離れて暮らす親の地域で災害が起きたとき、家族ができること|平時にやる5つと、当日の順番

離れて暮らす親の地域で災害が起きたとき、家族ができること 制度ガイド

実家の地域に大きな地震や豪雨の速報が出たとき、離れて暮らす家族が最初にやることは、電話をかけ直し続けることではありません。

そして、その日にできることの幅は、災害が起きる前に何を済ませてあるかで、ほとんど決まります

この記事は、実家が遠く、親が一人または高齢の夫婦だけで暮らしている人に向けて書いています。特定の災害の話ではありません。次にどこで、何年後に起きても、同じ順番で使えるように整理しました。

先に結論です。

1. 平時にやっておくのは5つ。 名簿への同意/避難先の確認/薬とケアの情報の写真/171で使う電話番号を決めること/ケアマネジャーの連絡先

2. 当日は、伝言を残す → つながったら5つ聞く → 保険証がなくても介護と医療をあきらめない、の順

3. 制度が使える範囲は、通知の宛先から読む。 ただし「避難したから対象外」は、自分で決めない

順に見ていきます。前半が平時の準備、後半が発災後です。急いでこのページに来た方は、「起きてからの順番」まで飛ばしてください。

平時にやっておく5つ

1. 親の名前は「避難行動要支援者名簿」に載っているか

災害対策基本法は、市町村長に対して避難行動要支援者名簿を作っておくことを義務づけています(第49条の10)。名簿に載るのは、要配慮者のうち自力での避難が難しい人です。氏名・生年月日・住所・連絡先・避難支援等を必要とする事由などが記録されます。

ただし、具体的にどこで線を引くかを決めるのは市町村です。 要介護3以上、身体障害者手帳の1級・2級、ひとり暮らしの75歳以上。こうした基準を地域防災計画で定めていて、中身は市町村ごとに違います。要介護1・2は対象外という市町村もあります。「うちの親は要介護だから載っているはず」は、確かめないと分かりません。

ここまでは市町村の仕事です。家族がやることは別にあります。

平時に、消防・警察・民生委員・社会福祉協議会・自主防災組織へ名簿を渡すことへの同意です。

同じ法律の第49条の11第2項に、こう書かれています。

ただし、当該市町村の条例に特別の定めがある場合を除き、名簿情報を提供することについて本人の同意が得られない場合は、この限りでない。

つまり、条例に特別の定めがある市町村を除けば、同意がなければ、平時のうちに地域の支援者へ親の情報は渡りません。名簿に載っているのに、近所の民生委員は誰が支援対象なのか知らない、という状態が起こりえます。

逆に、条例で「同意がなくても共有する」と定めている市町村もあります。 どちらなのかは、条文を読んでも分かりません。親の市町村に聞くしかない部分です。

一方、実際に災害が発生した、または発生するおそれがある場合は、同じ条の第3項で本人の同意なしに提供できることになっています。ここが分かれ目です。同意がある家は「起きる前から」見に来てもらえる家で、同意がない家は「起きてから」情報が回る家になります。

同意書は、多くの市町村で一度は配られています。回覧板と一緒に来た紙、地域包括支援センターや民生委員が持ってきた紙。担当している家でも、その紙が引き出しに入ったままになっていることは珍しくありません。「うちは出したかどうか分からない」なら、親の市町村の防災担当課か地域包括支援センターに電話1本で確認できます。

2. 親は災害の日、どこへ逃げることになっているか

「福祉避難所があるから大丈夫」。この理解のまま止まっている家族が、いちばん多いところです。

2021年の災害対策基本法施行規則の改正で、市町村は指定福祉避難所を公示する際、受け入れる被災者等を特定する場合はその旨も公示することになりました(第1条の7の2第2項)。名前と場所だけでなく、「誰を受け入れる施設か」が公示される仕組みです。

そのうえで、内閣府の「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」は、直接避難についてこう書いています。

個別避難計画により、指定福祉避難所へ避難することになっている場合は、最寄りの一般の避難所等ではなく、指定福祉避難所へ直接に避難することとなる。

裏返すと、原則として、個別避難計画がなければ、まずは一般の避難所です。同じガイドラインは、指定一般避難所で生活できる避難者は受入対象としない旨をあらかじめ周知しておく、とも書いています。

