「空きあり」と聞いて電話をしたのに、「今は難しい」と言われた。ケアマネジャーに紹介された施設を見学したら、空いている部屋を見せてもらえたのに、入れる話にはならなかった。「空いているのに、なぜ?」で止まっていませんか。
先に結論です。施設の「空き」は、「今すぐ入れる」という意味ではありません。空いていても入れない理由は1つではなく、緊急のケースのために残している空き、職員の人数で受け入れられない空き、制度上の要件と優先順位で決まる空きがあります。だから問い合わせでは「空いていますか」ではなく、「今、受け入れられる状態ですか」と聞く。この記事では、理由3つと、見学・問い合わせで聞く質問3つ、断られたときの次の一手まで書きます。
私は社会福祉士として福祉の現場に20年、現在はケアマネジャーです。「空いているのに入れない」は家族からよく聞く言葉で、正直に言えば「確かにその通り」だと思っています。理由を知っていれば聞き方が変わり、次の一手が早くなる。そのために書きました。
「空きあり」と「受け入れ可」は別物?
「空きあり」は、ベッドや部屋が埋まっていない、という状態の話です。「受け入れ可」は、その施設が今、あなたの親を受け入れて日々の介護を提供できる、という判断の話。この2つは別物で、施設の案内や検索サイトに出ている「空きあり」は前者です。
「じゃあ、空きありって書く意味がないじゃないか」。そう思いませんか。私も家族の立場なら同じことを言います。ただ施設の側から見ると、空きが「誰でも今すぐ」にならない事情が重なっています。理由はさまざまですが、私が現場で見てきた中で多いのは次の2つと、制度で決まっている1つです。
- 緊急で大変なケースに対応できるように、空きをいくつか残している
- スタッフが不足していて、受けたくても受けられない
- 制度上の要件と優先順位(特養の場合)があり、申込順にはならない

1つ、先に言っておきます。施設の側にいた経験から言うと、使われていないベッドは施設にとって損でしかありません。次に入る方が決まっているなら、いかに切れ目なくベッドを使うかが施設の関心事です。つまり施設は、空きを埋めたい側です。それでも「空いているのに入れない」が起きるのは、上の3つの理由があるからです。
順に説明します。
理由1:緊急のケースのために、空きを残している?
私が関わってきた施設の中には、緊急で大変なケースに対応できるように、空きをいくつか残しているところがあります。介護している家族が急に入院した、独り暮らしの方が自宅で動けなくなった。そういう急な相談に応えるための余白です。
この空きは、見た目には「空いている」。でも施設としては、「今すぐ入れる空き」とは数えていません。だから、外から見た空きの数と、受け入れられる人数が合いません。
ここで1つ、混ぜないでほしいことがあります。制度として決まっているのは、ショートステイ(短期入所生活介護)で緊急の利用者を受け入れたときの加算です。介護している家族の病気など、やむを得ない理由で急に自宅で介護を受けられなくなった人を、ケアプランに無い日に受け入れた事業所に、原則7日を限度に加算がつきます。これは短期入所の話で、本入所のベッドとは別です。本入所の空きをどう使うかは施設ごとに決めています。私が見てきた中には、本入所の空きを残すパターンも、ショートステイの空きを残すパターンも、どちらもありました。
だから「その空きは今すぐ入れる空きですか」は、施設に聞かないと分かりません。逆に言えば、聞けば答えてもらえる質問です。電話の最初に聞いてみませんか。
理由2:スタッフが足りなくて、受けたくても受けられない?
