「最近、母が同じ話を何度もする」
「父が、約束をすっぽかすことが増えてきた」
「年齢のせいか、それとも認知症の始まりなのか、判断がつかない」
親の「あれ?」が気になり始めたご家族から、こうしたご相談を本当によく受けます。けれど、いざ調べてみると情報は多すぎるし、専門用語ばかり。「結局、どこに相談すればいいのか分からない」まま、時間だけが過ぎていく——これが、現場でいちばん多いつまずきです。
私は現役の社会福祉士として20年、現役のケアマネジャーとして福祉の現場に関わってきました。現在は介護事業所の所長を務め、認知症の初期段階のご家族から重度の方まで、毎日のように相談を受けています。
その経験から、ひとつ確かに言えることがあります。認知症は、早く気づいて早く相談したご家族ほど、その後の生活が穏やかに整います。 逆に、「まだ大丈夫」「うちの親に限って」と先延ばしにすると、選べる選択肢が一気に減ります。
この記事では、認知症の早期サイン10項目・加齢のもの忘れとの違い・最初に頼るべき3つの窓口・受診を嫌がる親への切り出し方・診断後に使える制度まで、現場目線でまとめました。
※制度・サービスの記述は2026年6月時点の一般的な内容です。最終的な判断は、ご本人・ご家族と、かかりつけ医や市区町村の窓口にご相談ください。
まず結論|「あれ?」と思ったら、まず地域包括支援センターに電話してOK
最初に結論からお伝えします。「もしかして認知症かも」と思ったら、診断より先に、まず地域包括支援センターに電話して構いません。
- 相談は無料、予約も基本不要
- 「まだ受診させていない」段階でも大丈夫
- 認知症の専門相談・受診先の紹介・家族の困りごと整理まで、ワンストップで対応
- 介護保険のことも、ここから始められる
「いきなり病院は気が引ける」「親に切り出せない」というご家族の最初の一歩として、地域包括は本当に使いやすい窓口です。これは介護保険法に基づき市区町村が設置している公的な総合相談窓口で、誰でも無料で相談できます(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/ )。
現場のひとこと:相談に来られたご家族の多くが「もっと早く電話すればよかった」とおっしゃいます。「まだ早い」と感じる段階こそ、いちばん相談しやすいタイミングです。
認知症の早期サイン10項目|現場で「あ、これは」と感じる兆候
20年の現場で「これが出始めたら早めに相談を」と感じてきたサインを10項目にまとめました。1つでも当てはまり、それが数か月続いているなら、相談の検討時期です。
生活の中で気づくサイン
- 同じ話を何度も繰り返す——直前に話したことを忘れる。1日に何度も同じことを聞かれる
- 約束や予定をすっぽかす——通院日や家族との約束を忘れる。カレンダーに書いても見落とす
- 料理の味や手順が変わる——長年作ってきた料理の味付けが変わる、火を消し忘れる、鍋を焦がす
- 同じものを何度も買ってくる——冷蔵庫に同じ食材がいくつもある、賞味期限切れが増える
お金・手続きで気づくサイン
- 小銭が使えなくなる——お札ばかりで支払い、財布の中が小銭でパンパンになる
- 通帳の管理が雑になる——記帳に行かない、引き落としを把握していない、不審な勧誘契約がある
- 役所の書類や郵便物を開けないまま放置する——介護保険・年金・税金などの大事な通知が溜まる
性格・行動の変化として現れるサイン
- 怒りっぽくなった・頑固になった——以前なら受け流せたことで急に怒る、外出を嫌がる
- 身だしなみに無頓着になる——服装が季節と合わない、入浴・着替えの頻度が減る
- 道に迷う・帰り道が分からなくなる——よく知っているはずの場所で「ここはどこ?」となる
これは「加齢によるもの忘れ」とは性質が違います。「忘れた」ことの一部ではなく「忘れた」こと自体を忘れる、生活に支障が出る、これが認知症のサインの特徴です。
現場のひとこと:離れて暮らすご家族は、お盆や正月など久しぶりに会ったときに「あれ?」と感じることが多いです。直感は当たります。「気のせいかな」で流さないでください。
「もの忘れ」と「認知症」はどう違うのか|加齢との見分け方
「年齢のせいなのか、認知症なのか分からない」——これも本当によく聞かれます。両者は性質が違うので、ポイントを押さえれば見分けがつきやすくなります。
加齢によるもの忘れの特徴
- 体験の一部を忘れる(昨日の夕食の「メニュー」を忘れる)
- ヒントがあれば思い出せる
- 忘れたこと自体は自覚している
- 生活には支障が出ない
- 進行はゆっくり、急に悪くなることは少ない
認知症によるもの忘れの特徴
- 体験の全体を忘れる(昨日「夕食を食べたこと自体」を忘れる)
- ヒントを与えても思い出せない
- 忘れたこと自体を忘れている(「私は忘れていない」と言い張る)
- 生活に支障が出る(料理・買い物・服薬・お金の管理など)
- 数か月〜数年の単位で進行していく
ざっくり言えば、「忘れたことを忘れている」「生活に支障が出ている」——この2つが揃ったら、加齢のもの忘れではなく、認知症の可能性を考える段階です。
ただし、認知症と間違えやすい状態もあります。うつ病・甲状腺機能の低下・薬の副作用・脱水・難聴などでも、似た症状が出ることがあります。「治療できる原因」が隠れていることもあるので、自己判断せず、医療機関で診てもらうのが安心です。