そして、もうひとつ。指定されていることと、その日に開くことは別です。 同じガイドラインに、こう書かれています。

被災者の直接の避難を想定していない指定福祉避難所にあっては、災害規模や状況に応じて、支援者の到着が間に合わない等、災害発生後初日に開設が間に合わない場合もある

施設そのものが被災する。職員が出勤できない。入所している方の対応で手一杯になる。どれも珍しいことではありません。「福祉避難所がある」は、「発災当日にそこへ行ける」という意味ではない、と思っておいてください。

その個別避難計画は、災害対策基本法第49条の14で市町村長の努力義務とされています。しかも「作成することについて当該避難行動要支援者の同意が得られない場合は、この限りでない」というただし書きつきです。ここでも本人の同意が入口になります。

現場で「災害のときはどうしますか」と尋ねると、多くのご家族が「考えたことがなかった」と答えます。要介護認定を受けていても、計画があるとは限りません。確認するのは、次の2点です。

  • 親の市町村は、指定福祉避難所の受入対象者を特定して公示しているか(市町村の防災担当課、またはウェブサイトで確認できます)
  • 親の個別避難計画は作られているか。作られているなら、避難先はどこか

自治体によっては「福祉避難所へ原則として直接避難することはできない」と明記して運用しているところもあります。見るべきは国のガイドラインではなく、親が住んでいる市町村がどう公示しているかです。

3. 親が飲んでいる薬を、あなたのスマホは知っているか

お薬手帳は、親が持っています。あなたが持っておくべきなのは、その写真1枚です。

理由は後半で詳しく書きますが、災害時に処方箋なしで薬を出してもらえるかどうかの判断材料に、薬歴・お薬手帳・薬の包装が挙げられているからです。薬歴はかかりつけ薬局が持っていますし、薬の包装が家に残っていることもあります。ただし、その薬局も一緒に被災します。

親が手帳を持ち出せず、実家にも戻れないとき、いちばん確実に手元にあるのがあなたのスマホの写真です。 呼び寄せ先で初めての医師にかかるときにも、この1枚がいちばん早く話を進めます。

帰省したときに撮っておくものを並べます。所要時間は5分です。

  • お薬手帳の見開き(直近の処方が分かるページ)
  • 薬の袋か包装シート(薬品名が読める角度で)
  • 介護保険被保険者証(要介護度と有効期間が分かります)
  • 健康保険の資格確認書(氏名・生年月日・住所・保険者名・記号・番号が1枚に載っています)
  • かかりつけ医と薬局の名前・電話番号

4つ目に注意点があります。マイナ保険証を使っている場合、記号・番号はマイナンバーカードの券面には書かれていません。 保険者から届く「資格情報のお知らせ」を撮ってください。見当たらなければ、マイナポータルの資格情報の画面でも確認できます。

そして、マイナンバーカードの裏面(個人番号の面)は撮らないでください。 番号法は「他人の個人番号を含む情報」を収集・保管してはならないと定めていて(第20条)、その「他人」は自己と同一の世帯に属する者以外の者と定義されています(第15条)。離れて暮らす親は、定義上いつも別世帯です。

写真は撮った日付が残るので、次に帰省したときに撮り直すだけで更新できます。リンクを知っていれば誰でも見られる共有アルバムには入れないでください。 意図しない相手にまで渡ります。置き場所は、自分だけがログインできるところに。きょうだいで持ち合うなら、それぞれが自分の端末に自分で撮るのがいちばん安全です。

4. 連絡が取れなくなったとき、どの番号に伝言を残すか決まっているか

災害用伝言ダイヤル(171)は、伝言を預ける電話番号をあらかじめ決めておかないと機能しません。NTT東日本も、操作上の注意事項として「あらかじめ家族や友人間で登録する電話番号を決めておくことをお勧めします」と案内しています。

