親のデイサービスの体験利用、日にちが決まった。あとは当日を待つだけ――そう思っていませんか。
実は、当日までに家族ができることが1つあります。事業所に「その人がどんな人か」を伝えることです。
伝えるといいのは、次の4つ。
- ①趣味・好きなこと・興味のあること
- ②体験を申し込むことになった経緯
- ③体験について、本人がどう思っているか
- ④家族として不安なところ
「病歴や家族構成は伝えなくていいの?」と思うかもしれません。それらの基本情報は多くの場合、ケアマネジャーから事業所へすでに書面で渡っています。家族が足せるのは、そこではありません。
私は社会福祉士として福祉の現場に20年。最初の職場のデイサービスでは、生活相談員として体験利用を受け入れる側にいました。今は介護支援専門員(ケアマネジャー)として、体験をお願いする側にいます。受け入れる側と依頼する側、両方の立場から見てきた「家族が足すといい4つ」を、この記事で順番に解説します。
病歴と家族構成は、もう事業所に伝わっています
まず前提から。家族が「一から全部説明しなければ」と気負う必要はありません。
デイサービスの体験利用が決まるまでには、ケアマネジャーが事業所とやり取りをしています。その過程で、基本的な情報は書面で事業所へ渡っているのが一般的です。
- 病歴・現在の体調
- 要介護度
- 家族構成・緊急連絡先
- 飲んでいる薬
- ふだんの生活の様子
いわゆる「フェイスシート」と呼ばれる書類のイメージです。様式は事業所やケアマネジャーによって違いますが、紙に書ける基本情報はすでに届いていると考えて大丈夫です。
ただし、体験の打診が電話だけで済んでいて、書面はまだ、という段階のこともあります。心配なら、担当のケアマネジャーに「事業所にはどこまで伝わっていますか」と一言確認すれば確実です。要支援で地域包括支援センターの担当者が付いている場合も、同じように聞けます。
だからこそ、家族が同じ内容を繰り返しても、事業所にとって新しい情報にはなりません。家族にしか渡せない情報は、別にあります。
体験利用が決まるまでの、おおまかな流れ
前提を共有するために、体験までの流れを簡単に整理しておきます。
1. ケアマネジャーと相談して、候補のデイサービスを決める
2. ケアマネジャーが事業所に打診し、基本情報を提供する
3. 見学や契約前の面談(事業所によって形はいろいろ)
4. 体験利用の当日
家族が事業所と直接話せるのは、主に3と4の場面です。つまり、2の段階で「紙の情報」はもう流れているということ。3と4で家族が同じ話を繰り返すのは、もったいない時間の使い方です。
紙の情報だけだと、事業所は「標準の対応」から始めるしかない
ここで1つ、押さえておきたいことがあります。最低限の情報しか届いていなければ、事業所が標準的な対応から始めるのは当然だということです。
初対面の相手について、病歴と家族構成しか知らなかったら、誰でも無難な接し方しかできません。これは事業所の落ち度ではなく、単に材料が足りないだけ。逆に言えば、渡す情報が増えるほど、事業所が動ける幅は広がります。
白状すると、私も以前は、病歴や家族構成といった「紙に書ける情報」を書いて渡すだけでした。今は、これから紹介する4つを意識して足すようにしています。何か大きな失敗があったわけではなく、経験を重ねるうちに少しずつ変わっていきました。
①趣味・好きなこと・興味のあることを伝える
4つの中で、最初に思い出してほしいのがこれです。
デイサービスは、レクリエーションや他の利用者さんとの会話など、「その人らしさ」が関わる場面の多いサービスです。趣味や好きなことは、スタッフが本人に声をかけるときの入口になります。
伝える内容は、立派な趣味でなくて構いません。
- 昔やっていたこと(園芸、裁縫、囲碁や将棋、長く続けた仕事)
- 今も好きなこと(野球中継、昔の歌謡曲、動物、甘いもの)
- 興味を持ちそうなこと(手先を使う作業、おしゃべり、歌)
「これといった趣味がない」という方なら、長く続けてきた仕事の話でも十分です。何十年も続けた仕事は、その人の得意なことや誇りとつながっています。
「話のきっかけ」を渡すつもりで伝える
伝えるときは、スタッフが「本人と何を話せばいいか」をイメージできる形にします。たとえばこんな一言です。
- 「父は長く大工をしていたので、ものづくりの話だと表情が変わります」
