親が福祉用具を「まだ大丈夫」と断ったら?説得より効く“種まき”の考え方

親が福祉用具を「まだ大丈夫」と断ったら?説得しない種まきの考え方のアイキャッチ 介護とお金

帰省したとき、廊下でふらつく親を見て「手すりをつけない?」「歩行器を借りてみない?」と切り出した。返ってきた言葉は「まだ大丈夫」。それ以上何も言えないまま、モヤモヤと家に帰ってきていませんか?

先に結論をお伝えします。断られても、失敗ではありません。むしろ福祉用具は「まだ大丈夫」と言われてからが本番です。無理に説得しなくていい。その代わり「必要になったらいつでも借りられる」という情報だけを、そっと置いて帰る。この記事は、その考え方と具体的なやり方の話です。

私は社会福祉士として福祉の現場に20年。現在はケアマネジャーとして、最初の相談でデイサービスの話をしている流れで、福祉用具の説明も一緒にすることがあります。そして、ご本人に「まだ大丈夫」と言われることも、もちろんあります。断られた後に何をしているか、現場の実際をお見せします。

「まだ大丈夫」と言われたら、説得するべき?

説得しなくて大丈夫です。理由は2つあります。

1つ目。説得して使わせた福祉用具は、使われないことが多いから。手すりも歩行器も、最後に使うかどうかを決めるのはご本人です。納得のないまま置かれた歩行器は、部屋の隅で物干し代わりになりがちです。

2つ目。福祉用具のレンタルは、思い立ったらすぐ動ける仕組みだから。「今日決めないと間に合わない」商品ではありません。だから今日の返事が「まだ大丈夫」でも、負けではないんです。詳しくは後半でお話ししますが、この「いつでも動ける」が、断られた家族の1番の味方になります。

まずは、親がなぜ断るのかを見ておきましょう。ここを誤解すると、次の一手を間違えます。

なぜ親は「まだ大丈夫」と断るの?

断る気持ちは、自然な反応です。頑固だからでも、家族の心配を軽んじているからでもありません。

考えてみてください。手すりや歩行器を受け入れることは、本人にとって「自分は支えが必要な体になった」と認めることと隣り合わせです。何十年も自分の足で歩き、家族を支えてきた人が、そう簡単に認められるでしょうか。

現場では、この気持ちをプライドとして尊重すべきものと考えます。「拒否された」「困った親だ」と捉えた瞬間に、話がこじれます。逆に「そう言いたくなりますよね」と受け止めれば、ドアは閉まりません。

あなた自身に置き換えると分かりやすいと思います。老眼鏡を家族に勧められたとき、素直に「ありがとう」と言えましたか?それの、もっと大きい版なんです。

勧めるタイミングは、早いほうがいい?遅いほうがいい?

実は、どちらにも落とし穴があります。

  • 早すぎると: 本人が「まだ大丈夫」と感じている段階なので、断られやすい
  • 遅すぎると: 転倒などの事故が起きて、けがをした後の導入になってしまう

つまり「本人が受け入れられて、かつ事故より前」という正解の幅は、意外と狭い。このバランスの見極めは、本人のプライドと安全性の両方を見る、専門職の仕事のひとつです。

だからこそ、家族に覚えておいてほしいことがあります。狭い正解を一発で当てようとしなくていい、ということです。早めに切り出して断られるのは、織り込み済みでいい。断られた後の動き方さえ知っていれば、早めの一声は無駄になりません。

その動き方が、次の「種まき」です。

断られたとき、現場では何と返している?

私が実際に使っている返しは、これだけです。

「そうですよね、将来必要になったらいつでも借りれますからね」

説得もしないし、否定もしません。「そうですよね」でご本人の気持ちをそのまま受け止めて、「いつでも借りれます」という情報だけを置いて、この話を終えます。

ポイントは3つあります。

  • 説得しない: 「でも危ないですから」と続けない。続けた瞬間、本人は防戦になる
  • 否定しない: 「まだ大丈夫」という自己認識に、こちらの評価をぶつけない
  • ドアを開けたままにする: 「いつでも」という言葉で、次に話しやすい状態を残す

ご家族がそのまま使うなら、こんな形になりませんか?