ここに、決め方の制約があります。ここを外すと、平時の準備が当日まるごと空振りです。

同社は、登録できる電話番号を「被災地の方などの加入電話・ISDN・ひかり電話・携帯電話・PHS・IP電話の電話番号になります」と説明しています。さらに、被災地以外の固定電話番号をダイヤルした場合は「被災地以外の電話番号ではご利用できません。被災地の方の電話番号でご利用ください」というアナウンスが流れることがある、とも書かれています。

つまり、鍵にするのは親の電話番号です。 実家の固定電話か、親の携帯。多くの場合、あなたは被災地の外にいます。きょうだいで相談して「いちばん連絡がつきやすいから、東京にいる長男の携帯にしよう」と決めると、そもそも登録できる番号の範囲から外れます。

決めたら、きょうだい全員が同じ番号を覚えていること。ここがずれると伝言がすれ違います。

もうひとつ、171は常に使えるサービスではありません。 地震などで被災地への通話がつながりにくい状況(ふくそう)になったときに、NTTが提供を開始します。平時にかけてもつながりません。

だから、練習できる日が決まっています。

  • 毎月1日と15日(0時〜24時)
  • 正月三が日(1月1日0時〜1月3日24時)
  • 防災週間(8月30日9時〜9月5日17時)
  • 防災とボランティア週間(1月15日9時〜1月21日17時)

体験利用のときも録音時間は30秒です。30秒は思ったより短い。一度やってみると、名前・今どこにいるか・連絡がつく番号の3つで精一杯だと分かります。

災害用伝言板(web171)には、伝言が登録されたときにメールや電話で自動通知する機能があります。きょうだい全員を通知先にしておけば、誰か一人が画面を見ていなくても全員に届きます。

ただし、この通知先の設定には事前の利用者登録が必要で、登録するのは実家側の電話番号です。当日になってからでは間に合いません。帰省したときに、親と一緒に設定まで済ませてしまうのがいちばん早いです。

5. 親のケアマネジャーの事業所名を、あなたは言えるか

親が介護保険のサービスを使っているなら、担当のケアマネジャーがいます。その事業所名と電話番号を、遠方の家族が知らないケースは本当に多いです。

災害が起きたあと、事業所は担当している利用者の安否を確認して回ります。訪問や電話で、家族より先に親と会えていることも珍しくありません。逆に、事業所の側が遠方の家族の連絡先を持っていないことも、同じくらいよくあります。

ただし、事業所も同じ地域で被災します。職員が出勤できないこともあれば、何十件もの安否確認と家族からの電話が同時に走ることもあります。すぐにつながらなくても、それは異常ではありません。 留守番電話に「〇〇の家族です。この番号にかけ直してください」とだけ残して、次にやることへ移ってください。

やることは2つです。

  • 事業所名・電話番号を、あなたのスマホに登録する
  • あなたの携帯番号を、事業所に伝えておく

年に一度は、担当者会議やケアプランの説明の機会があります。そのときに「災害があったら私にも連絡をください」と伝えるだけで済みます。

起きてからの順番

ここからは、実際に速報が出たあとの話です。

まず、かけ直すのをやめて伝言を残す

回線がつながらないとき、かけ直し続けても順番は早くなりません。先に自分の伝言を置いておくほうが、結果的に早くつながります。

  • 171の提供が始まっていれば、171にかけ、ガイダンスに従って、決めておいた親の電話番号を市外局番から入れる
  • 録音は1件30秒。名前/今どこにいるか/連絡がつく番号の3つに絞る
  • web171にも同じ内容を文字で残す

171もweb171も、録音・再生とも被災地の外から使えます。親が避難先のどこかの電話から再生することもできます。

安否確認サービスは、災害のたびに提供状況が変わります。古い防災記事に載っている手段が、今も動いているとは限りません。その災害で運用が始まったと発表されたものだけを使ってください。

