成年後見人がつけば家族は何もしなくていい?手術の同意と身元保証人、家族に残る役割と頼めない時の進め方

制度ガイド

親の認知症が進んで、成年後見の申立てを考え始めた。後見人さんがつけば、お金のことも、入院の時のことも、全部お願いできる。そう思っていませんか。

先に結論です。後見人がついても、手術などの医療の同意や、病院の身元保証人は、後見人の仕事ではありません。家族がいるなら、そこは家族にお願いしたい部分です。

ただ、その家族との関係がこじれていて、頼めないことも多いんです。その時は、病院に事情を話して相談します。この記事では、後見人がすること・しないことの線引きと、家族に残る役割、頼めない時の進め方を順番にまとめます。

私は社会福祉士として福祉の現場に20年。今はケアマネジャーとして働きながら、現役の保佐人としても活動しています。以前は地域包括支援センターで、成年後見制度の説明をしていました。

後見人がつけば、家族はもう何もしなくていい?

自宅のリビングで、パンフレットを手にほっとした表情の50代の男性

いいえ。後見人がするのは、お金の管理と契約が中心です。

「後見人がつけば家族は何もしなくてよくなる」。現場では、こんなイメージを持たれていることがよくあります。

成年後見人は、家庭裁判所が選びます。本人に代わって、預貯金などの財産を管理したり、介護サービスや入院の契約を結んだりします(厚生労働省のガイドライン)。逆にいうと、それ以外の部分は、後見人の仕事に入っていないことがあります。

後見人がすること

  • お金の管理と支払い(入院費も、本人の財産から支払う)
  • 入院や介護サービスの契約(転院・退院する時の契約も含む)
  • 医療の説明に同席して、本人の理解を支える

後見人がしないこと

  • 手術などの医療の同意
  • 身元保証人として、入院費を負担すること
  • 入院の荷物をそろえる、退院に付き添うなどの身の回りの用事(これを頼めるサービスを手配するのは、後見人の仕事に入る)
  • 葬儀(後見の類型では、家庭裁判所の許可を得て火葬の契約など一部の手続きはできる)

どれも厚生労働省の「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」に書かれている整理です。ここで書いているのは、2026年10月時点の今の制度の話です。

制度の全体像(後見・保佐・補助の違いや申立ての流れ)は、こちらにまとめています。

▶ 成年後見制度の完全ガイド|後見・保佐・補助の違いと使い方

後見人がすること・しないこと
※葬儀(後見の類型では、家庭裁判所の許可を得て火葬の契約など一部の手続きはできる)

現場のひとこと

「後見人がつけば家族は何もしなくてよくなる」というイメージを持たれていることがあります。

手術の同意は、後見人にお願いできる?

病院の面談室で、支援者が母の横に座り、目線を合わせて説明を聞いている

後見人には、いわゆる医療同意の権限はないとされています。基本は、本人の意思を確かめることです。

厚生労働省のガイドラインには、「現行制度では、成年後見人等の役割としていわゆる医療同意権までは含まれない」とあります。病院に向けても、後見人に同意書へのサインを強要しないよう注意が書かれています。

医療を受けるかどうかは、本人にしか決められない性質がとても強いもの。だから身元保証人のような第三者にも、同意の権限はないと考えられています。

では、誰がどう決める?

ガイドラインの筋道は、こうです。

1. まず、本人に分かりやすく説明して、本人の意思を確かめる。判断能力が不十分でも、本人には意思があることが前提

2. 本人の意思が確かめられない時は、家族などが本人の意思を推し量る。推し量れなければ、本人にとって何がいちばんいいかを家族などと話し合う

3. 家族などがいない時は、医療・ケアのチームで、本人にとっていちばんいい方針を考える

すぐに命を救う処置が必要な緊急の時は、この順番どおりではなく、その場に合わせて対応することになっています。最終的には、医療・ケアのチームが個々のケースごとに慎重に判断します。

後見人は、その場で何をする?