2つ目は、スタッフが不足していて、受けたくても受けられないパターンです。私の現場でも、これはあります。
特養(介護老人福祉施設)の運営基準では、介護職員と看護職員の総数は、常勤換算で入所者3人に対して1人以上と決まっています。つまり受け入れられる人数は、ベッドの数ではなく今いる職員の数で決まります。職員が辞めて補充が追いつかなければ、基準を守るために受け入れを抑える。空いているベッドは、そのしわ寄せで空いたままになります。
「募集すればいいのに」と思いますか。もちろん施設は募集しています。ただ、この人手不足は施設1つの努力で解決する話ではないんです。ケアマネジャーとして紹介する側も、「あそこは今、職員が少なくて受け入れを絞っている」という情報を持っていることがあります。
だから見学のときに、「今の職員体制で、受け入れられる状態ですか」と聞いてみてください。空き部屋を見せてもらうより、この一言のほうが答えに近づきます。
理由3:制度の「正当な理由」と、入所の優先順位は?(特養の場合)
3つ目は、制度で決まっている話です。ここからは特養(介護老人福祉施設)の話として読んでください。有料老人ホームや老健は基準が別なので、この記事ではふれません。
特養が断れるのは「正当な理由」があるときだけ
特養の運営基準には、「正当な理由なく指定介護福祉施設サービスの提供を拒んではならない」とあります。厚生労働省の解釈通知は、要介護度や所得の多い少ないを理由に断ることを禁止する趣旨だと説明しています。
一方で、断ることができる「正当な理由」も同じ通知に書かれています。入院治療の必要がある場合と、施設が自ら適切なサービスを提供することが困難な場合です。医療の処置が必要で、その施設の体制では安全に提供できない、と施設が判断したケースがここに入ることがあります。同じ処置でも施設によって答えが違うので、処置の内容を伝えて聞いてください。「空いているのに断られた」の中には、この正当な理由に当たるものがあります。
原則は要介護3以上
特養に入所できるのは、原則として要介護3・4・5の方です。要介護1・2の方は、心身の状況や環境から見て自宅で日常生活を営むことが困難なことに「やむを得ない事由」があると認められる場合に限られます。要介護2の親のために「空きあり」の特養に電話しても、この時点で入れないことがあります。
待機者がいれば、必要性の高い人が先
申し込みが空きの数を超えているときは、介護の必要の程度と家族の状況を見て、必要性が高い人を優先して入所させるよう努める、と運営基準にあります。つまり、申込順だけで決まる仕組みではありません。解釈通知は、この優先入所には透明性と公平性が求められる、としています。
「うちは1年前に申し込んだのに、後から申し込んだ人が先に入った」。これは、この仕組みが動いた結果、ということがあります。だから「待機は何人で、順番はどう決めていますか」は、聞いてよい質問です。
施設の種類ごとの違いは、こちらに整理しています。
▶ 特養・老健・有料老人ホームの違い完全ガイド|現役の社会福祉士が選び方を解説
見学・問い合わせで聞く3つは?
ここまでの理由3つを、そのまま質問にします。「空いていますか」の代わりに、この3つを聞いてください。
1. 「その空きは、今すぐ入れる空きですか。それとも、申し込んで待機になる空きですか」(理由1)
2. 「今の職員体制で、受け入れられる状態ですか。親の状態で受け入れが難しくなる条件はありますか」(理由2と、理由3の正当な理由)
3. 「待機は何人で、順番はどう決めていますか」(理由3の優先入所)
聞き方のコツは、親の状態を先に伝えることです。要介護度、医療の処置の有無、認知症の症状、家で介護している人の状況。この4つを伝えたうえで聞くと、施設側も「受け入れられるか」を判断しやすくなります。
問い合わせから施設の回答までは、だいたい次の順に進みます。

最初の1歩は、担当ケアマネジャーに候補の施設と親の状態を共有することです。ケアマネジャーには施設から空き状況の案内が届いたり、やり取りの中で受け入れの様子を知っていたりすることがあるので、電話の前に「今、あそこは受け入れられそうか」が分かることがあります。そのうえで施設に問い合わせ、見学と申し込み(特養は先に申し込んで待機に入り、面談は入所が近づいてから、という施設もあります)、面談で施設が「受け入れられるか」を判断し、施設からの回答(受け入れ可・待機・受け入れ困難のいずれか)が来る。この順番を知っていると、「空いていたのに」で止まらずに済みます。
断られたとき、次に何をする?