現場のひとこと:「年だから」で片付けるのが、いちばんもったいない。早く受診すれば、治療できる原因が見つかることもありますし、認知症だった場合も進行をゆるやかにする手立てが早く打てます。
まず相談すべき3つの窓口|地域包括・かかりつけ医・認知症疾患医療センター
「相談する」と言っても、どこに何を聞けばいいのか分からない——というご家族のために、最初に頼るべき3つの窓口を整理します。順番に頼っていけば、まず迷子になりません。
窓口1|地域包括支援センター(最初の入口)
最初に電話する場所はここ、と覚えてください。 介護保険法に基づき市区町村が設置する、高齢者の総合相談窓口です。中学校区に1か所程度の密度で配置されています。
- 相談無料、予約も基本不要
- 社会福祉士・保健師・主任ケアマネジャーなど専門職が常駐
- 受診先の紹介、介護保険の申請手続き、家族会議の同席まで対応
- 「親の様子がおかしい」段階から相談できる
親の住所地のセンターが窓口です。場所は市区町村のウェブサイトまたは高齢福祉担当窓口で確認できます(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/ )。
窓口2|かかりつけ医(最初の受診)
長年通っている内科などのかかりつけ医があれば、最初の受診先として最適です。理由は3つ。
- 親が「いつもの先生」だと受診を受け入れやすい
- 持病・服薬の経過を把握しているので、薬の副作用との見分けがつきやすい
- 必要に応じて、専門の医療機関に紹介状を書いてもらえる
最近は「認知症サポート医」「もの忘れ相談医」の研修を受けたかかりつけ医も増えています。「もの忘れが気になるので、一度診てもらえますか」と切り出して大丈夫です。
窓口3|認知症疾患医療センター(専門診断・BPSD対応)
「専門的な鑑別診断」「行動・心理症状(BPSD)への対応」が必要なときの専門機関です。各都道府県・指定都市が指定した医療機関に設置されています。
- 認知症かどうか、認知症の中でもどのタイプかを詳しく鑑別診断
- 周辺症状(夜間徘徊・暴言・幻覚など)への急性期対応
- 専門医療相談、地域の医療・福祉機関との連携
センターの一覧は厚労省サイトで公開されています(出典:厚生労働省「主な認知症施策について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00006.html )。いきなりここに行かなくて構いません。 地域包括やかかりつけ医経由で紹介してもらうのが、現場では一般的な流れです。
現場のひとこと:3つの窓口は「対立」ではなく「連携」です。地域包括に電話して、かかりつけ医で受診し、必要なら認知症疾患医療センターへ——この流れに乗ると、ご家族の負担が一気に軽くなります。
受診を嫌がる親への切り出し方|現場で効くフレーズ集
ここが、認知症の早期発見でいちばんの壁です。ご家族の8割は「受診をどう切り出すか」で悩みます。 20年の現場で「これは効いた」というフレーズと進め方を共有します。
切り出し方の原則
- 「認知症の検査に行こう」とは言わない——本人のプライドを直撃し、ほぼ確実に拒否される
- 「健康診断」「人間ドック」の延長として誘う——「年に1度の健康チェック」が無難
- 主語を「子どもの安心」にする——「お母さんが心配で眠れない。安心させてほしい」
- 一度で受診させようとしない——時間をかけて、何度か話す
現場で効くフレーズ集
- 「最近、健康診断で脳のチェックもやってくれる病院が増えたんだって。一緒に行ってみない?」
- 「私が心配で眠れないから、お父さん、安心させてほしい」
- 「運転免許の更新で、こういう検査するでしょ?同じようなことを病院でやるだけだよ」
- 「血液検査のついでに、もの忘れの相談もできるって聞いたよ」
- 「先生(かかりつけ医)が、一度詳しく診たいって言ってたよ」
それでも拒否されたとき
- かかりつけ医に事前に事情を伝えておく——次回の通院時、自然に話を振ってもらう
- 地域包括に相談し、訪問相談を依頼する(自宅まで来てくれる地域も多い)
- 別居の場合は、信頼している親族(兄弟・甥姪・古い友人)から話してもらう
無理やり連れて行くと、本人の心に深い傷が残り、その後の介護がさらに大変になります。「説得」より「納得」。時間がかかっても、本人が「行ってもいいか」と思える形を作るのが、結果的に近道です。
現場のひとこと:私が同席する受診で印象的なのは、いちばん抵抗していた方ほど、診断後「相談できて気が楽になった」と表情が和らぐこと。本人も、実はどこかで不安を抱えていることが多いのです。
診断後に使える制度・サービス|選択肢の全体像
「認知症」と診断された後、ご家族が知っておくべき制度・サービスを整理します。すべてを一度に使う必要はありません。 必要なものから、ケアマネや地域包括と相談しながら使っていきます。
介護保険の申請(最優先)
- 市区町村の介護保険窓口に申請——主治医意見書と訪問調査をもとに、要介護度が認定される
- 要支援1〜要介護5のいずれかになると、デイサービス・訪問介護・福祉用具レンタルなどが1〜3割負担で使える
- 申請から認定まで約1か月。申請日に遡って使えるので、迷ったら早めに申請
