一人暮らしの親に電話をかけて、出ない。それだけで、その日はずっと落ち着かない。自分が一人で暮らしていて、「家で倒れたら、誰が気づくんだろう」と考えたことがある。そんな方に向けて書いています。
先に結論です。見守りは、家族やサービスが用意するものだけではありません。一人暮らしの本人が、自分でつくれます。 やることは3つ。毎日決まった時間にカーテンを開け閉めする。信頼できるご近所さん数名に、家族の連絡先を渡しておく。出かけるときは一言伝える。この記事では、自分から「見つけてもらえる仕組み」を作っておくことを「助けられ上手」と呼びます。
地域包括支援センターにいた頃、講演で「助けられ上手」という考え方を学び、それを自分で形にしている一人暮らしの方にも出会いました。私は社会福祉士として福祉の現場に20年、現在はケアマネジャーとして働いています。
「助けられ上手」って、どういうこと?
困ったときに周りの助けを得られるよう、自分から動いておくことです。見守りでいえば、自分から「見つけてもらえる仕組み」を作っておくこと。周りが気づいて動ける状態を、先に用意しておきます。
「助けられ上手」は、住民流福祉総合研究所の木原孝久氏が提案してきた考え方。資料『「助けられ力」を鍛える』では、自助を「自分と身内の力だけで問題を解決すること」ではなく、周りの助けも得ながら自分の問題を解決することとして捉え直しています。
私が講演で学んだのは、こういうことでした。
- 助けて、と自分から言う
- 世話焼きさんを探す
- 自分の行動次第で、自分の身を守り、地域で暮らしていける
見守りと聞くと、家族が用意するカメラやサービスを思い浮かべませんか。それも見守りの形の1つです。ただ、本人の側からもつくれます。その作り方を、順に書いていきます。
一人暮らしに「見つけてもらえる仕組み」は、なぜ要る?
見つかるのが遅れる現場を、実際に見てきました。
これまで、孤独死の方を発見したことが何度もあります。家族がたまたま訪ねたら、転倒して動けなくなっていて、数日が経っていたケースもありました。
仕組みがない暮らしでは、異変に気づくきっかけが「家族がたまたま訪ねたとき」に頼ることになります。対策をしないまま一人で暮らしている方は、本当に多いんです。現場の感覚では、むしろそちらのほうが多い。

「うちの親は、まだ元気だから」と思いましたか。このあと紹介する方が話していた理由は、「1人だから」でした。
あなたやご家族の暮らしに、異変に気づいてくれる人の目はありますか?
助けられ上手な人は、何をしていた?
包括にいた頃に出会った、80代で一人暮らしの方の話です。
- 家族は、車で30分くらいのところに住んでいる
- ふだんから、ご近所との付き合いがある
この方は、毎朝起きると決まった時間に、道路側から見える部屋のカーテンを開けていました。夕方の決まった時間には閉める。これを日課にしていました。
そのうえで、ご近所さんにお願いしていたことがあります。カーテンが変な時間に開いていたり、閉まっていたりしたら、異常事態として家族に電話してほしい。信頼できるご近所さん数名には、家族の連絡先を自分から伝えてありました。
本人の言葉は、こうです。
「1人だから、何かあった時に見つけてもらえるように、そうしている」
話を聞いて、うまくやっているなと思いました。この仕組みの材料は、カーテン1枚と、ご近所さんとのつながりです。
同じことを、自分や親の暮らしに置きかえられそうですか?
見つけてもらえる仕組みは、どんな順番で作る?
この方のやり方を分解すると、3つの手順になります。

1. 毎日の「元気のサイン」を決める(カーテンの開け閉め)
2. 信頼できるご近所さん数名に、家族の連絡先を自分で渡す
3. 出かけるときは一言伝える
3つはセットです。カーテンだけでは、異変に気づいた人が家族に連絡できません。連絡先だけでは、異変に気づくきっかけがありません。一言がないと、留守の日にご近所さんが慌てることになります。
どの手順なら、今週のうちに始められそうですか?