「断られたら、もう無理なのでは」。そう思う前に、理由を聞いてください。理由によって、次の一手が変わります。

緊急のケース用に残している空きだったなら、待機の申し込みをしたうえで、他の施設も並行して探す。今の職員体制で受け入れを抑えているなら、受け入れを再開しそうな時期を聞き、待機の申し込みをする。要介護1・2で原則の対象外だったなら、「やむを得ない事由」に当たるかを担当ケアマネジャーに相談する。医療の処置などで施設が対応できなかったなら、対応できる種類の施設を担当ケアマネジャーと探し直す。必要性の高い人が優先で待機になったなら、待機中も親や家族の状況が変わったら施設に伝える。
どの分岐でも共通するのは、断られた理由を担当ケアマネジャーに共有することです。理由が分かれば、ケアマネジャーは次の候補を絞れます。「断られました」だけの報告と、「職員が足りなくて今は受け入れを絞っているそうです」の報告では、次の提案が変わります。
候補を探し直すとき、家族の中で「どこまでの条件なら受け入れられるか」を決め直す場面が出てきます。その進め方は、こちらに手順を書いています。
▶ 親の施設入居、どう切り出す?|家族会議の進め方を現役の社会福祉士が手順で解説
費用の面で候補が狭まっている方は、こちらも読んでみてください。
▶ 生活保護でも入れる老人ホームの探し方|現役の社会福祉士が現場でやっている手順【完全ガイド】
家族からよく出る2つの質問
Q. 要介護2でも、特養に申し込める?
原則は要介護3以上ですが、要介護1・2でも、自宅で日常生活を営むことが困難なことに「やむを得ない事由」があると認められる場合は対象になります。どんな事情が当たるかは個別の判断なので、この記事で線引きは書けません。認知症の症状や、家で介護する人がいない事情があるなら、担当ケアマネジャーに「特例で申し込める可能性はありますか」と聞いてみませんか。
Q. 有料老人ホームや老健も、同じルール?
この記事で書いた「正当な理由」「原則要介護3以上」「必要性の高い人を優先」は、特養(介護老人福祉施設)の基準です。有料老人ホームや老健は基準が別で、この記事では確認していません。理由1(緊急用の空き)と理由2(職員の数)は施設の運用と体制の話なので、種類を問わず聞く価値があります。受け入れの条件は、その施設に直接聞いてください。
まとめ:「空いていますか」ではなく「今、受け入れられますか」
要点は5つです。
- 「空きあり」は「今すぐ入れる」ではない。空きは状態の話、受け入れは判断の話
- 緊急のケースのために空きを残している施設がある。制度で緊急の受け入れを評価しているのはショートステイの加算で、本入所の空きは施設ごとの運用
- 受け入れられる人数は、ベッドの数ではなく職員の数で決まる(特養は入所者3人に職員1人以上)
- 特養は原則要介護3以上で、待機者がいれば必要性の高い人が先。申込順だけでは決まらない
- 断られたら理由を聞き、担当ケアマネジャーに共有する。理由で次の一手が変わる
次の3つに1つでも当てはまるなら、この記事の聞き方を試してみてください。
- 「空きあり」の表示だけを見て、施設に電話しようとしている
- 断られたけれど、理由を聞いていない
- 断られたことを、担当ケアマネジャーにまだ伝えていない
今日できることは1つ。候補の施設に電話する前に、親の要介護度・医療の処置・認知症の症状・家で介護している人の状況の4つをメモに書くこと。それを先に伝えてから、「今、受け入れられる状態ですか」と聞いてみてください。空いているのに入れない理由は、聞けば分かることが多いです。
【この記事を書いた人】
むむぶどう。社会福祉士として福祉の現場に20年、現在はケアマネジャーとして働いています。「空いているのに入れない」で止まってしまう家族を減らしたくて、聞き方を書きました。
▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou
▶ X(毎朝のつぶやき・現場の小ネタ):https://x.com/mumubudo
ブログでは「制度の使い方」を、noteでは「現場のリアル」を、Xでは「今日の気づき」を発信しています。
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参考資料(一次資料)
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039
- 「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」(平成12年3月17日老企第43号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4387&dataType=1&pageNo=1
- 介護保険法(平成9年法律第123号)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123
- 介護保険法施行規則(平成11年厚生省令第36号)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100036
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100037
- 「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(短期入所サービス及び特定施設入居者生活介護に係る部分)及び指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」(平成12年3月8日老企第40号) https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000750739.pdf
※この記事の制度の記述は、特養(介護老人福祉施設)の基準省令と厚生労働省の通知(2026年9月21日時点)によるもので、有料老人ホーム・老健・グループホームには別の基準があります。緊急用に空きを残すかどうかや、職員体制による受け入れ人数は施設ごとの運用です。要介護1・2の方の特例入所を含め、個別の受け入れの可否は施設・市町村・担当ケアマネジャーなどの専門家にご確認ください。


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