「そうだよね。じゃあ必要になったら、いつでも借りられるらしいから、そのときはまた言って」

一往復で終わります。気まずくならず、けんかにもならず、それでいて大事な情報は届いています。

「種まき」って、何の意味があるの?

この一言を、現場では種まきと考えています。狙いは2つです。

狙い1: 「そろそろかも」の瞬間に、思い出してもらう

人の体の変化は、本人が1番よく分かっています。ある日ふらついて、「そろそろかも」と本人が思う瞬間が来ます。そのとき、頭の中に「そういえば、いつでも借りれると言っていたな」という記憶があるかどうか。ここで種が芽を出します。

ゼロから調べ始めるのと、まいてあった種を思い出すのとでは、動き出すまでの距離が全然違います。

狙い2: 相談のハードルを下げておく

種まきのとき、私はもうひとつ添えることがあります。福祉用具の事業所さんはフットワークが軽い人が多く、相談したら翌日には持ってきてくれることが多い、という話です(詳しくは後の章で)。

「頼んだら大ごとになる」と思っていると、人は相談を先延ばしにします。「電話1本で、すぐ来てくれるらしい」と知っていれば、腰の重さが変わります。相談を、大ごとから小さな用事に変えておく。これが2つ目の狙いです。

「いつでも借りれる」は本当?

本当です。ここは制度の裏付けがあります。

介護保険の福祉用具レンタル(正式には「福祉用具貸与」)は、月額制のレンタルです。買い切りではないので、こういう動き方ができます。

  • 必要になったタイミングで借り始められる
  • 体に合わなければ、別の用具に変更できる
  • 要らなくなったら、返却できる

「今決めなくていい」「試して合わなければ戻せる」。種まきが成り立つのは、制度側にこの後戻りのきく仕組みがあるからなんです。買い切りの商品で「いつでも」とは言えません。

なお、手すり(据え置き型)や歩行器は、要支援など介護度が軽い方でも介護保険のレンタル対象になる種目です。一方で、介護認定をまだ受けていない場合は認定の申請から始まるなど、入口の手続きはあります。お金の話(月額の目安・買うタイプの用具・20万円の住宅改修枠)を含めた制度の入口は、シリーズ第1弾に全部まとめてあるので、そちらを読んでもらえますか?

▶ 第1弾: 福祉用具や手すりは買う前に誰に相談する?20万円の助成枠を逃さない「制度の入口」

▶ 関連記事: 介護保険の福祉用具レンタル完全ガイド|対象品目・自己負担・使えないときの対処法

必要になったら、どれくらいで届くの?

私の現場感覚では、福祉用具の事業所さんはフットワークが軽いところが多く、相談したら翌日には持ってきてくれることも多いです。「そろそろ手すりを」と朝に電話して、次の日には据え置き型の手すりが玄関に立っている。そういうスピード感で動いてくれる事業所さんが、実際に多いんです。

※ここは大事な注意です。「翌日」は全国共通の約束ではありません。地域や事業所、用具の在庫状況によって変わります。「思っているより早く動いてくれることが多い」くらいで受け取ってください。

それでも、この事実が意味することは大きいと思いませんか?家族が「まだ大丈夫」と言われて焦る理由の半分は、「いざという時に間に合わないのでは」という不安です。実際には、必要になってから動いても、多くの場合すぐ形になります。ただしこのスピード感は、介護認定があってケアマネジャーなど相談先がつながっている場合の話です。認定がまだなら申請から1か月ほどかかるので、だからこそ後の章の「家族だけで先に相談しておく」が効いてきます。そのうえで、今日、無理に説得しなくていいんです。

じゃあ、家族は今日なにをすればいい?

