夜、離れて暮らす親から電話がかかってきた。「通帳がないんだけど」「お金がない」。先月も同じことを言っていた気がする。盗られたのか、しまい忘れたのか。銀行に電話したほうがいいのか。そんなふうに焦っていませんか。
先に結論です。まずは責めずに、一緒に探してください。通帳は、カバンの中や枕の下、ベッドの下、こたつの中から出てくることもあります。
見つかっても見つからなくても、ケアマネジャーやほかの家族に伝えておくこと。そして何度も続くようなら、日常生活自立支援事業や成年後見制度の相談を、早めに始めてください。制度は、相談してから使えるようになるまでに時間がかかります。
私は社会福祉士として福祉の現場に20年、現在はケアマネジャーとして在宅で暮らす方のお宅を訪問しています。「通帳がない」という相談は、現場でも実際にあります。その時に私がやっている順番をもとに、家族の動き方をまとめました。
親が「通帳がない」と言ってきたら、まず何をする?

責めずに、一緒に探します。ここから始めます。
「通帳がない」と相談された時、私も最初はまず一緒に探します。そして必要に応じて、ご家族にお伝えします。制度の話は、そのあとです。
「また?」は飲み込む
「この前もなくしたよね」「ちゃんとしまわないから」。言いたくなる気持ちは分かります。
ただ、通帳がなくて困っているのは本人も同じです。責める言葉は飲み込んで、「一緒に探そうか」と声をかけるところから始めてください。
「盗られた」と言われた時の受け止め方は、noteに書いています。
▶ 「あんたが盗ったんやろ」が向きやすいのは、いちばん近くにいる人
家族がやることは4つ
順番はこうです。
1. 責めずに一緒に探す
2. ケアマネジャーやほかの家族に伝える
3. 何度も続くなら、早めに相談を始める(日常生活自立支援事業・成年後見制度)
4. 見つからない時は、銀行に連絡する

現場のひとこと
「通帳がない」と言われたら、最初はまず一緒に探します。必要に応じてご家族に伝えます。まずはここから対応していきます。
通帳は、どこから出てくることが多い?

カバンの中、枕の下、ベッドの下、こたつの中。こういう場所から見つかることもあります。
一緒に探して、見つかることもあります。見つかった場所は、たとえばこんなところです。
- カバンの中
- 枕の下
- ベッドの下
- こたつの中
どれも、本人が「大事なものだから、すぐ手の届くところに」と考えそうな場所ではありませんか。いつもの引き出しを探して見つからない時は、まずこの4か所をのぞいてみてください。
一緒に探す時の声のかけ方
探すのは、本人と一緒に。家族が勝手に引き出しを開けて回ると、本人は「荒らされた」と感じることがあります。
- 「一緒に探そうか。最後に使ったのはいつ頃?」
- 「カバンの中、もう一回見てみる?」
本人の手で開けてもらい、家族は横で見る。この形だと、見つかった時に本人も安心できます。
離れて暮らしていて、一緒に探せない時は
電話で、場所を1つずつたどります。「カバンの中は見た?」「枕の下は?」と、4か所を順番に聞いてみてください。
電話で見つからなくても、その場で慌てて銀行に連絡しなくて大丈夫な場合もあります。どう判断するかは、後半の「銀行にはどう連絡する?」で書きます。
現場のひとこと
一緒に探すと、見つかることもあります。カバンの中、枕の下、ベッドの下、こたつの中などです。
見つかっても見つからなくても、誰に伝える?

ケアマネジャーと、ほかの家族に伝えます。
見つかったら「よかった」で終わりにしたくなります。でも、伝えておいてほしいんです。1回だけなら、しまい忘れかもしれません。何度も続くなら、お金の管理を手伝う形を考える時期かもしれません。それを判断するには、「何回目か」が分かっている人が必要になります。
伝えることは3つ
- いつ: 「10月の初め、夜に電話があった」
- 何がない: 「通帳」「財布のお金」など
- どうなった: 「枕の下から見つかった」「見つかっていない」
誰に伝える?
- 介護サービスを使っているなら: 担当のケアマネジャーへ。訪問した時に気をつけて様子を見てもらえます
- きょうだいなど、ほかの家族へ: お金のことは、あとで「知らなかった」がもめごとの種になります。小さいうちに共有しておきます
- ケアマネジャーがいない場合: 親が住む地域の地域包括支援センターへ。家族だけでも相談できます
▶ 地域包括支援センターとは?相談できること・使い方・探し方を完全解説【社会福祉士監修】
現場のひとこと
「通帳がない」と相談された時は、一緒に探したうえで、必要に応じてご家族にお伝えしています。
何度も続く時、どんな制度がある?