つながったら、この5つを聞く

声が聞けると安心して切ってしまいます。聞くのは次の5つです。

1. — 何日分残っているか。手元にあるか

2. 水と食事 — 何をいつ食べたか

3. トイレ — 近いか。一人で行けるか

4. 電源 — 携帯の残量。停電しているか

5. 室温 — 夏なら暑さ、冬なら暖房と燃料

聞いて終わりにしないでください。答えが悪かったときに、次にやることまでを1組にしておきます。

  • 薬が2〜3日分を切っている → 被災地の薬局か救護所へ(後述します)。呼び寄せるなら、お薬手帳と薬を持って出てもらう
  • 水も食事もほとんど取れていない → 避難所か市町村の窓口へ。持病があるなら救護所で相談
  • トイレに行けていない → 我慢は脱水と血栓につながります。携帯トイレの配布状況を避難所で確認
  • 携帯の残量が2割を切っている → 通話を切り上げ、次に連絡する時刻だけ決めて切る
  • 室温が高い、暖房がない → 熱中症や低体温は命に関わります。避難所への移動を勧める

3番目を軽く見ないでください。内閣府の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」には、こう書かれています。

トイレの使用がためらわれることによって、排泄を我慢することが、水分や食品摂取を控えることにつながり、避難者においては栄養状態の悪化や脱水症状、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)等の健康被害を引き起こすおそれが生じる

同じガイドラインは、平成16年(2004年)の新潟県中越地震の記録も載せています。トイレが不安で水を飲むことを控えたとする人が、小千谷市で33.3%、川口町で13.8%にのぼったという数字です。「水分をとってね」の声かけは、トイレの話とセットでないと届きません。

「暑くない」「のど渇いてない」という返事も、大丈夫の証拠にはなりません。

環境省と厚生労働省が連名で出した事務連絡(令和8年4月1日「熱中症対策のための高齢者への見守り・声かけについて(協力依頼)」)が、高齢者が熱中症になりやすい理由を挙げています。「暑い」と感じにくくなる。のどの渇きを感じにくくなる。体内の水分量が減少する。いずれも高齢者の身体的特性として挙げられているものです。

ひとつ、必ず添えてください。同じ事務連絡には、こう書かれています。

高血圧症や糖尿病などの持病があり治療中の方は、水分や塩分の摂取に関してかかりつけ医や主治医と予め相談しましょう

ここから先は、現場で見てきた注意です。心不全や腎不全で水分量に指示が出ている方、透析を受けている方は、主治医の指示が優先です。 「とにかく飲んで」は誰にでも当てはまる助言ではありません。飲み込みに不安がある方も、一気に飲むとむせます。少量をこまめに、が基本になります。

「保険証を持ち出せていない」は、介護も医療も止める理由にならない

遠くにいる家族の心配は、たいていここに集まります。結論から書きます。保険証がないことは、介護サービスや受診をあきらめる理由になりません。

まず医療から。保険医療機関及び保険医療養担当規則の第3条には、資格確認の方法が並んだあとに、こうただし書きがあります。

ただし、緊急やむを得ない事由によつて当該確認を行うことができない患者であつて、療養の給付を受ける資格が明らかなものについては、この限りでない。

これは災害専用の規定ではなく、平時から効いている省令です。そのうえで、災害が起きるたびに、厚生労働省の保険局医療課が「申し立てれば受診できる」という事務連絡を出します。令和8年熊本地震では7月28日付で出ました。地震だけでなく、大雨・土砂崩れ・林野火災でも同じ形の事務連絡が出ています。

申し立てる中身は決まっています。 氏名・生年月日・連絡先(電話番号など)。これに加えて、親が国民健康保険か後期高齢者医療なら「住所」、会社の健康保険に入っているなら「勤務先の名前」です。高齢の親なら、たいてい前者になります。

記号・番号は分からなくてもかまいません。窓口で言うのは、名前と生年月日と連絡先と住所。保険証を探して手が止まるより、この4つを言って受診したほうが早い、ということです。

介護のほうは、災害ごとの事務連絡になります。令和8年熊本地震のときは、厚生労働省の被害報(第16報・令和8年7月30日10時30分現在)にこう記録されています。

各都道府県・市町村に対し、被災者は被保険者証等を提示しなくても介護サービスを利用できるよう対応することを可能とする事務連絡を発出(7/28)

注目してほしいのは、宛先が「各都道府県・市町村」だったことです。 「災害救助法が適用された自治体に対して」ではありません。だからこの取扱いは、被災地の中だけの話ではなく、避難先が他県でも同じでした。

