担はありません。
主治医がいない場合は、市町村が指定する医師の診察を受けることになります。窓口で相談してください。
④一次判定(コンピューター判定)
認定調査の結果と主治医意見書をもとに、コンピューターが要介護度の目安を算出します。これを一次判定と呼びます。
ここでは「介護にどれくらい時間がかかるか(要介護認定等基準時間)」が計算され、それに応じて「要支援1〜要介護5」の7段階のいずれかに分類されます。
⑤二次判定(介護認定審査会)
市町村が設置する介護認定審査会(保健・医療・福祉の学識経験者で構成される合議体。おおむね5名。例:医師、看護師、社会福祉士、介護福祉士など)が、一次判定の結果と特記事項・主治医意見書を総合的に審査し、最終的な要介護度を決定します。
ここでは「コンピューター判定では現れにくい本人の事情」も加味されます。たとえば「認知症で介護への抵抗が強く、実態として介護時間が長い」といった事情は、特記事項や主治医意見書から読み取られて反映されます。
要介護度の段階と使えるサービス
認定結果は「要支援1・2」「要介護1〜5」の7段階に分かれます。それぞれで使えるサービスの種類と、保険が効く上限額(区分支給限度基準額)が違います。
以下は2024年度時点の単位数と、1単位=10円で換算した月額目安です。お住まいの地域区分(1単位10円〜11.40円)で実額は変動します。
要支援1・2(介護予防サービス中心)
- 要支援1:5,032単位(月50,320円目安)。週1〜2回の介護予防訪問・通所サービス中心
- 要支援2:10,531単位(月105,310円目安)。週2〜3回のサービスが目安
要支援は地域包括支援センターが介護予防ケアプランを作成します。「まだそこまで重くないけれど、放っておくと悪くなりそう」という段階で、悪化を予防する目的です。
要介護1〜5(介護給付サービス)
- 要介護1:16,765単位(月167,650円目安)。週3回程度のサービス利用が目安
- 要介護2:19,705単位(月197,050円目安)。週3〜4回のサービス利用が目安
- 要介護3:27,048単位(月270,480円目安)。週5〜6回のサービス、特養申込み可能ライン
- 要介護4:30,938単位(月309,380円目安)。ほぼ毎日のサービス、在宅と施設の分岐点
- 要介護5:36,217単位(月362,170円目安)。終日介護が必要、寝たきり・重度認知症想定
※自己負担は所得に応じて1〜3割。上記は10割換算の上限額です。
使えるサービスの種類
- 訪問系:訪問介護(ヘルパー)、訪問看護、訪問リハ、訪問入浴
- 通所系:デイサービス、デイケア(通所リハ)
- 短期滞在系:ショートステイ(短期入所生活介護・療養介護)
- 福祉用具:レンタル(車椅子・ベッド・歩行器など)、購入(ポータブルトイレ・入浴用品など)
- 住宅改修:手すり設置・段差解消・滑り止め床材など、原則20万円まで(要介護度が3段階以上重くなった場合や転居時はリセットあり)
- 施設系:特別養護老人ホーム(要介護3以上)、介護老人保健施設、グループホーム、有料老人ホームなど
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認定までの期間と、サービスを早く使う方法(暫定ケアプラン)
申請から認定結果が出るまで、原則30日とされていますが実態は45〜60日かかることが多い。退院直後など「待ってられない」状況のときには、暫定ケアプランという仕組みがあります。
市町村窓口の運用によっては、超過時の理由通知や進捗確認の問い合わせも受け付けてもらえます。「いつ結果が出るか」が気になる場合は、市町村介護保険課に進捗確認してみてください。
暫定ケアプランとは
認定結果が出る前に、「たぶんこの要介護度が出るだろう」という見込みでケアプランを立て、サービスを使い始める仕組みです。認定が出れば申請日にさかのぼって保険適用されます。
ただし、見込みより軽い認定が出た場合は、超過分が自己負担になるリスクがあります。だから「攻めすぎないプラン設計」が大事です。
暫定ケアプランの注意点
- 見込みの要介護度より軽い認定が出ると、枠を超えた分は全額自己負担になる
- 福祉用具レンタル・住宅改修は申請日からは適用されにくい(品目による)
- ケアマネと「最悪のケース」を想定したプランで組む
現場のひとこと(現役ケアマネ)