日常生活自立支援事業と、成年後見制度の2つです。
何度も続く時は、私はこの2つの制度の話をすることもあります。どちらも、お金の管理に不安がある人を支える仕組みです。違いを短く書きます。
日常生活自立支援事業:社協と契約して、お金の出し入れを手伝ってもらう
厚生労働省によると、判断能力が十分でない方が、市町村の社会福祉協議会(社協)が窓口になって契約し、手伝ってもらう事業です。手伝ってもらえることの例はこうです。
- 預金の払い戻し・預け入れなどの、日常的なお金の管理
- 定期的な訪問で、暮らしの変化に気づいてもらう
- 福祉サービスを使う時の手続きの手伝い
全国社会福祉協議会のパンフレットには、「通帳などの大事な書類の管理が心配」な方に、安全な場所で預かることも書かれています。内容や方法は地域によって違うので、親が住む地域の社協で確かめてください。
利用料は、訪問1回あたり平均1,200円です(厚生労働省)。仮に月2回なら、平均で月2,400円ほどの計算です。書類の預かりは、別に料金がかかる地域もあります。契約前の相談と、生活保護を受けている世帯の利用料は無料です。
条件があります。本人が、この事業の契約の内容を理解できることが必要です。社協が本人の生活の様子や希望を聞き、契約できるかどうかを判断します。
成年後見制度:家庭裁判所が、本人を支える人を選ぶ
本人がひとりで決めることが心配になった時に、家庭裁判所が成年後見人等を選ぶ制度です。本人の状態に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つの種類があります。
契約の内容を理解するのが難しくなってきた時は、日常生活自立支援事業ではなく、こちらを考える場面になります。相談先は、地域の権利擁護の相談窓口や地域包括支援センター。手続きそのものは、家庭裁判所に問い合わせます。
主な費用は、収入印紙(申立て800円〜・登記2,600円)と郵便切手、書類をそろえる費用です。補助は、同意権・代理権の申立てごとに800円かかります。医師の鑑定が必要な場合は鑑定料もかかり、ほとんどの場合10万円以下です(厚生労働省)。専門職が成年後見人等に選ばれた場合は、本人の財産から報酬が支払われます(額は家庭裁判所が決めます)。
制度の中身(3つの種類の違い・費用・申立ての流れ)は、こちらにまとめています。
▶ 成年後見制度の完全ガイド|後見・保佐・補助の違いと使い方

2026年6月、制度を見直す法律ができました
2026年6月、成年後見制度と、判断能力が十分でない人などの暮らしを支える事業を見直す法律が公布されました。
- 成年後見制度:「後見」「保佐」をなくして「補助」にまとめ、本人に必要な範囲で使えるようにする見直しです。始まるのは、公布(2026年6月24日)から2年6か月以内の、政令で決める日です。日付は、これから政令で決まります(法務省)。
- 日常生活自立支援事業のもとになる事業:対象や手伝う内容を見直す改正が入っています。この部分が始まるのは、公布(2026年6月25日)から2年以内の、政令で決める日です。
始まるまでは、今の制度(補助・保佐・後見の3つ)のままです。相談する時は、社協や地域包括支援センターで最新の内容を聞いてください。
現場のひとこと
何度も続く時は、日常生活自立支援事業や成年後見制度の話をすることもあります。
制度にすぐつながらないのは、なぜ?