医療の説明の場に同席して、本人に分かりやすい言葉で伝えます。本人が前にどんな医療を望んでいたか、何を大事にしていたかを集めて、病院に伝えるのも後見人の役割です。

民法第858条でも、成年後見人は本人の意思を尊重し、心身の状態や生活の状況に配慮しなければならない、と定められています。「代わりに決める人」ではなく、本人が決められるように支える人と考えると近いです。

現場のひとこと

医療同意の部分は、家族がいるケースなら家族にお願いしたいところです。

病院の「身元保証人」に、後見人はなれる?

病院の受付で、無地の書類を前に支援者が少し困った顔をしている

専門職などの第三者が後見人の場合、本人の保証人になるのは一般的に適切でないとされています。

※ここでの後見人は、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれた場合の話です。家族が後見人になった場合は、家族として保証人の欄を書くかどうかを別に考えることになります。

入院の時、病院から「身元保証人を書いてください」と言われることがあります。ここに後見人の名前を書けばいい、と思っていませんか。

ガイドラインでは、後見人が本人の保証人になると、支払いを求める人と支払いを決める人が同じになってしまう、と説明されています。立場がぶつかるので、専門職の後見人は引き受けないのが一般的です。

入院費は、どうなる?

心配しなくて大丈夫な部分もあります。

  • 入院費は、後見人が本人の財産から支払う
  • 後見人が保証人として、入院費を自分で負担することはない

本人に支払えるだけのお金があれば、お金の面は後見人がついていれば回ることが多い。困るのは、保証人の欄が空いてしまうことのほうです。

「保証人がいない」だけで、入院を断られる?

厚生労働省は2018年(平成30年)の通知で、入院が必要なのに、身元保証人がいないことだけを理由に入院を断るのは、医師法第19条に抵触するとしています。この通知は、2026年10月時点で厚生労働省のページに関連通知として載っています。

とはいえ、病院の書類には保証人の欄があります。空欄のままでいいのか、誰に何をお願いしたいのか。そこを病院と話す必要が出てきます。進め方は、このあとの「家族に頼めない時は、どう進める?」で書きます。

現場のひとこと

身元保証の部分も、家族がいるなら家族にお願いしたいところです。

家族がいるのに後見人をつけるのは、どんな時?

駅のホームで、電話をしながら遠くを見る50代の男性

家族が遠くに住んでいる、家族の仲がこじれている、家族も高齢。こんな時です。

成年後見人は「家族や身寄りが誰もいない人」につくもの。そう思っている方もいます。でも実際は、家族がいてもつけることがあります。

  • 家族が遠くに住んでいる:通帳や書類の管理、契約のたびに帰ってくるのが難しい
  • 家族の仲がこじれている:きょうだいの誰がお金を管理するかで、話がまとまらない
  • 家族も高齢:配偶者も高齢で、手続きを任せるのが難しい

あなたの家は、このどれかに当てはまりませんか。当てはまるなら、後見人をつけることを考えていい場面かもしれません。

ただ、ここで覚えておいてほしいことがあります。後見人をつけても、家族がいる限り、家族にお願いしたい部分は残ります。それが次の章です。

家族信託など、元気なうちに選べる方法との違いは、こちらにまとめています。

▶ 認知症対策の次の一手|家族信託 vs 成年後見、向いている家庭はどっち?

現場のひとこと

家族がいても後見人をつけることはあります。家族が遠くに住んでいる、家族の仲がこじれている、家族も高齢、などです。

後見人がついたあと、家族に残ることは?

