久しぶりに実家に帰ったら、玄関の外までテレビの音が聞こえてきた。電話をかけても、親がなかなか出ない。出ても「え?」と聞き返される。そんなことが続いていませんか。
先に結論です。テレビの音が大きいのは、聞こえが落ちてきているサインのことがあります。「年だから仕方ない」でそのままにすると、会話が減り、インターホンや電話にも気づきにくくなっていきます。
家族がやることは、気づいたサインをメモして、責めずに本人に聞き、ケアマネジャーやかかりつけ医に伝え、耳鼻科で聞こえを確かめること。補聴器を考えるなら、その前に制度の確認を。
私は社会福祉士として福祉の現場に20年、現在はケアマネジャーとして在宅で暮らす方のお宅を訪問しています。訪問先で、テレビの音が大きいお宅に出会うことが時々あります。その現場で見てきたことをもとに、家族がやる5つの手順をまとめました。
親のテレビの音が大きいのは、「年だから」で済ませていい?

時々ある光景です。でも、見過ごせないサインでもあります。
ケアマネジャーとしてお宅を訪問すると、テレビの音量が爆音のことがあります。玄関で「こんにちは〜!」とあいさつしても、気づいてもらえません。こちらもあいさつを爆音にして、なんとか気づいてもらえるよう頑張ります(笑)
高齢の方のお宅で、時々出会う光景です。ただ、これは難聴が進んでいるサインでもあります。だから私は、笑い話で終わらせないようにしています。
「年だから、しょうがないんじゃない?」と思った方もいるかもしれません。国立長寿医療研究センターは、60歳代後半からは難聴が起こる可能性が高まるとして、聞きづらさや聞き間違いがあれば一度聞こえの検査を受けることをすすめています。「年だから」は、そのままにする理由ではなく、確かめる理由になります。
現場のひとこと
訪問するとテレビが爆音で、あいさつしても気づいてもらえない。高齢の方のお宅のあるあるです。ただ、難聴が進んでいるサインでもあり、見過ごせません。
聞こえが落ちてきたサインは、どこに出る?

テレビ・インターホン・電話・会話。この4つの場面に出やすいです。
国立長寿医療研究センターによると、加齢による難聴は数年以上かけてゆっくり進みます。本人は気づかず、家族や友人に指摘されて気づくこともよくあるそうです。家族のほうが先に気づくことも多いんです。
帰省した時に分かるサイン
- テレビ: 横で話す声が聞き取りにくいくらいの音量になっている
- インターホン: 鳴っても、なかなか出てこない
- 会話: 話がかみ合わない。返事が少しずれる
離れていても電話で分かるサイン
- 電話に出ない: かけても出ないことが増えた
- 聞き返し: 出ても「え?」と聞き返しが多い
- 返事のずれ: 返事が少しずれる
ただし、いつもと違ってまったく連絡がつかない時は、聞こえより先に安否の確認を。近所の方や、親が住む地域の地域包括支援センターに相談してください。
年に数回しか帰れない方は、電話のほうが手がかりになります。電話に出るまでの時間と「え?」の回数を、次の電話から気にしてみませんか。

現場のひとこと
会話がしづらいと感じたら、さりげなく耳の聞こえを確認することが大事です。日常の「あるある」の中に、大事な気づきが隠れています。
「年だから」でそのままにすると、何が起きる?

会話や人との交流が減ってしまうことがあります。
聞こえにくいまま過ごしている方を見てきて、こんなことが起きてくることがあります(この順番で進むとは限りません)。
- 会話が減る
- インターホンや電話への反応が鈍くなる
- ゆくゆくは、人との交流がしにくくなり、刺激のない生活になる
- 「認知症かも」と疑われるようになってしまうこともある
聞こえていないのに、もの忘れに見える
「認知症かも」と疑われることは、とくに気をつけたいところです。聞こえていないから、返事がずれる。話がかみ合わない。それが周りからは、もの忘れのように見えてしまうことがあります。
「最近もの忘れが増えた?」と感じた時は、耳のことも一緒に考えてみてください。
家族も話しかけなくなっていく
話しかけても返事がないと、家族も話しかけなくなっていきます。会話が減るのは、本人の側だけではありません。帰省のたびに、親との会話が短くなっていませんか。
難聴と認知症の関係は?
ここからは現場の話ではなく、公的な資料の一般的な情報です。
- 介護予防や生活の質の維持のために、国の「認知症施策推進基本計画」(令和6年12月)には、「難聴の早期の気付きと対応の取組を促進する」と書かれています。あわせて、その効果を検証するとされています
- 国立長寿医療研究センターは、海外の研究から難聴は認知症の危険因子であることが分かってきた、としています。ただし「難聴になれば必ず認知症になる」という意味ではありません
国の計画も「取り組みを進めて、効果を確かめる」という段階の話です。「補聴器をつければ認知症を防げる」とまでは言えません。
認知症のリスク因子の全体像と、補聴器でどこまで言えるのかは、こちらにまとめています。
▶ 親の認知症予防、今できることは何?14のリスク因子と、「聞こえ・歯」に制度で安く手を打つ順番
現場のひとこと
聞こえにくいままだと、会話が減って、インターホンや電話への反応が鈍くなります。ゆくゆくは人との交流がしにくくなり、刺激のない生活になって、認知症かもと疑われるようになってしまうこともあります。
家族に伝えると、どうなることが多い?