本人が嫌がることと、手続きが大変で時間がかかること。この2つです。
制度の話をしても、なかなかつながりにくいのが現実です。私が見てきた理由は2つあります。
理由1:本人が嫌がる
「本人が嫌がっているのに、無理に進めていいの?」と思った方もいるかもしれません。
自分のお金を人に手伝ってもらうのは、本人にとって大きなことです。「まだ自分でできる」「人に通帳を見せたくない」。そう感じるのは自然なことだと思います。
無理に進める必要はありません。ただ、家族だけで相談を始めておくことはできます。社協や地域包括支援センターに「こういうことが続いている」と伝えておけば、本人の気持ちが動いた時にすぐ次へ進めます。
理由2:手続きが大変で、時間がかかる
成年後見制度の場合、家庭裁判所に申し立てる前に、戸籍謄本・登記事項証明書・診断書などの書類をそろえる必要があります(厚生労働省)。
申し立ててからの期間は、令和7年の統計で約7割が2か月以内、9割以上が4か月以内に終わっています(最高裁判所)。ただ、これは申し立てた後の期間です。その前の書類集めにも時間がかかります。
日常生活自立支援事業は、成年後見ほど時間はかかりません。ただ、こちらも社協との契約が必要なので、使い始めるまでに多少の時間はかかります。
通帳がなくなる電話が今月もう1回来ても、制度はその日には間に合いません。
だから、早めに相談を始める
「何度も続いている」と気づいた時が、相談を始める時期です。使うかどうかは、話を聞いてから決めればいい。相談は家族だけでもできます。
次に「通帳がない」と電話が来る前に、社協か地域包括支援センターに1本電話を入れてみませんか。
現場のひとこと
制度の話をしても、なかなかつながりにくいです。本人が嫌がる、手続きが大変で時間がかかる。こうしたことから、つながらないこともあります。
見つからない時、銀行にはどう連絡する?

口座のある銀行に連絡します。ただ、連絡するとその通帳での取引が止まります。キャッシュカードの扱いや再発行の手続きは銀行によって違います。
全国銀行協会は、通帳や印鑑をなくしたことに気づいたら、すぐ取引銀行に連絡するよう書いています。各銀行の「喪失受付センター」などに届け出ると、その通帳での取引ができないように設定されます。
連絡するかどうかの分かれ道
止めれば安心ですが、その通帳での取引が止まります。家の中から出てきた後にも、手続きが要ることがあります。判断の目安はこうです。
- 家の中で見つかる見込みがある(よく物をしまい込む・探していない場所がある): まず一緒に探す。あわせて、身に覚えのない引き出しがないかを本人と一緒に確かめる
- 確かめ方: キャッシュカードで残高を照会する/銀行に取引の内容を問い合わせる
- キャッシュカードや印鑑も一緒にない: 早めに銀行に連絡する
- 身に覚えのない引き出しがある: すぐ銀行に連絡する
- 知らない人が家に来て、通帳やキャッシュカードを渡してしまった: すぐ銀行に連絡して止め、警察にも相談する

知らない人が来た・カードを渡してしまった時は
「銀行の人が来て、カードを預けた」「役所の人に通帳を見せた」。こういう話が出てきたら、探している場合ではありません。すぐに銀行に連絡して止め、警察に相談してください。 被害にあったばかりなら110番、どうしたらいいか相談したい時は警察相談専用電話の #9110 です。
連絡する時は、本人と一緒に
口座は本人の名義です。できれば本人と一緒に電話してください。届け出の方法や、そのあとの再発行の手続きは、銀行によって違います(全国銀行協会)。電話の時に「見つかった時はどうすればいいか」も聞いておくと安心です。
銀行ごとの連絡先は、全国銀行協会の「銀行カード等の紛失・盗難」のページにまとまっています。
よくある質問(FAQ)