病室のベッドのそばで、男性と支援者が並んで母に話しかけている

医療の話し合いへの参加と、身元保証まわり。この2つは、家族がいるならお願いしたい部分です。

家族にお願いしたいこと

  • 医療の話し合いに加わる:本人が前にどんな医療を望んでいたか、家族だから知っていることを病院に伝える
  • 緊急連絡先になる:ガイドラインでも、親族がいる時は、親族と後見人のどちらが緊急連絡先になるかを確認するとされている
  • 身元保証人の欄:病院から求められた時に、引き受けられるかを考える
  • 葬儀:後見人の仕事には含まれていない

たとえば、こんなふうに分けておくと、入院の時に慌てずにすみます。

  • お金の支払いと契約 → 後見人
  • 医療の話し合いと緊急連絡 → 家族
  • 入院の荷物 → 家族、難しければ後見人がサービスを手配

あなたの家なら、誰に何をお願いできそうですか。

実際は、頼めないことが多い

ただ、現場ではここがむずかしいところです。

家族にお願いしたくても、関係が崩れていて、それすらも難しい場合が多いんです。家族がいるのに後見人をつけるのは、家族の仲がこじれている時もある。だから「家族に残る部分」を、そのまま家族に頼めるとは限りません。

入院・入所の前に、誰が何をするか

現場のひとこと

医療同意や身元保証の部分は、家族にお願いしたい。でも実際には関係が崩壊していて、それすらも難しい場合が多いです。

家族に頼めない時は、どう進める?

病院の相談室で、支援者が相談員に説明し、相談員がうなずいている

病院に事情を話して、相談します。まずは説明して、理解を得ること。

私は保佐人としても、ケアマネジャーとしても、家族に頼めない時は病院に事情を話して相談しています。意外なことに、福祉や医療の専門職でも、後見人ができること・できないことを知らない人は多いんです。だから、こちらから説明して理解してもらいます。

その結果、「後見人さんがついているならそれでいいです」と言ってもらえる場合もあります。

病院に伝える3つのこと

伝えることは3つ。ガイドラインの内容をもとに組んだ型です。

1. 後見人がついていることを伝える:後見人は、登記事項証明書と身分証明書を見せて仕事をする。保佐人・補助人の場合は、どこまで代理できるかが証明書に書いてある

2. 家族に頼めない事情を話す:「家族が遠方で、すぐに来られない」「家族と連絡がつかない」など、話せる範囲で

3. 後見人ができること・できないことを説明する:「入院費の支払いと契約は後見人がします。医療の同意と保証人は、後見人の役割に入っていません」

病院の相談窓口(医療ソーシャルワーカーなど)がある時は、そこに相談すると話が通りやすくなります。本人を担当しているケアマネジャーがいれば、一緒に話してもらうのも手です。

家族の立場で、できること

家族の側から見ても、全部断るか、全部引き受けるかの二択ではありません。

  • 「緊急連絡先だけなら引き受けられる」
  • 「医療の話し合いには、電話で加われる」

できる範囲を、後見人や病院に伝えておく。それだけでも、入院の時に誰へ電話するかが決まります。

家族に頼めない時、病院に相談する3つの手順

現場のひとこと

病院に事情を話して相談します。意外と福祉・医療の専門職でも知らない人は多いので、説明して理解を得ています。「後見人さんがついているならそれでいいです」と言ってもらえる場合もあります。

申立ての前に、どこに相談すればいい?

相談窓口で、男性がカウンター越しに話を聞いてもらっている

地域包括支援センターか、地域の権利擁護の相談窓口です。

  • 地域包括支援センター:高齢の親のことなら、まずここ。成年後見制度の説明もしてもらえる
  • 権利擁護の相談窓口:多くの市町村に、成年後見の相談を受ける窓口がある(厚生労働省「成年後見はやわかり」で地域から探せる)
  • 家庭裁判所:申立ての手続きそのもの

相談する時は、「後見人がついたら、入院の時に家族は何をすることになりますか」と聞いてみてください。申立ての前にここを聞いておくと、あとで慌てずにすみます。

現場のひとこと

地域包括支援センターにいた時、成年後見制度の説明をすると、「なんでもやってくれるわけではない」ことに驚かれることがありました。

▶ 地域包括支援センターとは?

