成年後見制度の完全ガイド|後見・保佐・補助の違いと使い方を現役後見人が解説

制度ガイド

「認知症の親の預金が、家族でも下ろせなくなった」
「施設の契約をしたいのに、本人が内容を理解できない」
「親の家を売って介護費用にあてたいけど、名義人が動けない」

こうした相談は、介護の現場で年々増えています。そして、その出口として出てくるのが「成年後見制度」です。

私は社会福祉士・ケアマネジャーとして20年、福祉の現場に関わってきました。今は実際に、判断能力が不十分になった方の「後見人」も務めています。つまり、この制度を「説明する側」であると同時に「現場で使っている側」でもあります。

成年後見制度は、家族にとって心強い仕組みである一方、「一度始めるとやめられない」「思ったより自由が利かない」という落とし穴もあります。この記事では、制度の全体像から、後見・保佐・補助の違い、申立ての流れ、費用、後見人にできること・できないこと、そして家族信託など他の選択肢との比較まで、現場目線で整理します。

※制度・金額は2026年6月時点の一般的な目安です。最終的には家庭裁判所・お住まいの市区町村・専門職(司法書士・弁護士・社会福祉士)にご確認ください。

そもそも成年後見制度とは何か

成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などで判断能力が不十分になった人の「財産」と「生活」を、法的に守るための仕組みです。

判断能力が落ちると、こんなことが起きます。

  • 銀行が「本人確認ができない」として口座を凍結する
  • 不利な契約(高額なリフォーム・必要のない保険など)を結ばされる
  • 介護施設の入所契約や、医療・福祉サービスの手続きが進まない

こうした時に、本人に代わって財産を管理し、契約などの法律行為を支える人を、家庭裁判所が選びます。それが「成年後見人」などです。

ポイントは、成年後見制度は「本人を守る」ための制度であって、「家族が自由にお金を使う」ための制度ではないということ。ここを誤解すると、後でつまずきます。

成年後見制度は大きく2種類ある

成年後見制度は、「法定後見」と「任意後見」の2つに分かれます。

法定後見|判断能力が落ちてから使う

すでに判断能力が不十分になった人のために、家庭裁判所が後見人等を選ぶタイプです。実際に使われている成年後見の大半がこちらです。

判断能力の程度によって、さらに「後見・保佐・補助」の3つに分かれます(次の章で詳しく解説します)。

任意後見|元気なうちに自分で備える

判断能力があるうちに、「将来、自分の判断能力が落ちたら、この人に任せたい」と自分で決めて契約しておくタイプです。契約は公正証書で作ります。

「子どもに頼みたい」「信頼できる専門職に頼みたい」と、本人の意思で後見人を選べるのが最大のメリット。ただし、実際に効力が発生するのは判断能力が落ちて家庭裁判所が「任意後見監督人」を選んでからです。

現場のひとこと:任意後見は「元気なうちにしか準備できない」のが盲点です。親が元気な今こそ、家族で話しておく価値があります。

法定後見の3類型|後見・保佐・補助の違い

ここが多くの人がつまずくポイントです。法定後見は、本人の判断能力の程度で3つに分かれます。

後見(被後見人)|判断能力が「欠けている」

日常的に、自分で判断することがほとんどできない状態。重度の認知症などが典型です。

  • 成年後見人が選任される
  • 後見人は、財産に関するほぼすべての法律行為を代理できる
  • 本人がした契約は、原則として後から取り消せる(日用品の購入など日常生活の行為は除く)

保佐(被保佐人)|判断能力が「著しく不十分」

簡単なことは自分でできるが、重要な財産行為(不動産の売買、お金の貸し借り、保証など)は一人では難しい状態。

  • 保佐人が選任される
  • 重要な行為について、保佐人の同意が必要になる(同意権)
  • 申立てで認められれば、特定の行為について代理権も付けられる

私が務めているのも、この「保佐人」です。本人にできることは本人にやってもらいながら、重要な場面だけ支える。「全部を取り上げる」のではなく「足りないところを補う」のが保佐のイメージです。

補助(被補助人)|判断能力が「不十分」

判断能力の低下が比較的軽く、多くのことは自分でできる状態。

  • 補助人が選任される
  • 本人が選んだ特定の行為に限って、同意権や代理権を付ける
  • 本人の意思を最も尊重するタイプ

現場のひとこと:「うちの親はどれ?」は家族では判断できません。最終的には医師の診断書をもとに家庭裁判所が決めます。迷ったら、まず地域包括支援センターか専門職に相談を。

成年後見人には誰がなるのか

「家族がなれるの?」という質問をよく受けます。答えは「なれることもあるが、家庭裁判所が決める」です。

成年後見人等になるのは、主に次の人たちです。

  • 家族・親族(子・配偶者・兄弟姉妹など)
  • 専門職(司法書士・弁護士・社会福祉士など)
  • 市民後見人(研修を受けた一般市民。自治体が支援)
  • 法人(社会福祉協議会・NPOなど)