- 「母は歌が好きで、家では昔の歌謡曲をよく口ずさんでいます」
事実を1つ添えるだけで、初日の声のかけ方を考える材料になります。うまくまとめる必要はなく、思いついた順に話せば十分です。
本人に聞いても「何もない」と言われたら
「趣味は?」と本人に聞くと、「何もない」と返ってくることは珍しくありません。そんなときは、質問を変えるより、家族の記憶から拾う方が早いです。
- 昔の写真やアルバムに写っているもの(旅行、庭、飼っていた動物)
- 何度も繰り返し話す思い出話(仕事の話、子育ての話、故郷の話)
- テレビでつい手を止めて見ている番組
- 食卓で機嫌が良くなる好物
本人が「趣味」と呼んでいなくても、繰り返し口にする話題は立派な手がかりです。むしろ、本人が自覚していない「好き」を知っているのが家族の強みだと思ってください。
②体験を申し込むことになった経緯を伝える
「なぜ今、デイサービスなのか」。この背景を語れるのは家族だけです。
同じ体験利用でも、そこに至る道は家庭ごとに違います。
- 退院してから体力が落ち、家に閉じこもりがちになった
- 日中ひとりで過ごす時間が長く、家族が心配している
- 介護をする家族の負担が大きくなってきた
- 本人が「人と話す場がほしい」と言い出した
経緯がわかると、事業所はこの体験で何を大切にするかを考えやすくなります。「体を動かす機会」を求めている方と、「人との交流」を求めている方とでは、見るポイントが変わってくるからです。
長い説明は要りません。「入院をきっかけに外に出なくなってしまって。まずは週1回、外に出る場を作りたいんです」。この1〜2文で、体験の目的まで一緒に伝わります。
③体験について、本人がどう思っているかを伝える
4つの中で、いちばん見落とされやすい項目です。
体験に前向きな方ばかりではありません。本人の気持ちには幅があります。
- 「行ってみようかな」と乗り気
- 「1回だけなら」としぶしぶ承知した
- 「家族に言われたから」と、本音では気が進まない
- 「年寄り扱いされたくない」と抵抗がある
本人がどの状態かで、初日の関わり方は変わってきます。気が進まない方に楽しさを前面に出してすすめると、かえって心を閉ざしてしまうかもしれません。しぶしぶ承知した方なら、「無理にすすめないでほしい」と先に頼んでおく手もあります。
ここで大事なのは、本人の気持ちを良く見せようとしないことです。「実は気が進まないようです」は、事業所を困らせる情報ではありません。関わり方を考えるための、大事な材料です。
本人の前では言いにくい。そんなときは
「気が進まないみたいで」とは、本人を隣にして言いづらいものです。無理にその場で伝える必要はありません。
- 見学のとき、本人がトイレや館内を見ている間に一言
- あとから事業所へ電話で補足する
- ケアマネジャーに「こう伝えておいてほしい」と頼む
- メモに書いて、送り出しのときに渡す
どの方法でも構いません。伝わりさえすれば、形は自由です。本人の尊厳を守りながら、必要な情報は届ける。この両立に、家族が悩む必要はありません。届け方はいくらでもあります。
④家族として不安なところを伝える
最後は、家族自身の心配ごとです。遠慮して飲み込む必要はありません。
- トイレの失敗がないか心配
- 食事の好き嫌いが多く、残してしまわないか
- 他の利用者さんとうまくやれるか
- 途中で「帰りたい」と言い出さないか
- 送迎の車に乗るのを嫌がらないか
不安を伝えることは、クレームでも要求でもありません。事業所にとっては「体験中に気をつけて見るポイント」のリストになります。体験のあとに「実際はどうでしたか」と聞くときの手がかりにもなります。
不安は「質問」の形にすると伝えやすい
そのまま口にしづらいときは、質問に変えてみてください。
「トイレの失敗が心配なのですが、体験のときはどんなふうに見ていただけますか」
不安+質問の形にすると、角を立てずに伝えられます。しかも、事業所の答え方から、その事業所の姿勢まで見えてきます。
なお、不安が大きくて1回の体験では判断できそうにないときは、その気持ちごとケアマネジャーに相談してみてください。事業所との間に入って、進め方を一緒に考えるのがケアマネジャーの役割です。見学の場で事業所に確認したいことは、別の記事で4つの質問にまとめています。
→ デイサービスの選び方|見学で聞く4つの質問を現役ケアマネが解説
いつ・誰に・どうやって伝える?