やることは3つだけです。

1. 本人に無理強いしない

今日の結論はもう出ています。「まだ大丈夫」、それでいい。次に帰省したとき、また同じ話を蒸し返して関係をすり減らすより、種まきの一言を置いておくほうが先につながります。

2. 種まきの一言を置く

「必要になったら、いつでも借りられるんだって。すぐ持ってきてくれるらしいよ」。この情報だけ、けんかにならない温度で渡しておきます。返事は要りません。種が芽を出すのは、まいた日ではなく、本人が「そろそろかも」と思う日です。

3. 「まだ早いかな」と思った今、家族だけで専門職に相談しておく

これが1番お勧めしたい行動です。相談のベストタイミングは、「まだ早いかな」と思ったときくらいです。本番が来てから調べ始めるのではなく、今のうちに相談先とつながっておく。

  • 介護認定をすでに受けているなら → 担当のケアマネジャーに「本人は乗り気じゃないけど、歩きが心配で」と伝えておく
  • 認定も何もない段階なら → お住まいの地域の地域包括支援センターへ。本人が同席しなくても、家族だけで相談できます

「本人が嫌がっているのに相談していいの?」と迷いませんか?いいんです。相談は導入の予約ではありません。状況を知っておいてもらうだけで、いざという時の初動が変わります。

▶ 関連記事: 地域包括支援センターとは?相談できること・使い方・探し方

▶ 関連記事: ケアマネジャーの選び方・変え方|「合わない」と感じた時の対処法

よくある質問(FAQ)

Q. 断られた話を、次に会ったときまた切り出してもいいですか?

同じ温度で蒸し返すのは、お勧めしません。「この前も言ったけど」で始まる話は、本人には説得の続きに聞こえます。

切り出し直すなら、きっかけは本人の変化です。ふらつきが増えた、外出を面倒がるようになった。そういうサインが見えたときに、「そういえば、借りるのはいつでもできるらしいよ」と軽く触れる程度にしてみませんか?種まきは、回数より温度です。

Q. 本人に内緒で、先に手すりを買って置いてもいいですか?

気持ちは分かりますが、お勧めしません。理由は2つです。

  • 納得のないまま置かれた用具は、使われないことが多い
  • 手すりは太さ・位置・高さが本人の体に合っていないと、かえって危ないことがある

据え置き型の手すりは介護保険のレンタルで試せる種目なので、買って驚かせるより、専門職に相談して本人込みで進めるほうが、結果的に早いことが多いです。買う前の注意点は第1弾にまとめています。

Q. 介護認定を受けていない段階で相談しても、意味がありますか?

あります。地域包括支援センターは、認定前の「ちょっと心配」の段階から使える窓口で、家族だけの相談もできます。介護認定の申請が要るのか、その前にできることがあるのか、という入口の交通整理から一緒に考えてくれます。

「まだ何も始まっていないのに相談なんて大げさかな」と思うくらいのときが、ちょうどいいタイミングなんです。

まとめ: 断られてからが本番

要点は3つです。

  • 「まだ大丈夫」は自然な反応。プライドは尊重するもので、説得の相手ではない
  • 断られたら「必要になったらいつでも借りれるからね」の種まき。レンタルは変更も返却もできる仕組みが支えてくれる
  • 家族は「まだ早いかな」と思った今、家族だけでケアマネジャーか地域包括支援センターに相談しておく

「まだ大丈夫」と言われた日は、何も進まなかった日ではありません。種をまけた日です。次に親の口から「そろそろ頼もうかな」と出てくるまで、ドアを開けて待ちませんか?

【この記事を書いた人】

むむぶどう。社会福祉士として福祉の現場に20年、現在はケアマネジャーとして働いています。最初の相談の場で福祉用具の説明をして、「まだ大丈夫」と返されることは今もあります。それでも早めに説明するのは、種まきになると知っているから。断られた家族の「これでよかったのかな」に応えたくて、この記事を書きました。

参考資料(一次資料)

※福祉用具貸与の対象種目・費用・介護度による条件など、制度の詳細はシリーズ第1弾で一次資料つきで解説しています。市区町村の運用で変わる部分は、お住まいの市区町村の介護保険担当課やケアマネジャーにご確認ください。


この記事を書いた人

むむぶどう
社会福祉士・ケアマネジャー。社会福祉士として福祉の現場に20年、介護施設・在宅サービスでご本人とご家族の支援に関わってきました。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。

▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou
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