よくある質問

自宅のダイニングで、男性がノートに向かって考えている

Q. 保佐人や補助人でも、同じですか?

厚生労働省のガイドラインは、成年後見人・保佐人・補助人をまとめて「成年後見人等」として整理しています。医療同意と保証人の扱いは、この記事と同じ考え方です。保佐人・補助人は、家庭裁判所が認めた範囲でだけ代理ができるので、入院の契約を代理できるかは証明書で確かめます。

Q. 制度の見直しで、医療の同意はできるようになりますか?

成年後見制度は、2026年6月に見直しの法律が公布されました。後見と保佐をなくして補助にまとめ、本人に必要な範囲で使えるようにする内容です(法務省)。始まる日は、これから政令で決まります。始まるまでは今の制度のままです。医療の同意の扱いがどうなるかは、新しい制度が始まる時に家庭裁判所や相談窓口で確かめてください。

Q. 身元保証をしてくれる民間のサービスは使ったほうがいい?

ガイドラインでは、こうしたサービスは団体の選び方や契約の中身を慎重に確かめるよう書かれています。まずは公的な制度や地域の支援で何ができるかを、病院や地域包括支援センターと一緒に考えるのが先です。

国も2024年(令和6年)6月に「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(内閣官房ほか)をまとめ、利用する側も確かめられるチェックリストを付けています。使う場合は、契約書と重要事項説明書を受け取り、サービスの中身と費用を確かめてください。

Q. 後見人に、入院の荷物をそろえてもらえますか?

荷物をそろえる、退院に付き添うといった身の回りの用事は、後見人の仕事には入っていません。ただ、それを頼める有償のサービスを手配するのは後見人の仕事です。後見人によっては、自分で準備している場合もあります。何をお願いしたいかを、具体的に後見人に伝えてください。

まとめ:後見人がついても、家族に残ること

施設の談話室で、母と男性が並んで笑顔で話している

要点は4つです。

  • 後見人がするのは、お金の管理と支払い、入院や介護サービスの契約が中心
  • 手術などの医療の同意と、身元保証人は、後見人の仕事ではない。医療は本人の意思を確かめることが基本
  • 家族がいるなら、医療の話し合いと身元保証まわりは家族にお願いしたい部分。ただ、関係がこじれていて頼めないことも多い
  • 家族に頼めない時は、病院に事情を話して相談する。専門職でも知らない人は多いので、説明して理解を得る

次のどれかに当てはまるなら、申立ての前に、入院の時の分担を話しておく時期です。

  • 家族が遠くに住んでいて、すぐに病院に行けない
  • きょうだいの間で、親のことの話がまとまらない
  • 配偶者も高齢で、手続きを任せにくい

今日できることは1つ。もし親が入院したら、緊急連絡先は誰になるか。家族の中で一度、名前を挙げてみませんか。

この記事を書いた人

むむぶどう🍇

社会福祉士・ケアマネジャー。社会福祉士として福祉の現場に20年、介護施設・在宅サービス・地域包括支援センターでご本人とご家族の支援に関わってきました。現役の保佐人としても活動しています。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。

後見人がついても、医療の同意や身元保証は家族に残ります。家族に頼めない時は、保佐人としても、ケアマネジャーとしても、病院に事情を話して理解を得てきました。申立ての前に知っておけば慌てずにすむことを、現場の目線で書いています。

▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou

▶ X(毎朝のつぶやき・現場の小ネタ):https://x.com/mumubudo

ブログでは「制度の使い方」を、noteでは「現場のリアル」を、Xでは「今日の気づき」を発信しています。

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参考資料

※この記事は、成年後見制度と入院・医療についての一般的な情報です。2026年10月時点の制度をもとに書いています。医療の同意や身元保証の扱いは、本人の状態や医療機関によって違います。実際の対応は、医療機関や地域包括支援センター、家庭裁判所にご確認ください。

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