親から、あるいは自分の親くらいの年の人から、「自分が死んだ時の準備をしておきたい」と言われたことはありませんか。言われた側は、うれしいような、どう受け止めていいか分からないような気持ちになります。そして「それは誰に、どこまで相談していいのか」で止まります。
先に結論から。生前の葬儀の準備で決めておくのは、戒名・場所・形式の3つです。順番は、①本人が決めたいことを書き出す→②家族とケアマネジャー(担当がいれば)に共有する→③葬儀社の事前相談に行く。相談された人がひとりで抱え込まない形にするのが、いちばん大事なところです。
私は社会福祉士として福祉の現場に20年。デイサービスで相談員をしていた頃、利用者さんからこの相談を受け、戒名の準備から葬儀の場所と形まで一緒に考えたことがあります。そのときの経験をもとに、本人・家族・支援者のどの立場からでも使える手順にまとめました。
「自分が死んだ時の準備をしたい」は、誰に相談すればいい?
いちばん信頼している人に、まず言っていい相談です。家族でも、担当のケアマネジャーでも、通っているデイの相談員でも構いません。
ただし、相談された側には1つだけ約束してほしいことがあります。ひとりで抱えないこと。死んだあとの話は、本人と相談相手の2人だけで完結させてしまうと、いざというときに本人の希望が家族に届かないことがあります。
だから、最初に相談を受けた人が「つなぎ役」になります。本人の希望を聞き、家族とケアマネジャーに共有し、実際の段取りは葬儀社の事前相談に任せる。この3者に分けると、相談された側の負担も、本人の希望が消えるリスクも減ります。
あなたが今、その「最初に言われた人」ではありませんか。だとしたら、この記事はあなたのための手順です。
デイの相談員だった私は、利用者さんと何を一緒に考えた?
私がデイサービスで相談員をしていた頃の話です。
ある利用者さんが、「自分が死んだ時の準備をしたい」と話してくれました。その方は、担当のケアマネジャーや周りの人より、相談員の私を信頼してくれていた方です。だから私に言ってくれた、と受け止めています。
一緒に考えたのは、戒名の準備から、葬儀をどこで、どのような形でしたいか、まで。ただ、相談員としてやりすぎた仕事にならないよう、担当のケアマネジャーとご家族に相談しながら進めました。私がしたのは、近くの葬儀場と、一般的な葬儀の流れを紹介するところまでです。
準備を終えたあと、その方は安心した様子に見えました。生前に決めておくと、残る家族に心配をかけずに済む。私はそう考えています。
あなたの身近に、同じことを言い出しそうな人はいませんか。言われたときに慌てないために、決めることと順番を先に知っておいてください。
生前に決めておくと、何が変わる?
変わるのは、残る家族の迷いと、本人の不安の2つです。

- 左「生前に決めてある」: 残る家族の迷いが減る/本人の不安が減る/残る家族に心配をかけずに済む
- 右「決めていない」: 親しい人との死別の渦中で葬儀社と打ち合わせる/冷静な対応ができなかったり/料金やサービス内容をめぐるトラブル
決めていない場合、家族は親しい人との死別の渦中で、葬儀社と打ち合わせることになります。国民生活センターによると、葬儀サービスの相談は年間900件前後で推移しています。同じ資料は「親しい人との死別という事態に冷静な対応ができなかったり、葬儀社の説明や消費者の理解が不足したりしていると、葬儀の料金やサービス内容をめぐりトラブルになることもあります」と指摘しています(国民生活センター、2026年6月3日)。
葬儀の形式や場所が事前に決まっていれば、家族は「何を頼むか」ではなく「頼んだ内容が希望どおりか」を見るだけで済みます。判断の量が減ります。
本人の側はどうか。決めていないことは、本人の中で「いつか考えなければいけないこと」として残り続けます。それが片づく。私が見た利用者さんの安心した様子は、これだと受け止めています。
ご家族の中で、「早すぎる」と話を先送りにしていませんか。「早すぎる」は、先送りの理由になりやすいところです。
生前の葬儀準備は何から始める?3ステップ
ここからが手順です。相談された人が「つなぎ役」として動く前提で書きます。本人が自分で進める場合も、順番は同じです。

- 1 本人が決めたいことを書き出す(戒名・場所・形式)
- 2 家族とケアマネジャーに共有する
- 3 葬儀社の事前相談に行く(複数で・見積書を受け取る)
ステップ1: 本人が決めたいことを書き出す
紙1枚で足ります。書き出すのは3つです。
- 戒名: 仏式の葬儀で付けられる名前です(宗派によって法名・法号と呼ぶこともあります)。宗派やお寺によって考え方や作法が違うので、お付き合いのあるお寺(菩提寺)があるか、そこに相談したいか、を確かめます。仏式以外の方は、この項目は不要です