伝える中身が決まったら、あとはタイミングです。機会は主に3つあります。
1. 見学・契約のときに、事業所へ直接
体験の前に、見学や説明の場が設けられることが多いです。このときに4つを直接伝えるのが基本です。対面なら、事業所側からの質問も引き出せます。
2. ケアマネジャーに託す
直接は言いにくいこと、伝え忘れが心配なことは、ケアマネジャー経由でも構いません。「事業所さんにこう伝えておいてほしい」と頼めば、ケアマネジャーからの情報提供に足してもらえます。
3. 体験当日、送り出しの一言で
当日の体調や気分は、当日にしかわかりません。「昨夜はあまり眠れていません」「今朝は乗り気です」。送迎スタッフへのこの一言が、初日の関わり方のヒントになります。
口頭だけだと、どうしても伝え漏れが出ます。A4一枚のメモに箇条書きにして渡す方法は、ショートステイの記事で詳しく書きました。デイサービスの体験でも、同じ形がそのまま使えます。
→ 初めてのショートステイで施設に伝えるべき5つのこと|A4一枚のメモで「いつもの本人」を守る
「伝えすぎ」は迷惑にならない?
「こんなに話したら迷惑では」と心配になる方もいます。目安を持っておけば大丈夫です。
- 口頭なら、4つ合わせて数分で話せる分量
- メモなら、A4一枚に収まる分量
この範囲なら、事業所の負担にはなりません。むしろ受け入れる側にとって、初めての方の情報は少ないより多い方がありがたいものです。
避けたいのは、量より「盛る」こと。心配のあまり深刻に脚色したり、逆に本人を良く見せようと取り繕ったりすると、事業所は実際の本人とのずれに戸惑います。ありのままを、短く。これだけ意識すれば十分です。
体験のあとは、伝えた4つを軸に振り返る
実は、この4つには続きがあります。体験後の振り返りの物差しになるのです。
体験が終わると、事業所から様子の報告があります。そのとき、事前に伝えた4つに沿って聞いてみてください。
- ①趣味の話は出ましたか。本人の反応はどうでしたか
- ②(経緯で伝えた目的に対して)体を動かす場面、人と話す場面はありましたか
- ③気が進まない様子は見られましたか。途中から変わりましたか
- ④心配していたトイレや食事は、実際どうでしたか
何も伝えていなければ、「どうでしたか」「楽しそうでしたよ」で終わってしまいがちです。事前に4つを渡してあるからこそ、具体的な答えが返ってくる質問ができます。
その答えは、このまま利用を始めるか、別の事業所も見てみるかを決める判断材料になります。体験前に伝えることは、体験後の判断まで含めた準備なのです。
伝えると、何が変わるのか
正直に書きます。「伝えれば必ず対応が良くなる」とは言えません。事業所の体制やその日の状況によって、できることは違うからです。
そのうえで、私自身の経験を1つだけ。ケアマネジャーとして体験をお願いするとき、この4つを伝えるようにしてから、伝えた内容が実際のサービス提供に反映されることがありました。
考えてみれば、自然なことです。事業所が「その人に合わせたい」と思っても、材料がなければ合わせようがありません。材料を渡すことは、家族とケアマネジャーにしかできない仕事です。
渡す情報が変われば、返ってくるサービスの中身も変わりえます。だからこそ、紙に書ける情報の先にある「その人がどんな人か」を渡してほしいのです。
まとめ|家族が足せるのは「その人がどんな人か」
– 病歴・家族構成などの基本情報は、ケアマネジャー経由で事業所にすでに渡っている
– 家族が足すのは4つ。①趣味・好きなこと ②体験に至った経緯 ③本人の気持ち ④不安なところ
– 伝える機会は「見学・契約時」「ケアマネジャー経由」「当日の送り出し」の3つ
– 伝えた4つは、体験後に様子を聞くときの物差しにもなる
– 効果の約束はできない。ただ、材料がなければ事業所は合わせようがない
身構えなくて大丈夫です。体験当日、送り出しの一言からで構いません。「その人がどんな人か」を、ぜひ事業所に渡してみてください。
これからデイサービスを探す段階の方は、選び方の記事もあわせてどうぞ。
→ デイサービスの選び方|見学で聞く4つの質問を現役ケアマネが解説
この記事を書いた人
むむぶどう
社会福祉士・ケアマネジャー。社会福祉士として福祉の現場に20年、介護施設・在宅サービスでご本人とご家族の支援に関わってきました。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。
▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou
▶ X(毎朝のつぶやき・現場の小ネタ):https://x.com/mumubudo
ブログでは「制度の使い方」を、noteでは「現場のリアル」を、Xでは「今日の気づき」を発信しています。
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