「年だから仕方ない」で、そのままになることが多いです。
訪問して聞こえにくそうだと感じたら、私はご家族にお伝えしています。ただ、そのあとは「年だから仕方ない」で、そのままになることが多いんです。
一方で、どうしたらいいかを親身に悩むご家族は、耳鼻科の受診や補聴器の検討などをされることもあります。
分かれ目は、「年だから」で止まるか、「どうしたらいいか」と一歩考えるか。次の章で、その一歩を5つの手順に分けて書きます。
現場のひとこと
聞こえにくいと感じたら、ご家族にお伝えしています。ただ、「年だから仕方ない」でそのままになることが多いです。
家族は何から始める?「年だから」で止めない5つの手順

次の5つの順番で動きます。 1つ目と2つ目は、今日からできます。

① 気づいたサインをメモする
「いつ・どの場面で・どんなふうに」を短く書きます。メモの例はこんな形です。
- 「帰省した日。テレビの音が大きく、横で話す声が聞き取りにくかった」
- 「電話で『え?』と聞き返しが多かった。返事が少しずれた」
メモがあると、③で人に伝える時に「なんとなく聞こえにくそう」で終わらず、場面で伝えられます。
② 本人に責めずに聞く
「本人が嫌がりそう」と思った方もいるかもしれません。いきなり「耳が遠くなったね」「補聴器を買おう」と言うと、身構えてしまう人もいます。
最初は、確かめるだけで大丈夫です。
- 「最近、テレビの音が大きいね。聞こえにくいことある?」
- 「電話の声、聞き取りにくくない?」
「聞こえている」と言われたら、その日は引いて構いません。ただし、急に聞こえにくくなった様子なら、待たずに④の耳鼻科へ。メモを続けて、次の機会にもう一度聞きます。断られた時の考え方は、福祉用具の話ですが、こちらが近いです。
▶ 親が福祉用具を「まだ大丈夫」と断ったら?説得より効く“種まき”の考え方
③ ケアマネジャー・かかりつけ医に伝える
介護サービスを使っているなら、担当のケアマネジャーに伝えます。通院しているなら、かかりつけ医にも。①のメモをそのまま見せれば伝わります。
ケアマネジャーが家にいるのは、訪問した時間だけです。電話での様子や帰省した時の様子は、家族にしか分かりません。
ケアマネジャーがいない場合は、親が住む地域の地域包括支援センターへ。家族だけでも相談できます。
▶ 地域包括支援センターとは?相談できること・使い方・探し方を完全解説【社会福祉士監修】
④ 耳鼻科で聞こえを確かめる

聞こえの検査(聴力検査)は、耳鼻科で受けられます。加齢による聞こえの変化か、ほかに原因があるのか。そこまで医師に診てもらえるのが、耳鼻科で確かめる意味です。
急に聞こえにくくなった時は、話が別です。国立長寿医療研究センターは、年齢にかかわらず急に出てきた難聴には注意が必要で、早めに耳鼻咽喉科を受診するよう書いています。
聞こえの変化の出方で、次の一手はこう分かれます。
- 急に聞こえにくくなった: 早めに耳鼻科を受診する
- ゆっくり聞こえにくくなってきた: サインをメモして、ケアマネジャー・かかりつけ医に伝え、耳鼻科で聞こえを確かめる
- 補聴器を考えている: 耳鼻科で聞こえを確かめたうえで、買う前に市区町村に補聴器の助成があるか聞く