手順1 毎日の「元気のサイン」は、どう決める?
決まった時間に、外から見える形で出すサインにします。カーテンの方のやり方には、3つの条件がそろっていました。
- 外から見える: 道路側から見える部屋のカーテン
- 時間が決まっている: 毎朝起きて決まった時間に開け、夕方の決まった時間に閉める
- 毎日やる: 日課にしている
ご近所さんから見ると、「いつもの時間に、いつもの状態」が元気のしるしです。時間が決まっているからこそ、ずれたときに「あれ?」と気づけます。
お金はかかりません。朝と夕方の2回、カーテンを動かすだけです。まずは、道路側から見える窓を1つ選んで、何時に開けて何時に閉めるかを決めてみませんか。
手順2 家族の連絡先は、誰にどう渡す?
信頼できるご近所さん数名に、本人が自分から伝えます。 カーテンの方がしていたことを分けると、こうなります。
- 誰に: 信頼できるご近所さん。1人ではなく数名
- 何を: 家族の連絡先
- 何を頼む: 「カーテンが変な時間に開いていたり閉まっていたりしたら、家族に電話してほしい」
- 誰から: 本人から
1人だけだと、その人が留守の日に気づく人がいなくなります。数名にしておくと、誰かが気づける日が増えます。
この方は、家族に頼んで回ってもらうのではなく、自分から伝えていました。助けて、と自分から言うこと。講演で聞いた「助けられ上手」を、この方は日課の中でやっていました。
家族の連絡先を伝えられるご近所さんの顔が、何人浮かびますか?
手順3 出かけるとき、なぜ一言が要る?
言い忘れると、ご近所さんが家族に電話します。 迷惑に見えて、実は仕組みがきちんと動いている証拠です。
私が包括にいた約2年の間、この方に緊急事態はありませんでした。代わりに聞いたのが、空振りの電話の話です。
出かけることをご近所さんに言い忘れて、カーテンが閉まりっぱなしになっていた。心配したご近所さんが家族に連絡して、「ご迷惑をかけちゃった」。そんな話を、笑い話として聞いたことがあります。
空振りでも、ご近所さんはカーテンを見て、家族に電話をかけました。この仕組みがあれば必ず見つかる、とは言えません。それでも、いつもと違えば電話がかかる状態には、なっていました。
だからこそ、「出かけるときは一言」まで含めて仕組みです。留守を伝えておけば、カーテンが閉まったままでも、ご近所さんは慌てずに済みやすくなります。通院や旅行で家を空ける日、誰に一言かけますか?
家族から親に、どう切り出す?
「見張りたい」ではなく、「見つけてもらえるように」と伝えます。
家族が「心配だから」と切り出すと、「大丈夫だから」と返されること、ありませんか。カーテンの方の言葉なら、その返事になりにくいんです。理由を体調ではなく、「1人だから」という暮らしの形に置いているので、元気かどうかの言い合いになりにくいです。
切り出しの一言は、たとえばこうです。
- 「1人暮らしだから、何かあったときに見つけてもらえるように、朝と夕方にカーテンを開け閉めする時間を決めておかない?」
- 「近所の〇〇さんに、うちの連絡先を伝えておいてもらえる?」
手順2は、家族が代わりにご近所を回るより、本人が自分から伝える形にします。家族の役割は、ご近所さんからの電話を受ける側になることです。

包括・ケアマネ・訪問系の仕事をしている方へ。見守りは、周りが「用意する」ものであると同時に、本人が「つくる」ものでもあります。私自身、包括にいた頃に講演で学び、現場で実践している方に出会って、なるほどと思いました。一人暮らしの方と見守りの話をするとき、本人がつくれる選択肢として、この3つを話題にしてみませんか。
家族が先に動く側の話(地域包括支援センターへの電話から始める見守り)は、こちらにまとめています。
▶ 離れて暮らす親の見守り、最初の一手はカメラじゃない。地域包括支援センターに電話して「顔を覚えてもらう」順番
親が電話で「大丈夫」しか言わないときの聞き方は、こちらです。
▶ 親が「大丈夫」しか言わない|本音が出る5つの場面と、ケアマネへの伝え方
家族からよく出る4つの質問
一人暮らしの親に、この3つを勧めようとしたときに出やすい疑問に答えます。当てはまるものはありますか?