Q. 「誰かに盗られた」と言われました。どうしたらいい?
否定も肯定もしすぎず、「それは心配だね。一緒に探そうか」と受け止めて、一緒に探してください。身に覚えのない引き出しがあるなら、銀行への連絡が先です。盗難が疑われる時は警察にも相談してください。言われた時の気持ちの持ち方は、noteに書いています。
▶ 「あんたが盗ったんやろ」が向きやすいのは、いちばん近くにいる人
Q. 家族が通帳を預かってもいい?
本人が納得して預ける形なら、ひとつの方法です。ただ、預かった人が「盗った」と言われやすくなります。出し入れはメモとレシートで残し、きょうだいにも共有してください。本人のお金と家族のお金は分けて管理します。通帳を預かっても、家族が本人の口座からおろせるとは限りません。代理人カードなどは銀行に相談を。家族が預かるのが難しい時は、社協の日常生活自立支援事業で通帳を預かってもらえる地域もあります。
Q. ケアマネジャーやヘルパーに、お金の管理を頼めますか?
ケアマネジャーの役割は、お金を預かることではなく、相談先や制度につなぐことです。ヘルパーに頼めないことは、こちらにまとめています。
お金の出し入れを手伝ってほしい時は、この記事の日常生活自立支援事業を社協に相談してください。
Q. 物忘れが増えている気がします。認知症の相談もしたほうがいい?
通帳のしまい忘れが続くなら、あわせて相談してみてください。認知症かどうかを決めるのは医師です。早いうちのサインと相談先は、こちらにまとめています。
Q. まだ元気なうちに、何か備えられますか?
家族信託や任意後見など、本人が元気なうちに選べる方法もあります。向いている家庭の違いは、こちらに書いています。
▶ 認知症対策の次の一手|家族信託 vs 成年後見、向いている家庭はどっち?
まとめ:「通帳がない」は、責めずに一緒に探すところから

要点は4つです。
- まずは責めずに、一緒に探す。カバンの中・枕の下・ベッドの下・こたつの中から出てくることもある
- 見つかっても見つからなくても、ケアマネジャーやほかの家族に伝える
- 何度も続くなら、日常生活自立支援事業(社協)や成年後見制度の相談を早めに始める。本人が嫌がる・手続きに時間がかかるので、すぐにはつながらない
- 見つからない時は銀行に連絡。ただし止めるとその通帳での取引が止まるので、家の中を一度一緒に探してから
目安として、次のようなことがあれば、相談を始めてみてもいい時期です。
- 「通帳がない」「お金がない」が、2回以上あった
- 見つかった場所が、いつもの場所ではなかった
- 公共料金の支払いや、お金のおろし方で迷っている様子がある
今日できることは1つ。前回「通帳がない」と言われたのがいつだったか、メモに書き出してみませんか。
この記事を書いた人
むむぶどう🍇
社会福祉士・ケアマネジャー。社会福祉士として福祉の現場に20年、介護施設・在宅サービスでご本人とご家族の支援に関わってきました。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。
「通帳がない」という相談を受けた時は、まず一緒に探すところから始めています。制度につながるまでの時間も含めて、家族が早めに動けるように現場の目線で書いています。
▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou
▶ X(毎朝のつぶやき・現場の小ネタ):https://x.com/mumubudo
ブログでは「制度の使い方」を、noteでは「現場のリアル」を、Xでは「今日の気づき」を発信しています。
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参考資料
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/chiiki-fukusi-yougo/index.html
- 全国社会福祉協議会「日常生活自立支援事業パンフレット」 https://www.shakyo.or.jp/news/kako/materials/100517_01.html
- 厚生労働省 成年後見はやわかり「法定後見制度とは(手続の流れ、費用)」 https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/type/legal_guardianship/
- 厚生労働省 成年後見はやわかり「相談窓口のご案内」 https://guardianship.mhlw.go.jp/consultation/
- 法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」 https://www.courts.go.jp/assets/20260316koukengaikyou-r7.pdf
- 全国銀行協会「困った!銀行印の紛失と変更」 https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-f/7489/
- 全国銀行協会「銀行カード等の紛失・盗難」 https://www.zenginkyo.or.jp/abstract/loss/
※この記事は、親のお金の管理についての一般的な情報です。日常生活自立支援事業の内容や利用料は、地域の社会福祉協議会によって違います。通帳の届け出や再発行の手続きは、銀行によって違います。成年後見制度の手続きは、家庭裁判所や地域の相談窓口にご確認ください。


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