⑤ 補聴器を考えるなら、買う前に制度を確認する
補聴器を考える段階になったら、買う前に、親が住む市区町村に「補聴器の助成はありますか」と聞いてください。助成のある・なしや条件は自治体によって違い、買う前の手続きが要ることがあります。聞こえの程度によっては身体障害者手帳(聴覚障害)の対象になり、補聴器が補装具費支給制度の対象になる場合もあるので、あわせて聞いておくと安心です。
耳鼻科・助成・医療費控除をどの順番で使うかは、こちらに詳しく書いています。
▶ 親の認知症予防、今できることは何?14のリスク因子と、「聞こえ・歯」に制度で安く手を打つ順番
現場のひとこと
どうしたらいいか親身に悩むご家族だと、耳鼻科の受診や補聴器の検討などをされることもあります。
よくある質問(FAQ)

Q. 親が「ちゃんと聞こえている」と言います。どうしたらいい?
説得はしなくて大丈夫です。手順①のメモを続け、手順②の聞き方で、時間をおいてもう一度聞きます。手順③でケアマネジャーやかかりつけ医に伝えておけば、家族以外の人から検査をすすめてもらう形もとれます。
Q. 離れて暮らしていて、帰省は年に数回です。何を見ればいい?
電話です。電話に出るまでの時間、「え?」の回数、返事のずれ。この3つをメモしておけば、帰省した時に確かめることがはっきりします。いつもと違ってまったく連絡がつかない時は、聞こえより先に安否の確認を。近所の方や、親が住む地域の地域包括支援センターに相談してください。離れて暮らす親の地域の窓口とつながる方法は、こちらに書いています。
▶ 離れて暮らす親の見守り、最初の一手はカメラじゃない。地域包括支援センターに電話して「顔を覚えてもらう」順番
Q. 「認知症かも」と言われました。耳も関係ありますか?
聞こえていないから返事がずれて、もの忘れのように見えることはあります。認知症かどうかを決めるのは医師です。耳鼻科で聞こえを確かめることと、もの忘れの相談は並行して進められます。早いうちのサインと相談先は、こちらにまとめています。
Q. 補聴器は、どこで買えばいい?
先に耳鼻科(補聴器を考えるなら、補聴器相談医のいる耳鼻科)で聞こえを確かめ、買う前に市区町村に助成があるかを聞いてください。順番を逆にすると、使えたはずの制度が使えなくなることがあります。詳しい順番は手順⑤のリンク先に書いています。
まとめ:テレビの音は「年だから」で止めない

要点は4つです。
- テレビの音が大きいのは、聞こえが落ちてきているサインのことがある
- サインが出やすいのは、テレビ・インターホン・電話・会話の4つの場面
- 「年だから」でそのままにすると、会話が減り、人との交流と刺激が減り、「認知症かも」と疑われることもある
- 動く順番は、①メモ ②責めずに聞く ③ケアマネジャー・かかりつけ医に伝える ④耳鼻科 ⑤補聴器は買う前に制度を確認
次の3つのうち1つでも当てはまるなら、聞こえを確かめるきっかけにしてみてください。
- テレビの音が、前より大きくなった
- インターホンや電話に、気づかないことが増えた
- 会話で聞き返しや、かみ合わないことが増えた
今日できることは1つ。次に親に電話する時、出るまでの時間と「え?」の回数をメモしてみませんか。
この記事を書いた人
むむぶどう🍇
社会福祉士・ケアマネジャー。社会福祉士として福祉の現場に20年、介護施設・在宅サービスでご本人とご家族の支援に関わってきました。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。
訪問先でテレビの音が大きいお宅に出会うと、聞こえにくそうだと感じた時はご家族にお伝えしてきました。「年だから」で止めないための気づき方を、現場の目線で書いています。
▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou
▶ X(毎朝のつぶやき・現場の小ネタ):https://x.com/mumubudo
ブログでは「制度の使い方」を、noteでは「現場のリアル」を、Xでは「今日の気づき」を発信しています。
記事が役に立ったらブックマーク・SNSシェアいただけると励みになります。
参考資料
- 国立長寿医療研究センター 病院ナビ「補聴器は何歳から必要?」 https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/38.html
- 国立長寿医療研究センター「難聴と認知機能低下との強い関連」(2020年11月) https://www.ncgg.go.jp/hospital/monowasure/news/20201130.html
- 厚生労働省「認知症施策推進基本計画」(令和6年12月) https://www.mhlw.go.jp/content/001344090.pdf
- 厚生労働省「補装具費支給制度」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/yogu/index.html
※この記事は、高齢の方の聞こえについての一般的な情報です。聞こえの状態や原因は人によって違います。気になる時は、耳鼻科の医師にご相談ください。補聴器の助成や障害者手帳の条件は、お住まいの市区町村によって違います。


コメント