近年は、財産が多い・家族間で意見が割れている・身上監護が複雑などのケースで、専門職が選ばれることが増えています。家族が後見人になりたいと希望しても、必ず通るとは限りません。

私のような社会福祉士が後見人・保佐人を務める場合、強みは「身上監護」、つまりお金の管理だけでなく、本人がどう暮らすかまで含めて支えられることです。介護や福祉サービスの調整に強いのは、福祉職後見人の特徴です。

申立ての流れ|誰が・どこに・どう申し込むか

法定後見は、家庭裁判所への「申立て」から始まります。

  1. 申立てができる人:本人、配偶者、四親等内の親族、市区町村長など
    – 身寄りがない人は「市区町村長申立て」という仕組みがあります
  2. 医師の診断書を準備:本人の判断能力の程度を示す重要書類
  3. 家庭裁判所へ申立て:申立書、戸籍、財産目録、収支予定表などを提出
  4. 調査・面談:裁判所の調査官が本人や家族から事情を聞く
  5. 必要に応じて鑑定:判断能力について医師が詳しく鑑定(省略されることも多い)
  6. 審判(決定):後見人等が選ばれ、制度がスタート

申立てから開始までは、おおむね数週間〜数か月。書類が多く、慣れていないと負担が大きいので、司法書士や弁護士に申立てを依頼する人も多いです。

現場のひとこと:「急いで施設に入れたい」「すぐ預金を使いたい」という理由で駆け込む家族が多いですが、後見はそんなに早くは動きません。必要になりそうなら、早めの準備が肝心です。

費用の現実|申立て費用と後見人報酬

お金の話は、家族がいちばん気にするところです。大きく2つに分かれます。

申立てにかかる費用(最初だけ)

  • 収入印紙・登記手数料・郵便切手など:合わせて1万円前後
  • 医師の診断書作成料:数千円程度
  • 鑑定が必要な場合の鑑定料:数万円〜10万円程度(省略されることも多い)
  • 司法書士・弁護士に申立てを依頼する場合の報酬:十数万円程度

後見人への報酬(毎年続く)

専門職が後見人になった場合、家庭裁判所が決める報酬を毎年支払い続けます

  • 目安:管理する財産が少なめなら月2万円前後から
  • 財産が多い・業務が複雑な場合は、より高くなる

ここが見落とされがちな最大のポイントです。成年後見は「一度始めると、本人が亡くなるまで原則続く」ため、報酬も継続的にかかります。「最初の手続きだけ」ではありません。

なお、お金に余裕がない方のために、申立て費用や報酬を助成する制度(成年後見制度利用支援事業)を持つ自治体もあります。市区町村の窓口で確認してください。

成年後見人に「できること・できないこと」

ここを誤解しているご家族が本当に多いので、はっきり整理します。

できること

  • 預貯金の管理・引き出し、収入や支出の管理
  • 不動産や重要な財産の管理(売却は家庭裁判所の許可が必要な場合あり)
  • 介護・福祉・医療サービスの契約手続き
  • 不利益な契約の取り消し(後見・保佐の場合)

できないこと

  • 医療行為への同意(手術の同意などは後見人の権限外とされる)
  • 身元保証人になること
  • 本人の代わりに日常の買い物をすべて決めること(本人の意思を尊重する)
  • 結婚・離婚・養子縁組・遺言など、本人だけが決められること(一身専属の行為)
  • 「家族のために」本人の財産を使うこと(本人のための支出が原則)

特に最後の項目は重要です。「親のお金で家のリフォームを」「孫の学費に」といった使い方は、本人の利益にならない限り認められません。後見人は本人の財産を守る立場であり、家族の意向どおりに動く人ではないのです。

現場のひとこと:「思ったより自由に使えない」という不満は、ここから生まれます。でもそれは制度が本人を守っている証拠でもあります。

知っておきたいデメリットと注意点

良い面だけでなく、使う前に知っておくべき注意点もあります。

  • 原則、途中でやめられない:「やっぱり家族でやる」と簡単には戻せません。本人が亡くなるか、判断能力が回復するまで続きます(※この「終身制」は2026年の法改正で見直される予定です。詳しくは後の章で解説します)
  • 報酬が継続的にかかる:専門職後見人の場合、毎年の負担が続きます
  • 家族の自由は制限される:本人の財産は後見人の管理下に入り、家族が自由に動かせなくなります
  • 専門職が選ばれると家族の希望どおりにならないことがある:誰が後見人になるかは家庭裁判所が決めます

これらは「制度が悪い」のではなく、「本人を守るために必要な仕組み」です。ただ、知らずに始めて「こんなはずじゃなかった」となる家族が多いのも事実。だからこそ、申立て前に全体像を理解しておくことが大切です。

