こんにちは。社会福祉士のむむぶどう🍇です。
社会福祉士20年・現役ケアマネとして、これまでたくさんのご家族の「その日」に立ち会ってきました。デイサービスで働いていた頃もあります。今日は、制度の話ではありません。わたしが現場で経験した、ある一枚の写真の話をさせてください。
先に、この記事でいちばんお伝えしたいことを書きます。
元気なうちの、なんでもない笑顔の一枚を残しておいてください。それがいつか、ご家族にとってかけがえのない宝物になります。
「遺影の準備なんて、まだ早い」「縁起でもない」——そう思われるかもしれません。でも、その人の”今の表情”は、今しか残せません。そしてある年齢を過ぎると、笑顔で写真に写る機会は、少しずつ減っていくように感じます。
なぜわたしがそう感じているのか。ひとつの経験をお話しさせてください。
遺影の写真、いつ準備すればいい?
結論から言うと、「元気で、いい表情ができる今」がいちばんいいタイミングです。
遺影の写真は、亡くなったあとに慌てて探すご家族がとても多いものです。葬儀の打ち合わせで「お写真、ありますか?」と聞かれ、アルバムやスマホをひっくり返して探す——これが現実です。
そして、そこで見つかるのは、たいてい
- 何年も前の、若い頃の写真
- 集合写真から切り出した、少し不自然な一枚
- 証明写真のような、表情のない顔
だったりします。「もっといい笑顔の写真、なかったかな」と、あとで悔やまれるご家族を、わたしは何人も見てきました。
だからこそ、元気な今のうちに撮っておくことに意味があるのです。
年を重ねると、なぜ笑顔の写真が減るのか?
これは現場にいて、ずっと感じてきたことです。
若い頃は、旅行、行事、記念日——写真を撮る機会がいくらでもあります。ところが年齢を重ねると、
- 外出そのものが減る
- 「写真なんて恥ずかしい」と本人が嫌がる
- 家族も「わざわざ撮る」発想がなくなる
こうして、笑顔で写る機会が、本人も家族も気づかないうちに減っていきやすいのです(もちろん、いくつになっても写真がお好きな方もたくさんいます)。
そして、ご本人が体調を崩したり、表情が乏しくなってきたりしてから「そういえば最近の写真がない」と気づく。でも、そのときにはもう、自然な笑顔の一枚を撮るのが難しくなっていることが多いのです。
デイで撮った一枚が、その方の遺影になった話
ここからが、わたしがどうしてもお伝えしたい話です。
わたしがデイサービスで働いていた頃、レクリエーションを楽しむ利用者さんの笑顔を、よく写真に撮っていました。ゲームで盛り上がった瞬間、歌をうたっているとき、隣の人と笑い合っている場面。撮った写真は、プリントしてご本人にプレゼントしていました。ちょっとした喜んでもらいたいという、それだけの気持ちでした。
ある男性の利用者さんがいらっしゃいました。その方も、レクの時間にとてもいい表情を見せてくださる方で、わたしはその笑顔を一枚、写真に撮って、お渡ししました。
しばらくして、その方は亡くなりました。
わたしは相談員として、最後の利用料の請求のために、お宅へ伺うことになりました。仏壇に手を合わせようとしたそのとき——飾られていた遺影が、わたしがデイで撮った、あの一枚だったのです。
奥さまが、こうおっしゃいました。
「最近の主人の写真なんて、ないんですよ。こんな笑顔、なかなか見られなかった。これしかないと思って、この写真にしたんです」
わたしは、言葉が出ませんでした。
デイの職員として「撮った側」だったわたしが、相談員として「その一枚に再会する」。生と死をまたぐその瞬間に、福祉の仕事をしていたからこそ、立ち会うことになったのです。
正直に言うと、あのとき撮った写真が、こんな形で誰かの役に立つとは、思ってもいませんでした。ただ喜んでもらいたくて撮った、なんでもない一枚。それが、ご家族にとって最後に残る、いちばん大切な一枚になっていた。
この経験のあと、わたしはデイで写真を撮るとき、意識していろんな表情を撮るようになりました。笑った顔だけじゃなく、真剣な顔、ふとした横顔も。いつか、この一枚が誰かの宝物になるかもしれない——そう思うようになったからです。
では、家族は何をすればいい?