自立支援医療(精神通院医療)
- 認知症の通院医療費の自己負担を1割に軽減する制度
- 所得に応じた月額上限あり
- 市区町村の障害福祉担当窓口で申請
精神障害者保健福祉手帳
- 認知症の症状や生活への支障に応じて、1〜3級の手帳が交付されることがある
- 税金の控除、公共料金の割引、各種福祉サービスの利用に活用できる
- こちらも市区町村の障害福祉担当窓口へ
成年後見制度・家族信託
- 判断能力が落ちて預金が下ろせない・施設契約ができない段階で必要になる
- 成年後見制度は「本人を守る」公的な仕組み、家族信託は「家族で財産管理を柔軟に」する仕組み
- 詳しくは「成年後見制度の完全ガイド」「家族信託vs成年後見」で解説しています
認知症カフェ・家族会
- 同じ立場の家族と話せる場所——孤立を防ぐ意味でも、早めに知っておきたい資源
- 地域包括や認知症疾患医療センターで紹介してもらえる
これらの制度は、「使わないと損」ではなく「必要なときに使える」ことを知っておくのが大事です。地域包括や担当ケアマネが、その都度どれを使うか整理してくれます。
現場のひとこと:制度は「知っている人だけが使える」のが現実。診断が出た時点で、地域包括に「使える制度を一通り教えてください」と聞くのがおすすめです。
家族が壊れないための3つの鉄則|介護を10年続けるために
最後に、20年現場で見てきた「家族が壊れる介護」と「続けられる介護」の差を、3つの鉄則にまとめます。
鉄則1|一人で抱えない
近くに住む1人(多くは長女・嫁)に介護が集中すると、その人が倒れたとき、家族全体が崩れます。 兄弟・親族で「全員が同じ情報を持つ」状態を作ってください。家族会議の進め方は「家族会議の進め方」で解説しています。
鉄則2|制度を全部使う
「家族でやれることはやってから」と頑張る方が多いですが、プロに任せられることを早く任せた家族のほうが、結果的に長く介護を続けられます。 デイサービス・ショートステイ・訪問介護を早めに組み込み、家族が休める時間を確保してください。ケアプラン作成の流れは「ケアプラン作成の流れ」で解説しています。
鉄則3|早めに家族会議を開く
判断能力があるうちに、本人を交えて「これから」を話しておくこと。受けたい医療・暮らしたい場所・お金の管理を誰に任せるか——元気なときの一言が、後の家族を救います。任意後見契約や家族信託も、判断能力があるうちにしか結べません。
これは「介護を辛いものにしない」というより、「介護を、家族の関係を壊さないものにする」鉄則です。
現場のひとこと:介護で家族関係が壊れるのは、介護そのものより「相談しなかった」「制度を知らなかった」が原因です。情報と相談先を早く押さえる——これが何より大きな備えになります。
まとめ|認知症は「早く気づいて、早く相談した家族」が勝つ
最後に、この記事の要点を整理します。
- 認知症の早期サインは10項目。「忘れたことを忘れている」「生活に支障が出ている」が2大ポイント
- 加齢のもの忘れと認知症は性質が違う。自己判断せず受診するのが安心
- 「もしかして」と思ったら、地域包括支援センターに電話してOK。相談無料・予約不要
- 受診はかかりつけ医から。専門的な鑑別診断が必要なら認知症疾患医療センターへ
- 受診を嫌がる親には「健康診断」「私が心配」の切り口で。説得より納得を作る
- 診断後は介護保険・自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳・成年後見を必要に応じて使う
- 家族の鉄則は「一人で抱えない・制度を全部使う・早めに家族会議」
認知症は、誰がなってもおかしくない病気です。なってからどうするかも大事ですが、「もしかして」の段階で動けるかどうかが、その後の数年を大きく分けます。
迷ったら、まず地域包括支援センターに電話を。動き出すのは、今日からで間に合います。
関連記事
- 成年後見制度の完全ガイド|後見・保佐・補助の違いと使い方
- 家族信託vs成年後見|どちらを選ぶか現場で解説
- 親の施設入居、どう切り出す?|家族会議の進め方
- ケアプラン作成の流れ|申請から開始までを社会福祉士が解説
出典・参考
- 厚生労働省「主な認知症施策について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00006.html
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/
- 厚生労働省「認知症施策関連ガイドライン(手引き等)、取組事例(意志決定支援ガイドライン)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212395.html
この記事を書いた人
むむぶどう🍇
社会福祉士20年/現役ケアマネジャー/FP3級。介護施設・在宅サービスの現場で、ご本人とご家族の支援に関わってきました。現在は介護事業所の所長を務め、保佐人として判断能力が不十分になった方の支援にも携わっています。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。
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