【2026年改正】成年後見制度はこう変わる

ここまで解説してきた「3類型」「原則やめられない」という仕組みは、実は大きく見直されようとしています。

成年後見制度は2000年のスタート以来、初めての本格的な改正が進んでいます。2026年1月に法制審議会が改正の要綱案をまとめ、同年4月に政府が改正案を閣議決定しました。「使いにくい」「一度始めるとやめられない」という現場の不満に応えるための見直しです。

改正の柱は、大きく次の3つです。

① 終身制の廃止(途中で終われるようになる)

これまでは、一度始めると本人が亡くなるまで原則続きました。改正後は、家庭裁判所があらかじめ利用期間を区切れるようになり、目的を達したり、本人の判断能力が回復したりすれば、途中で終えられる仕組みが検討されています。「必要な時に、必要な期間だけ使う」制度へ変わるイメージです。

② 後見・保佐・補助の「一本化」

判断能力の程度で分けていた後見・保佐・補助の3類型のうち、「後見」「保佐」を廃止し、「補助」に一本化する方向で議論されています。本人の状態に合わせて、必要な支援だけを個別に選べる柔軟な形を目指しています。

③ 後見人を交代しやすくする

「本人の利益のために特に必要がある場合」に後見人を交代できるよう、理由が柔軟になる見込みです。相性や暮らしへの合い方に応じて、選び直しがしやすくなります。

いつから変わる?──今申し立てる人への影響

ここが大事なポイントです。改正案はまだ閣議決定の段階で、施行(実際に使われ始めるの)は2028年度ごろの見込みとされています。

つまり、この記事を読んでいる2026年時点で実際に申し立てる場合は、当面これまでの制度(後見・保佐・補助の3類型・原則継続)が適用されます。「もう一本化された」「すぐ途中でやめられる」わけではない点に注意してください。

現場のひとこと:私自身も保佐人として、この改正の行方を注視しています。これから利用を考えるご家族には、「今の制度」と「これから変わる方向」の両方を踏まえて、専門職に相談することをおすすめします。

成年後見以外の選択肢|家族信託・日常生活自立支援事業

「成年後見は重い」と感じる場合、ほかの選択肢もあります。状況に応じて使い分けましょう。

家族信託(民事信託)

元気なうちに、信頼できる家族に財産の管理を託しておく契約です。

  • 認知症になっても、家族が柔軟に財産を管理・活用できる
  • 不動産の組み替えや積極的な資産運用にも対応しやすい
  • ただし身上監護(生活面の支援)はカバーしない、契約に専門家の関与と費用が必要

「財産の管理・承継を柔軟にしたい」なら家族信託、「生活面まで法的に支えたい」なら成年後見、と役割が違います。

日常生活自立支援事業(社会福祉協議会)

判断能力に不安はあるが、契約能力は残っている人向けに、社会福祉協議会が日常的なお金の管理や手続きを支援してくれる仕組みです。

  • 福祉サービスの利用援助、日常的な金銭管理など
  • 比較的軽い支援。費用も後見より抑えられる
  • ただし不動産の処分など大きな法律行為はできない

現場のひとこと:いきなり成年後見を選ぶ前に、「日常生活自立支援事業で足りないか」を検討する価値があります。社協に相談してみてください。

迷ったときの相談先

成年後見は、家族だけで判断するには重いテーマです。次の窓口を頼ってください。

  • 制度を知りたい・親の状態を相談したい:地域包括支援センター/担当ケアマネ
  • 申立ての手続きを相談したい:司法書士・弁護士、各地の「成年後見センター・リーガルサポート」
  • 費用が不安:市区町村の窓口(成年後見制度利用支援事業)
  • 身寄りがない人の支援:市区町村(市町村長申立て)

相談は多くが無料です。「うちはどの制度が合うのか分からない」の一言で、整理を手伝ってもらえます。

まとめ|3つの行動指針

  1. 成年後見は「本人を守る」制度。家族が自由にお金を使う仕組みではないと理解する
  2. 一度始めると原則やめられず、報酬も続く。申立て前に全体像を把握する(※2026年改正でこの終身制は見直しへ)
  3. 「重い」と感じたら、家族信託・日常生活自立支援事業など他の選択肢も検討する
  4. 2026年に大きな改正が進行中。終身制廃止・3類型の一本化が予定されている(施行は2028年度ごろ見込み)。今の制度と、これから変わる方向の両方を踏まえる

判断能力が落ちてから慌てて動くと、選べる選択肢は限られます。親が元気な今のうちに、家族で「もしものとき、お金と生活をどう支えるか」を一度話しておく。それが、いちばんの備えになります。

迷ったら、まずは地域包括支援センターか、成年後見の専門職へ。動き出すのは今日からで間に合います。


この記事を書いた人

むむぶどう
社会福祉士・ケアマネジャー20年。介護施設・在宅サービスの現場で、ご本人とご家族の支援に関わってきました。現在は保佐人として、判断能力が不十分になった方の支援も務めています。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。

▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou
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