「うちは貯金が少ないから、ヘルパーさんなんて頼めない」「施設なんて、お金に余裕がある家の話でしょう」。親の介護が現実味を帯びてきたのに、お金の不安が先に立って、どこにも相談できずにいませんか。
結論から書きます。「お金がないから福祉は使えない」は誤解です。相談も、介護保険の申請も、ケアプランの作成も、お金はかかりません。さらに、所得に応じて負担を軽くする制度が用意されています。だから順番はひとつ。お金の心配がある人ほど、先に相談する。これだけです。
私は社会福祉士として福祉の現場に20年、現役のケアマネジャーとして働いています。現場で見ていると、困っているのに「お金がないから」と何も動かない方は意外なほど多い。この記事では、その一歩を踏み出せるように、「無料でできることの全体地図」と「行政の相談窓口の選び方」、そして「相談の一歩目の踏み出し方」を整理します。
※制度の細かい条件や金額は、市町村や世帯の状況によって変わります。最終的には必ずお住まいの窓口で確認してください。
なぜ「お金がないから福祉は使えない」は誤解なの?
理由は2つあります。
理由1:入口には、お金がかからない
福祉サービスは「入口が無料」の仕組みになっています。地域包括支援センターへの相談は無料。介護保険の申請に手数料はなく、認定調査にも費用はかかりません。ケアプランの作成も、現在の制度では自己負担がありません。
つまり、「自分の場合はどうなるか」を確かめるところまで、財布を開く場面がひとつもない。使うかどうかは、それを聞いてから決めればいい話です。
理由2:所得が少ない人ほど、負担を軽くする制度がある
介護保険の自己負担には月ごとの上限があり、超えた分は払い戻されます(高額介護サービス費)。特別養護老人ホームなどの介護保険施設に入る場合も、食費や部屋代には所得や資産の状況に応じた減免があります。制度の中身にはこの記事では踏み込みません。それぞれ別の記事に詳しくまとめています。
▶ 関連記事:高額介護サービス費とは|上限を超えた介護費が戻る制度を現役20年の社会福祉士が解説
▶ 関連記事:「特養は安い」は本当?減免が効かないと月15万円弱|施設費用の”漠然イメージ”に振り回されないための整理
制度は「お金がある人向け」ではありません。むしろ、お金が心配な世帯ほど守られる方向に設計されています。
動かないことのほうが、実は高くつく
逆のケースを想像してみてください。相談しないまま家族だけで介護を抱えると、仕事を減らす、体を壊す、共倒れになる——お金と体力の両方を失う道に進みがちです。「お金がないから動かない」は節約ではなく、いちばん高い選択になりかねません。
お金をかけずにできることは何がある?【全体地図】
まず、「0円のままどこまで進めるか」の地図を持ちませんか。答えを先に書くと、サービスを使い始める直前まで、全部0円です。
その1:相談する(0円)
- 地域包括支援センターの相談は無料
- 市役所の窓口(高齢福祉・生活保護など)の相談も無料
- 1回で決められなくても、何度相談しても費用はかからない
その2:介護保険を申請して、認定を受ける(0円)
- 申請に手数料はかからない
- 認定調査(訪問調査)も無料
- 主治医意見書の費用は市町村が負担する
申請の窓口・必要書類・認定までの流れは、こちらの記事に一気通貫でまとめています。
▶ 関連記事:介護保険の申請から要介護認定までの完全ガイド|現役ケアマネが教える流れ・必要書類・期間
その3:ケアプランを作る(0円)
要介護認定が出たら、ケアマネジャーがケアプランを作ります。この作成費用も、現在の制度では自己負担がありません。プランを作ったうえで「やっぱり今は使わない」という判断も可能です。
その4:使い始めた後も、負担を軽くする制度で守られる
サービスを使い始めると、費用の1〜3割の自己負担が発生します。ただし前述のとおり、月額の上限や減免の仕組みがあり、65歳以上の場合、自己負担の割合そのものも所得で決まる設計です。実際に月いくらかかるかの目安は、シミュレーション記事で確認できます。
▶ 関連記事:在宅介護にかかる月額費用シミュレーション|要介護1〜5の現実と、家計を守る制度の使い方
▶ 関連記事:介護保険の負担割合|1割・2割・3割の確認方法と、施設選びの答えが変わる理由
どこに相談すればいいですか?——行政の窓口をすすめる理由
相談できる場所はたくさんあります。ただ、お金が不安な段階でまず使ってほしいのは行政の立場の窓口です。困りごと別に3つ挙げます。
高齢の家族の介護が心配 → 地域包括支援センター
高齢者の総合相談窓口で、全国の市町村に設置されています。介護保険を使うかどうかを決める手前の、「これって相談していい話?」という段階から乗ってくれる場所です。役割と使い方は別記事にまとめています。
▶ 関連記事:地域包括支援センターとは?相談できること・使い方・探し方を完全解説【社会福祉士監修】
生活費そのものが苦しい → 市役所の生活保護担当(福祉事務所)
介護どころか、毎月の生活費が回らない。そういうときの相談・申請窓口は、お住まいの地域を所管する福祉事務所の生活保護担当です。市では「生活福祉課」などの名前で置かれています。福祉事務所を置いていない町村では、都道府県の福祉事務所が担当します。その場合でも、町村役場で申請の手続きができます。
保護までは考えていないが、家計が不安 → 生活困窮者自立支援制度の窓口
「保護を受けるほどではない気がする。でも、このままだと危ない」。その段階の方のために、生活困窮者自立支援制度の相談窓口が各自治体にあります。仕事・家計・住まいの立て直しを一緒に考えてくれる窓口です。
なぜ「行政」を最初にすすめるのか
行政の立場の窓口は、特定のサービスや施設を売る立場ではないためです。民間の紹介サービスや相談窓口が悪いという意味ではありません。ただ、お金が不安な段階では、利害のない立場に最初に話すのが安全な順番だと考えています。
高齢のご家族のことでどの窓口か迷ったら、まず地域包括支援センターで構いません。別の窓口が適切な内容なら、そこからつないでもらえます。
生活保護の相談は、敷居が高くないですか?