Q. 親が「ご近所に迷惑をかけたくない」と言ったら?
使えるのは、空振りの電話の話です。カーテンの方も「ご迷惑をかけちゃった」と話していましたが、この種の空振りは、手順3の一言で減らせます。
木原氏の資料には、福祉は「助け」と「助けられ」の共同作業だという考え方があります。助けられる側にも役割がある、という見方。迷惑をかけないために何もしないより、頼み方を決めておくほうが、ご近所さんも動きやすくなります。
Q. 親が「まだ元気だから要らない」と言ったら?
カーテンの方が話していた理由は、「1人だから」でした。
元気なうちなら、カーテンの開け閉めを日課として始められます。「1人だから、見つけてもらえるように」の一言で、話を体調から暮らしの形に移してみてください。
Q. ご近所付き合いがほとんどない親は、どうすればいい?
カーテンの方は、ふだんからご近所付き合いのある方でした。付き合いが薄いと、手順2の相手探しから難しくなります。
その場合は、家族が先に動く入口があります。地域包括支援センターは、地域の高齢者の総合相談を受ける機関として市町村が設置しています(厚生労働省)。親の住所地の包括に家族から電話する流れは、こちらに書いています。
▶ 離れて暮らす親の見守り、最初の一手はカメラじゃない。地域包括支援センターに電話して「顔を覚えてもらう」順番
Q. 今日、親と連絡が取れない。どうすればいい?
この記事の3つは、ふだんの備えです。電話がつながらないときは、少し時間をおいてかけ直し、連絡先を知っているご近所の方がいれば様子を見てもらえないか頼んでみてください。それでも安否が分からず心配なときは、親の住まいを管轄する警察署に安否確認を相談できます。倒れている・呼びかけに反応がないと分かったら、その場にいる人がすぐ119番に通報してください。
まとめ:見守りは、本人が自分でつくれる
要点は4つです。
- 「助けられ上手」とは、自分から「見つけてもらえる仕組み」を作っておくこと
- 手順1 毎日決まった時間に、道路側から見える部屋のカーテンを開け閉めする
- 手順2 信頼できるご近所さん数名に、家族の連絡先を自分から伝える
- 手順3 出かけるときは一言。空振りの電話を防ぐところまでが仕組み
この3つが始めやすいのは、次の条件に当てはまる方です。
1. 一人で暮らしている(または、一人暮らしの親がいる)
2. 道路側から見える窓がある
3. あいさつを交わすご近所さんが何人かいる
今日できることは1つ。カーテンを開ける時間と、閉める時間を決めることです。家族の方なら、次の電話で「1人だから、見つけてもらえるように」と話してみてください。
見守りは、誰かに用意してもらうのを待たなくても始められます。カーテン1枚から、ご近所さんとのつながりを「見つけてもらえる仕組み」に変えていけます。
【この記事を書いた人】
むむぶどう🍇 社会福祉士として福祉の現場に20年。地域包括支援センターで一人暮らしの方やご家族の相談を受けていた時期があり、現在はケアマネジャーとして働いています。見守りを「家族が用意するもの」と思って手が止まる方に、本人の側からつくれる形があることを伝えたくて書きました。
▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou
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ブログでは「制度の使い方」を、noteでは「現場のリアル」を、Xでは「今日の気づき」を発信しています。
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参考資料
- 木原孝久『「助けられ力」を鍛える』(住民流福祉総合研究所) http://juminryu.web.fc2.com/tasukerareryoukuwokitaeru.pdf
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」(2. 地域包括支援センターについて) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html
※この記事は、一人暮らしの本人と家族が、ふだんの備えを始めるための入口として書いています。紹介した方法で、異変に必ず気づけるとは限りません。体調に不安があるときや緊急時は、医療機関や119番を優先してください。


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