同じ被害報の中で、利用者負担の減免と介護保険施設等での定員超過利用は「災害救助法が適用された自治体に対して」周知されています。同じページの中で、項目ごとに宛先が違います。

なお、事務連絡が出ていなくても、事業所が市町村に照会して資格を確かめられることがほとんどです。 照会に要るのは、氏名・生年月日・住所。被保険者番号は分からなくてもかまいません。証がないというだけでサービスが止まることは、私が見てきた範囲ではまずありません。事務連絡は、その扱いを全国で確実にするために出るものです。

医療の窓口で言う4つと、介護の照会に要る3つ。どちらも「名前・生年月日・住所」が芯です。ここだけ覚えておけば足ります。

「誰あての通知か」は、範囲そのものではなく、範囲を読む入口

ここが、この記事でいちばん覚えて帰ってほしいところです。

宛先が教えてくれるのは、その通知がどの行政ルートを流れたかです。制度を使える人がどこにいるか、ではありません。

  • 「各都道府県・市町村に対し」 なら、全国の窓口に同じ紙が届いています。避難先が他県でも話が通ります
  • 「災害救助法が適用された自治体に対して」 なら、まずその自治体あてに出たもの。ただし「使える人が、その市町村の中にいる人だけ」という意味ではありません

後半が大事です。たとえば介護保険の利用者負担の減免を決めるのは、サービスを受けた場所の市町村ではなく、保険者、つまり親の住所地の市町村です。 親が他県のあなたの家に避難していても、保険者が減免を認めれば、避難先の事業所で効きます。

ただし、ここで終わりにしないでください。減免は、自動では付きません。 介護保険法は「市町村が…困難であると認めた」被保険者について負担割合を下げる、という書き方をしています(第50条)。地域まるごとに一律で当たるものではない、ということです。

流れは、親の市町村に申し出る → 減免の決定を受ける → その証明を事業所に示す、が一般的です。手続きの名前も様式も市町村で違うので、そこも含めて聞いてください。

実際、令和8年熊本地震の第16報も2段構えでした。熊本県あてに特別な対応を要請したうえで、その要請を行ったこと自体を各都道府県・市町村にも連絡しています。避難者を受け入れた自治体が動けるようにするためです。

だから、避難したから対象外、と自分で判断しないでください。 聞く先は避難先の役所ではなく、親の市町村です。

範囲を広く読み違えると、窓口で断られて二度手間になります。逆に狭く読み違えると、使えるはずの制度をあきらめる家族が出ます。災害のときに重いのは、後者です。

厚生労働省は災害が起きると「〇〇を震源とする地震について(第◯報)」という被害報を公開します。項目ごとの宛先が書かれているのは、ここです。 発災直後は1日に何度も更新されます。SNSでまとめられた要約ではなく、この被害報を見てください。厚生労働省のサイトの「災害・危機管理」のページから、災害ごとにたどれます(出典欄にURLを載せました)。

処方箋なしで薬を出してもらえるのは、被災地の薬局だけ

ここは誤解が広がりやすいところなので、範囲をはっきり書きます。

2026年3月31日付の通知(保医発0331第2号「災害発生時における保険診療関係等及び診療報酬の取扱いについて」)で、災害ごとの通知を待たずに適用される標準ルールができました。それまでは災害のたびに個別通知を出していた取扱いが、あらかじめ定められた形です。令和8年熊本地震でも、この通知の「対象となる災害」に該当することが周知されています。

ただし、どんな災害でも自動で動くわけではありません。 この通知が適用されるのは、DMAT(災害派遣医療チーム)の自動待機基準が当てはまる規模の災害に限られます(1.(1))。「標準ルールがあるから大丈夫」ではなく、「今回はこの通知の対象になったか」を確かめる、が正しい順番です。厚生労働省の被害報に、対象となる災害に該当する旨の周知が載ります。

通知自身も、災害によってはこのほかに通知を出すことがあるので、その場合は併せて参照するように、と断っています。

この通知の「4.被災地における保険調剤の取扱い」に、処方箋を持たずに来た患者への対応が書かれています。事後的に処方箋が発行されることを条件に、次の両方に当てはまる場合です。