暫定ケアプランは「守りの設計」が大原則。家族の希望でフルに入れたい気持ちはわかりますが、認定が想定より軽く出たときに自己負担が膨らみます。私はいつも「想定より1段階下の認定が出ても破綻しない」プランで組みます。
福祉用具レンタルは申請日から使える
車椅子や介護ベッドなど、緊急性が高い福祉用具は申請日からレンタル開始できる場合があります。ケアマネジャーと福祉用具事業所に相談してください。
認定結果に納得できないときの対応
認定結果通知が届いたものの、「思ったより軽く出た」「実態を反映してくれていない」と感じることはよくあります。そんなときの選択肢は2つです。
方法①:区分変更申請
有効期間中(初回6か月・更新時12〜36か月)に本人の心身の状態が変わったことを理由に、再度認定調査を受ける手続きです。実務上はこちらのほうがハードルが低く、結果も早く出ます。
- 状態悪化や入院・退院をきっかけに申請するパターンが多い
- 申請から認定までは新規申請と同じくらい(45〜60日)
- 新しい認定結果は申請日にさかのぼって有効
方法②:不服申し立て(介護保険審査会)
都道府県に設置された「介護保険審査会」に、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に申し立てます。判定の手続きそのものが妥当だったかが審査されます。
- 結果が出るまで数か月かかることがある
- 「判定手続きの瑕疵」が問われるため、結果が変わる可能性は限定的
- 実務的には区分変更申請のほうが現実解
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申請から認定後までで家族がやるべきこと
①ケアマネジャーを選ぶ(要介護1以上)
認定が出たら、要介護1以上の方は居宅介護支援事業所からケアマネジャーを選びます。要支援1・2の方は地域包括支援センターが担当します。
ケアマネ選びは「合うか・合わないか」が一番大事です。市町村のリストや地域包括支援センターの紹介を活用しつつ、相性が悪ければ変更もできます。
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②住宅改修と福祉用具の検討
段差・手すり・床材・トイレ・浴室。住宅改修費は原則20万円まで保険適用(自己負担1〜3割。要介護度が3段階以上重くなった場合や転居時はリセットあり)。ケアマネと福祉用具専門相談員に相談しながら計画を立てます。
③費用感をつかんでおく
在宅介護の費用は要介護度・サービス内容で大きく変わります。事前に試算しておくと家計の見通しが立ちやすいです。
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④認知症が背景にある場合の対応
申請のきっかけが「物忘れ」「徘徊」「お金の管理ができない」だった場合、認知症が背景にある可能性があります。早期受診・早期介入で、本人の生活の質も家族の負担も大きく変わります。
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まとめ|申請を迷っている家族へ
20年現場にいて思うのは、「もっと早く申請しておけばよかった」と後悔する家族は山ほどいるけれど、「早く申請しすぎて損した」という家族は一人もいないということです。
申請は無料、認定調査も無料、結果として「非該当(自立)」が出ても何もデメリットはありません。「迷ったら申請」「気になったら地域包括支援センターに電話」。これが結局いちばん家族を守ります。
今日からできる3つのアクション
- 本人の介護保険被保険者証を探しておく(65歳以上なら家のどこかにあります)
- お住まいの地域包括支援センターの電話番号を調べる(市町村ホームページに地区別一覧あり)
- 普段の困りごとを箇条書きでメモしておく(認定調査・主治医面談で使う)
現場のひとこと(社会福祉士20年・現役ケアマネ)
介護保険の申請は「親を要介護者にする手続き」ではなく、「家族が抱え込まずに済むための切符」です。罪悪感を持つ必要は1ミリもありません。地域包括支援センターは皆さんの味方です。気軽に電話してください。
※本記事の制度内容は厚生労働省「介護保険制度の概要」(2024年度版)に基づいています。お住まいの市町村で運用が異なる場合や、制度改正の可能性があります。最新情報は必ず市町村介護保険課・地域包括支援センターでご確認ください。


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