- 場所: 自宅か、近くの葬儀場か、お寺か。「近所の人が来やすい場所」「家族だけで静かに」など、本人の言葉のままで構いません
- 形式: 家族葬・一日葬・直葬など、葬儀の形はいくつもあります。国民生活センターも「家族葬、一日葬、直葬など、さまざまな葬儀のニーズが高まっています」と書いています。名前が分からなければ「誰を呼びたいか」「お通夜はしたいか」だけ聞き取れば十分です
この段階では、決めきらなくていいです。「決めたいこと」と「家族に任せたいこと」を分けるのが目的で、任せたいことは任せたい、と書いておくのも立派な準備です。
戒名や葬儀の形について、本人と話したことはありますか。ないなら、まずこの3つだけ聞いてみてください。
ステップ2: 家族とケアマネジャーに共有する
書き出したものを、家族と、介護保険を使っているなら担当のケアマネジャーに見せます。
家族に共有する理由は、はっきりしています。多くの場合、葬儀を実際に手配するのは家族です。本人と相談員の2人だけが知っている希望は、実行されない可能性があります。
ケアマネジャーに共有する理由は2つです。1つは、本人の状態や家族関係を知っている専門職として、話の進め方を一緒に考えてもらえること。もう1つは、相談された側(デイの相談員など支援者)が「行き過ぎた仕事」にならないための歯止めになることです。私が利用者さんの相談を受けたときも、ケアマネジャーとご家族に相談しながら進めました。
共有の場は、正式な会議でなくて構いません。ケアマネジャーが訪問する日に、家族が同席して「本人がこう言っている」と紙を見せるだけで十分です。
ステップ3: 葬儀社の事前相談に行く
場所と形式のイメージが固まったら、葬儀社の事前相談です。生前の相談を受け付けている葬儀社があるので、近くの葬儀社に「事前相談をしたい」と伝えてください。相談員や家族がここまで段取りを組めば、実際の中身は葬儀社が説明してくれます。
事前相談で守ってほしいことは、国民生活センターのアドバイスがそのまま使えます。
- 葬儀の希望やイメージを考えて情報収集をする
- 葬儀社との打ち合わせは、親族や第三者など複数で行う
- 見積書は必ず受け取り、内容(明細)をよく確認する
- 不安に思った場合やトラブルが生じた場合は、最寄りの消費生活センターに相談する(消費者ホットライン188)
とくに2つ目。本人と家族、できれば親族や信頼できる第三者も含めて、複数で行く。渦中で1人で決めない。生前準備の強みは、この「複数で、落ち着いて」が実現できるところにあります。
事前相談に行く相手を、もう1人決められますか。家族が1人しかいないなら、親族や親しい知人に同席を頼んでみてください。ケアマネジャーや相談員の役割は、事前相談を受け付けている葬儀社の情報を伝えるところまでです。
医療やケアの希望は、葬儀とは別に決める?
別に決めます。ただし、同じ「もしものとき」の話なので、葬儀の準備と一緒に話題に出しやすいです。
厚生労働省は、これを「人生会議」(ACP)と呼んでいます。「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組」という説明です(厚生労働省「「人生会議」してみませんか」)。
葬儀の準備は「亡くなったあと」の話。人生会議は「亡くなるまで」の話。分けて考えると、本人も家族も混乱しません。葬儀の話が出た日に、本人が話したそうなら「病院や延命についてはどう思っているか」を一言だけ聞いておくと、次の話のきっかけになります。
「亡くなるまで」の希望は、聞いたことがありますか。
相談された側が「行き過ぎ」にならない線はどこ?
相談員や家族の1人として相談を受けた人が、いちばん迷うところです。私の線引きは、紹介するところまで。近くの葬儀場と、一般的な流れを紹介する。決めるのは本人と家族で、契約や支払いには関わらない。
デイの相談員がどこまで踏み込んでいいか。ここは、私も1人では決めていません。ケアマネジャーとご家族に相談しながら進めました。線を1人で引かず、周りに引いてもらう。それが「行き過ぎない」ための、いちばん確実な方法です。
家族の1人が相談を受けた場合も同じです。きょうだいや他の家族に共有せず、1人で葬儀社と話を進めると、あとで「聞いていない」が起きます。相談を受けた人がすることは、聞き取る・書き出す・共有する。この3つで、役割としては十分です。
あなたは今、線を1人で引こうとしていませんか。
家族からよく出る5つの質問
生前の葬儀準備で、相談された側が迷いやすい質問に答えます。

- 戒名のこと → お付き合いのあるお寺(菩提寺)に相談
- 場所と形式のこと → 葬儀社の事前相談へ(複数で・見積書を受け取る)
- 料金が不安・トラブル → 最寄りの消費生活センター(消費者ホットライン188)