  • 交通の遮断、近隣の医療機関の診療状況など、客観的にやむを得ない理由で医師の診療を受けられないと認められること
  • 主治医(連絡が取れない場合は他の医師)と、電話やメモなどで処方内容が確認できること

医療機関と連絡が取れないときは、服薬中の薬をなくした被災者であって、処方内容が安定した慢性疾患のものであることが、薬歴・お薬手帳・包装などから明らかな場合に認められる、とされています。後から医師に確認が入ります。

ここで効くのが、平時に撮っておいた写真です。

なお、これは薬局が「保険調剤として取り扱って差し支えない」という定めです。応じる義務があるわけではありません。 主治医と連絡が取れない、在庫がない、判断がつかない。断られることは実際にあります。そのときは次の薬局か、救護所を当たってください。

そして範囲です。見出しに書いたとおり、これは被災地の保険薬局の取扱いです。

  • 親を自分の家に呼び寄せたあと、近所の薬局で処方箋なしの調剤を頼むことはできません
  • 対象となる期間は、災害が発生した日の属する月と、その翌月です。ただし通知には「その後も引き続き継続する必要がある場合には、個別に取扱いを定める」と書かれています。翌月末で自動的に終わり、と決めつけないでください

ただし、これは「呼び寄せたら薬が手に入らない」という意味ではありません。呼び寄せ先では、受診すれば通常どおり処方箋が出ます。 保険証を持ち出せていなくても受診できることは、先に書いたとおりです。近所の内科でかまいません。

そのときに効くのが、また写真です。初めて診る医師にとって、今なにをどれだけ飲んでいるかが分かる1枚は、いちばん欲しい情報です。お薬手帳の現物があれば、なお早く済みます。

だから、呼び寄せるなら、お薬手帳と薬の現物を持って出てもらうことが最優先になります。着替えより先です。

呼び寄せたあと、やりがちな失敗

無事に呼び寄せたあとの話も書いておきます。ここは制度ではなく、現場で繰り返し見てきたことです。

慣れない家で転ばせたくないから、座っていてもらう。危ないから台所に立たせない。手が足りないから代わりにやる。ひとつずつは正しくて、積み重なると、2週間ほどで見違えるほど動けなくなる方がいます。

これは実感だけの話ではありません。厚生労働省が災害時に配布しているリーフレットに、避難生活で生活が不活発になる要因として、こう書かれています。

それまで自分で行っていた掃除や炊事、買い物等などができなかったり、ボランティアの方等から「自分達でやりますよ」と言われてあまり動かなかったり

同じリーフレットの予防のポイントには、「歩きにくくなっても、杖などで工夫をしましょう(すぐに車いすを使うのではなく)」「避難所でも楽しみや役割をもちましょう」という項目が並びます。

やらせるか、代わりにやるかの二択ではありません。 その日にできる工程まで分解して渡すことです。洗濯物を全部たたんでもらうのではなく、たたむ人と重ねる人に分ける。買い物に付き添うが、レジで財布を出すのは本人にしてもらう。

避難先が自宅であっても、避難所であっても、起きることは同じです。

現地に向かうかどうかを、何で決めるか

心配なら車を出したくなります。判断の材料は、気持ちではなく発表です。

地震のあとは、気象庁が「発生から1週間程度、同程度の地震に注意」といった呼びかけを出します。あわせて、家屋の倒壊や土砂災害の危険性が高まっている地域について、やむを得ない事情がない限り危険な場所に立ち入らないよう求めることがあります。その期間の中にいるかどうかを、まず気象庁の発表で確かめてください。

向かった先であなたが動けなくなると、親のためにできることが1つ減ります。ガソリン、水、食料を現地で買えば、その分だけ現地の在庫が減ります。

行かないと決めた日にできることは、意外と多いです。伝言を残す。事業所に連絡する。市町村の公式サイトで避難所の開設状況を見る。呼び寄せる場合の受け入れ準備をする。

家に被害があったら、罹災証明書

その後の手続きの入口になります。災害対策基本法第90条の2は、被災者から申請があったときは市町村長が遅滞なく調査して交付しなければならないと定めています。

受付の開始日と方法は市町村ごとに違います。電子申請を先に始めるところ、窓口だけのところ、両方あるところ。親の市町村名と「罹災証明」、または「り災証明」で検索して、その市町村の公式サイトを見てください。 自治体によって表記が違うので、片方で出なければもう片方を試します。