いちばん相談をためらう窓口が、おそらくここではないでしょうか。実際にあった話をひとつ書きます(個人が特定されないよう、詳細は省いています)。
相談に行ったことで、介護と医療の心配が減った方がいた
実態把握で訪問していた高齢の方が、まさに「お金がないから」と動けずにいる状態でした。生活保護の制度を説明したところ、その方は生活福祉課へ相談に行きました。その結果、保護を受給することとなり、介護と医療の心配が減りました。
動けなかった期間と、相談してからの変化。その差を生んだのは、資産でも運でもなく、窓口に行ったかどうかだけです。同じように、あと一歩が出ないだけの方は、きっと多いはず。この記事がその一歩の後押しになればと思っています。
「必ず受給できる」という話ではありません
大事な注意をひとつ。生活保護を受給できるかどうか(要否判定)は、資産や収入などをもとに福祉事務所が判断します。相談すれば必ず受給できる、という話ではありません。
ただ、相談しなければ、要否の判定すら受けられないままになります。相談は無料で、相談したからといって申請を強制されることもありません。「自分の場合はどうか」を確かめる価値は十分にあります。
なお、生活保護を受けながら入居できる施設については、別の記事で詳しく書いています。
▶ 関連記事:生活保護でも入れる老人ホームの探し方|現役の社会福祉士が現場でやっている手順【完全ガイド】
相談の一歩目は、どう踏み出せばいいですか?
窓口が分かっても、最初の一歩が重い。そういう方のために、ハードルを下げる方法を3つ書きます。
電話1本から始めていい
窓口に出向く必要はありません。「お住まいの市町村名+地域包括支援センター」で検索するか、市役所の代表番号に電話して「高齢者の介護のことで相談したい」と伝えれば、担当につないでもらえます。書類も予約も、原則要りません。
電話が苦手なら、市役所や地域包括支援センターへ直接出向いても構いません。どの課に行けばいいか分からなければ、庁舎入口の総合案内で「介護とお金のことで相談したい」と言えば案内してもらえます。
伝えることは3つだけ
うまく説明できなくても大丈夫です。次の3つが伝われば、あとは窓口の側が質問してくれます。
- 誰のことで困っているか(例:80代の母、別居)
- いちばん困っていること(例:物忘れが増えて、火の始末が心配)
- お金の心配があること
お金の心配は、最初に言っていい
「お金に余裕がないので、費用がかからない方法から知りたい」。この一言を、最初に伝えて構いません。恥ずかしいことでも、失礼なことでもありません。むしろ窓口の側は、その情報があるほど、負担軽減の制度を前提にした提案がしやすくなります。まずは、この一言から始めてみませんか。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相談したら、申請やサービス契約をすすめられませんか?
相談だけで帰って構いません。介護保険を申請するかも、サービスを使うかも、決めるのは本人と家族です。「今日は話を聞くだけ」と最初に伝えても大丈夫です。
Q2. 本人が動けません。家族だけで相談してもいいですか?
家族だけの相談で大丈夫です。地域包括支援センターは、本人だけでなく家族からの相談も受け付けています。離れて暮らしている場合は、親が住んでいる市町村の窓口に電話してください。
Q3. 生活保護を受けると、介護サービスは使えなくなりませんか?
逆です。生活保護には介護扶助という仕組みがあり、必要な介護サービスは保護を受けながら利用できます。医療も同じで、医療扶助により必要な受診が保障されます。
Q4. どのタイミングで相談すればいいですか?
「困りきる前」です。介護保険は申請から認定まで日数がかかるため、限界が来てから動くと間に合いません。「そろそろ心配」と感じている今が、ちょうどいいタイミングです。
Q5. 民間の相談窓口や施設紹介サービスを使ってはだめですか?
だめではありません。民間にも力になってくれる窓口はあります。ただ、お金が不安な段階では、まず利害のない行政の窓口で「使える制度の全体像」を確かめてから使う順番をおすすめします。順番が逆になると、費用の軽減策を知らないまま話が進んでしまいかねないためです。
まとめ|お金が不安なら、順番は「相談が先」
- 「お金がないから福祉は使えない」は誤解。入口(相談・申請・ケアプラン)は0円
- 所得が少ない世帯ほど、負担を軽くする制度で守られる設計になっている
- 相談先は行政の窓口から。介護の心配は地域包括支援センター、生活費の心配は市役所の生活保護担当(福祉事務所)へ
- 生活保護の要否判定は福祉事務所が行う。ただし、相談しなければ判定の土俵にも乗らない
- 一歩目は電話1本。「誰のことか・何に困っているか・お金の心配があること」の3つを伝えるだけでいい
お金の不安は、ひとりで抱えている間はどんどん膨らみます。無料の窓口に下ろした瞬間から、それは具体的な選択肢の話に変わります。今週、電話を1本かけてみませんか。
【参考文献】
- 厚生労働省「生活保護制度」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059425.html
この記事を書いた人
むむぶどう🍇
社会福祉士・ケアマネジャー。社会福祉士として福祉の現場に20年、介護施設・在宅サービスでご本人とご家族の支援に関わってきました。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。
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