- 医療やケアの希望 → 家族と医療・ケアチームで「人生会議」
- 誰に言えばいいか分からない → 担当のケアマネジャーか、通っている事業所の相談員
Q. 戒名のことは誰に聞けばいい?
お付き合いのあるお寺(菩提寺)があるなら、そこに相談するのが一般的です。宗派やお寺によって考え方や作法が違うので、相談員や家族が「こうです」と決めることはできません。私も利用者さんと「戒名の準備」を一緒に考えましたが、中身を決めたのはお寺と本人です。
お寺との付き合いがない、宗教にこだわりがない、という場合は、葬儀社の事前相談で「戒名や宗教者はどうするか」を聞くと、選択肢を説明してもらえます。
Q. 本人が家族に言い出しにくいと言っている
相談員やケアマネジャーが同席する場を作ると、話が出しやすくなります。本人が「死んだあとの話」を切り出すより、第三者が「ご本人がこんな希望を持っています」と紙を見せるほうが、家族も受け止めやすいです。
私が受けた相談も、本人がまず相談員の私に言ってくれた形です。言いやすい相手から始めて、家族に届ける。その順番で構いません。
Q. 費用が心配
この記事では費用の実額には触れません。葬儀の形と地域で幅が大きく、私の現場の経験からも金額は言えないところです。
代わりに、国民生活センターが挙げている守り方を使ってください。見積書を必ず受け取り、明細を確認する。打ち合わせは複数で行う。「家族葬だから安い」と思い込まない(2026年6月の公表資料の副題にもなっている言葉です)。生前に事前相談をしておけば、渦中で見積書を読む状況を避けられます。
Q. 遺影の写真はどうする?
葬儀の準備と一緒に決めておくと、家族が慌てません。遺影については、デイで撮った1枚が遺影になった話を別の記事に書いています。
▶ 遺影の写真、いつ準備すればいい?|デイで撮った一枚が遺影になった話
Q. お金の管理や認知症への備えも、一緒に考えるべき?
葬儀の準備とは別の話ですが、「生前に決めておく」という点では同じ流れです。本人が判断できるうちにお金の管理をどうするかは、家族信託と成年後見の違いをまとめた記事があります。
▶ 認知症対策の次の一手|家族信託 vs 成年後見、向いている家庭はどっち?
まとめ: 決めるのは3つ、相談される側はひとりで抱えない
要点は4つです。
- 「自分が死んだ時の準備をしたい」は、いちばん信頼している人に言っていい相談。言われた人は、つなぎ役になる
- 決めておくのは戒名・場所・形式の3つ。紙1枚に書き出す。決めきらなくていい
- 順番は①書き出す→②家族とケアマネジャーに共有→③葬儀社の事前相談。事前相談は複数で行き、見積書を受け取る
- 相談された側の線は紹介するところまで。契約や支払いには関わらず、決めるのは本人と家族
生前に決めておくと、残る家族に心配をかけずに済みます。私が見た利用者さんは、準備を終えたあと安心した様子に見えました。後日、その方から「準備ができた、ありがとう」と言われました。
今日できることは1つです。言われた人は、本人に「戒名・場所・形式」の3つを聞いて、紙に書く。書けたら、家族とケアマネジャーに見せてください。そこから先は、葬儀社が説明してくれます。
【この記事を書いた人】
むむぶどう🍇
社会福祉士として福祉の現場に20年、現在はケアマネジャーとして働いています。デイサービスで相談員をしていた頃、利用者さんから「自分が死んだ時の準備をしたい」と相談を受けました。その方の安心した様子を見て、決めておくことの意味を知りました。言われた側が迷わないように、この記事を書いています。
▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou
▶ X(毎朝のつぶやき・現場の小ネタ):https://x.com/mumubudo
ブログでは「制度の使い方」を、noteでは「現場のリアル」を、Xでは「今日の気づき」を発信しています。
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参考資料(一次資料)
- 独立行政法人国民生活センター「依然として多い葬儀サービスの料金トラブル-「家族葬だから安い」と思っていませんか?-」(2026年6月3日公表) https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260603_2.html
- 独立行政法人国民生活センター 相談事例「墓・葬儀サービス」 https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/sougi.html
- 厚生労働省「「人生会議」してみませんか」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html
※この記事は、生前に葬儀の準備を相談された人が「誰に・何を・どこまで」を整理するための入口として書いています。戒名や葬儀の作法は宗派・お寺・地域によって異なります。実際の段取りや費用は、お付き合いのあるお寺、葬儀社の事前相談、担当のケアマネジャーにご確認ください。料金などで不安があるときは、最寄りの消費生活センター(消費者ホットライン188)にご相談ください。


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