受付に期間を設けている市町村がほとんどです。 何か月と決まっているかは市町村で違います。「まだ落ち着かないから後で」と置いておくと、間に合わなくなります。開始日を調べるついでに、締切も見ておいてください。

遠方に避難していて窓口へ行けない場合の相談窓口を設けている市町村もあります。あきらめる前に一度問い合わせる価値があります。

検索したページは、まず更新日を見る

最後に、次の災害でも同じことが起きるので書いておきます。

過去の災害のときに作られたページが、そのまま検索の上位に残ります。 ボランティアの募集要項、申込フォーム、支援物資の送り先。当時は本物だった情報が、今回のものとして読まれます。

見分け方は簡単です。

  • ページの更新日を見る。今回の災害の発生日より後か
  • 災害の名前が今回のものか(「熊本地震」だけでは、2016年のものか2026年のものか分かりません)
  • 一次情報にたどり着けるか。市町村・都道府県・省庁のドメインまで戻れるか

制度の話も同じです。SNSで回ってくる「保険証なしでOK」「〇〇が無料になる」といった要約は、対象範囲がいちばん先に落ちます。落ちた結果、対象でない人が窓口で断られたり、対象なのにあきらめたりします。

面倒でも、厚生労働省の被害報と、親の市町村の公式サイト。この2つに戻ってください。

まとめ

平時にやること

1. 避難行動要支援者名簿への同意を出す(名簿に載ることと、地域の支援者へ情報が渡ることは別)

2. 個別避難計画があるか、避難先はどこかを確認する(福祉避難所へ直接行けるかは市町村で違う。当日開かないこともある)

3. お薬手帳・薬の包装・介護保険証・資格確認書を、帰省したときに写真で撮る(マイナンバーカードの裏面は撮らない)

4. 171で伝言を預ける電話番号を家族で決める(実家側の番号にすること)。体験利用日(毎月1日・15日ほか)に一度やってみる

5. 親のケアマネジャーの事業所名と電話番号を控え、自分の携帯番号を伝えておく

起きてからやること

1. かけ直すのをやめて、171とweb171に伝言を残す

2. つながったら、薬・水と食事・トイレ・電源・室温の5つを聞く

3. 保険証がなくても介護と医療をあきらめない。ただし「何も要らない」ではなく、窓口で氏名・生年月日・連絡先・住所を申し立てる(国保・後期高齢者の場合)

4. 処方箋なしの調剤は被災地の薬局の話。呼び寄せ先では受診して処方箋をもらう。だからお薬手帳と薬の現物を持って出てもらう

5. 現地へ向かうかは、気象庁の発表で決める

6. 制度の範囲は「誰あての通知か」から読む。「避難したから対象外」は自分で決めない。利用者負担の減免などは、親の市町村への申し出が要る

7. 家に被害があったら罹災証明書。受付には締切があるので、開始日と一緒に確認する

平時の5つは、全部あわせても半日かかりません。同意書の確認は電話1本、写真は5分、171の体験利用は毎月2回あります。

災害の日にできることを増やす方法は、今日のうちに済ませておくことだけです。

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出典

※本記事の制度に関する記述は2026年8月2日時点の資料に基づいています。災害時の取扱いは事務連絡によって追加・変更されます。実際に行動するときは、厚生労働省の被害報と、親が住む市町村の公式サイトで最新の情報をご確認ください。健康や薬に関することは、主治医・かかりつけ薬局の指示が優先します。

この記事を書いた人

むむぶどう

社会福祉士として福祉の現場に20年。デイサービス、地域包括支援センター、介護老人保健施設、病院の医療ソーシャルワーカーを経て、現在は介護支援専門員(ケアマネジャー)として約20件を担当しています。高齢者の訪問介護、障害のある方の居宅介護や行動援護にも携わっています。

担当している家の多くは、子が県外にいます。「何かあったら連絡します」と言われたまま、連絡先を交換していない家も少なくありません。この記事は、その距離のまま何ができるかを考えて書きました。

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