「うちも今のうちに撮っておこう」と思っていただけたなら、うれしいです。でも、身構える必要はまったくありません。特別な準備も、いりません。
よかったら、こんな工夫から始めてみてください。
スマホで、ふだんの表情を撮っておく
わざわざ写真館に行かなくても大丈夫です。スマホで十分です。ごはんを食べているとき、テレビを見て笑ったとき、孫と話しているとき。かしこまった一枚より、そういう自然な表情のほうが、あとで見返したときに「その人らしい」と感じられます。
「はい、こっち向いて」より、会話しながら
「写真撮るよ」と身構えさせると、緊張した顔になりがちです。話しかけて、笑った瞬間にそっと撮る。そのほうが、ずっといい表情が残ります。
一枚ではなく、複数枚
いい表情は、何枚も撮ったなかの一枚に宿ります。連写でも構いません。あとから選べるように、数多く撮っておくと安心です。
気に入った一枚は、プリントして残す
スマホの中だけだと、いざというときに探せなかったり、機種変更で消えてしまったりします。気に入った一枚は、プリントして手元に残しておく。これだけで、ご家族がずっと救われます。
遺影は、生前に準備してもいい
「遺影を生きているうちに用意するなんて、縁起でもない」と感じる方もいらっしゃると思います。その気持ちは、とても自然なものです。無理にとは言いません。
ただ、最近は「生前遺影」として、元気なうちに気に入った写真を選んで用意しておく方も増えています。写真館で撮る方もいれば、ふだんのスナップから選んでおく方もいます。
「遺影は正面を向いた、かしこまった写真でないといけない」と思われがちですが、そんな決まりはありません。横顔でも、スナップの一枚でも大丈夫です。背景を整えたり、まわりの人を消したりといった加工は、葬儀社が対応してくれることがほとんどです。
大切なのは、ご本人が「この写真がいいな」と思える一枚を、自分で選べること。これは、残されるご家族の「どれにしよう」という迷いや後悔を、そっと減らしてくれます。
「もしよかったら、お気に入りの一枚、決めておかない?」——そんな軽い声かけから始めてみるのも、ひとつの方法です。
もちろん、実際にどの写真を使うか、どう仕上げるかを決めるのは、そのときのご家族や葬儀社です。今できるのは、「選びやすいように、いい表情の候補を残しておく」——それだけで十分です。
エンディングノートに、一枚だけ選んでおく
もしエンディングノートを準備されているなら、「気に入っている写真」を一枚、貼っておくか、場所をメモしておくのもおすすめです。
「もしものときは、この写真を使ってね」——たった一行、一枚。それがあるだけで、ご家族は迷わずにすみます。
エンディングノートは、財産や連絡先だけのものではありません。「自分らしくいられた一枚」を選んで残すことも、りっぱな終活のひとつだと、わたしは思っています。
なお、国も「人生会議(ACP:もしものときに備えて、望む医療やケアについて前もって話し合っておくこと)」を呼びかけています(厚生労働省)。写真を一枚選んでおくことも、そうした「これからを考える」入口のひとつになるかもしれません。
まとめ|なんでもない一枚が、いつか宝物になる
最後に、もう一度だけお伝えします。
元気なうちの、なんでもない笑顔の一枚を。それがいつか、誰かの宝物になります。
- 笑顔で写真に写る機会は、年を重ねるほど減っていく
- 遺影は亡くなったあとに慌てて探すご家族が多い
- だから、いい表情ができる「今」に撮っておく意味がある
- スマホでOK。自然な表情を、複数枚、気に入った一枚はプリントで
- 生前に遺影を準備してもいいし、エンディングノートに一枚選んでおくのもいい
わたしがデイで撮った一枚は、まさか遺影になるなんて思っていませんでした。でも、あの奥さまの「これしかないと思って」という言葉を、わたしは今も忘れられません。
あなたの大切な人の、なんでもない笑顔。よかったら今日、一枚だけ撮ってみてください。
【現場のひとこと】
写真は、その人が生きていたことの証です。上手に撮ろうとしなくていい。ただ「笑ってるね」と声をかけて、そっとシャッターを押す。それだけで、いつか誰かを救う一枚になります。
【この記事を書いた人】 むむぶどう🍇/社会福祉士20年・現役ケアマネジャー。デイサービスで働いていた経験もあり、たくさんのご家族の「その日」に立ち会ってきました。制度の話だけでなく、現場でしか出会えない「本当のこと」を、介護するご家族に向けてお届けしています。


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