「親を施設に、って考えていて。まずは特養、ですよね。安いですし」
相談の入り口で、家族の多くがこう切り出します。悪気はまったくありません。「特養は安い、有料や老健は高い」——テレビや職場の雑談で聞きかじった知識で、そこから話が始まる。ごく自然な入り方です。
ただ、話を進めていくと必ず訪れる場面があります。実際の月額の見積もりを紙に書いていくと、「えっ、そんなにするんですか」と手が止まる瞬間です。
答えを先に書きます。「特養は安い」は、負担限度額認定という減免が効いてこその話です。減免が効かない世帯がユニット型の特養に入ると、目安として月15万円弱になります。これは有料老人ホームと比べても、劇的に安いわけではありません。
私は社会福祉士として福祉の現場に20年、現役のケアマネジャーとして働きケアマネジメントをし、さらには訪問介護の現場にも日々関わっています。
この記事では、「特養は安い」の思い込みだけで施設探しを始めて疲れきってしまう前に、いま押さえておきたい費用の輪郭と、”施設が多すぎて何を選べばいいか分からない”という当たり前の感覚の正体を整理します。
※金額はいずれも一般的な目安です。介護保険自己負担割合・施設のタイプ・地域・その年度の基準額改定によって変わります。必ずご自身のケアマネジャー・地域包括支援センター・入居候補の施設で確認してください。
結論|まず自分の家族に「減免」が効くかを先に確認する
- 「特養は安い」は、負担限度額認定(減免)が効く前提の話
- 減免が効かない世帯(第4段階)でユニット型に入ると、目安で月15万円弱
- 有料老人ホームとの差は縮まり、「特養が絶対にお得」とは言えなくなる
- だからこそ、施設を見学して回る前に、自分の家族に減免が効くかどうかを先に確認する
- そのうえで、時間軸と家族の意向を家族間ですり合わせる
順番を守るだけで、「相談してよかったです」に着地する家族を、私は現場で何度も見てきました。
「特養は安い」と言われる理由——減免(負担限度額認定)の存在
特養(特別養護老人ホーム)が「安い施設」の代表格として語られる理由は、公的施設だからというだけではありません。負担限度額認定という減免制度の存在が大きいのです。
負担限度額認定とは、所得と預貯金が一定以下の方について、特養など介護保険施設で発生する食費と居住費に上限を設ける仕組みです。上限は所得の少ない順に、第1段階・第2段階・第3段階①・第3段階②と分かれています(第3段階は2021年8月の改正で①②に細分化されました)。この段階に該当する方が特養に入ると、食費と居住費が大きく軽減されます。
1〜3段階と第4段階では、月額が数万円違う
具体的な水準感を書きます。ユニット型個室に入る場合、居住費の1日あたりの上限は、第1段階の方だと数百円台、第4段階(減免なし)の方だと2,000円台です。同じ部屋に入って、同じ食事を食べても、段階が違えば月に数万円の差になります。
つまり、「特養は安い」というイメージは、第1〜3段階に該当する方の実感として世の中に広まっているのです。
第4段階になる方の目安
第4段階になるのは、ざっくり言えば以下のような世帯です。
- 世帯に住民税課税者がいる
- または、預貯金が段階ごとの基準額を超えている(2021年8月の制度改正で段階別に階層化されました。目安として第1段階は単身1,000万円以下・夫婦2,000万円以下、第2段階は単身650万円以下・夫婦1,650万円以下、第3段階①は単身550万円以下・夫婦1,550万円以下、第3段階②は単身500万円以下・夫婦1,500万円以下。最新値は市区町村の介護保険窓口で必ず確認してください)
- または、配偶者が住民税課税されている
「うちは年金だけだから減免に該当するはず」と思っていても、預貯金でひっかかるケースは実際に少なくありません。まずは自治体の窓口か担当ケアマネに、負担限度額認定の見込みを聞くこと。ここが、施設探しの入り口です。
減免が効かない特養(ユニット型)の月額目安
第4段階(減免なし)で、ユニット型個室の特養に入った場合の月額を、目安として並べます。実額はその年度・施設・地域で違うので、あくまで見取り図として読んでください。
介護保険の自己負担(介護サービス費)
要介護3の方が特養に入ると、介護保険からの給付が発生し、自己負担が1割・2割・3割のいずれかで請求されます。
- 1割負担:目安で月2.7〜2.8万円ほど
- 2割負担:目安でその2倍
- 3割負担:目安でその3倍
要介護度が上がれば、この額も上がります。要介護4・5になると、1割負担でも月3万円台前半になるイメージです。
食費
減免が効かない第4段階の食費は、施設が決める基準額に沿うのが原則です。目安として月4.4万円前後(厚生労働省が示す基準費用額の1日1,445円×30日)が、多くの施設で採用されている水準です。
居住費(ユニット型個室)
ユニット型個室の第4段階は、目安として月6万円前後(1日2,000円台×30日)。従来型個室や多床室はここより安くなります。
- 多床室(相部屋):ユニット型より数万円安い
- 従来型個室:中間
- ユニット型個室:一番高い
新しく建った特養はほぼユニット型個室なので、これから探す方は「ユニット型前提」で見積もっておく方が現実的です。
日用品費・雑費
洗濯代・理美容・オムツ(施設によって扱いが違う)・共益費などで、月1万円前後が上乗せされます。
合計の目安
要介護3・1割負担・第4段階・ユニット型個室で組み立てると、月14〜15万円弱になります。
- 介護サービス費(1割):約2.8万円
- 食費:約4.4万円
- 居住費(ユニット型個室):約6.0万円
- 日用品費:約1.0万円
- 合計:約14〜15万円
有料老人ホームの月額と比べて「劇的に安い」ではありません(少なくともユニット型個室・第4段階での比較では)。ここが、家族の”えっ”の正体です。
一方、多床室・要介護3・1割負担・第2段階(減免あり)まで条件が下がれば、月10万円を切ることもあります。同じ「特養」でも、部屋のタイプと減免段階で月額が数万円単位で動く——ここが、テレビの一言では絶対に伝わらない部分です。多床室であれば、有料老人ホームとの差は今もはっきりあります。
この十数年で施設は9種類に激増した——分からなくて当たり前です
家族が「特養は安い、他は高い」で止まってしまうのには理由があります。この十数年で、高齢者向けの施設が種類ごと急激に増えたからです。
現場で日常的に話題に上がる施設だけでも、こう並びます。
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 養護老人ホーム
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護医療院(医療対応・看取りに強い介護保険施設。2018年に新設)
- 介護付き有料老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
- グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
- ケアハウス(軽費老人ホーム)
- 小規模多機能型居宅介護/看護小規模多機能型居宅介護(通所・訪問・泊まりの複合)
正直に書きます。福祉の専門職ですら、この違いを一度で説明するのは骨が折れます。運営主体・費用の考え方・入居できる要介護度・医療対応の可否・退去要件、どれをとっても違うからです。
それを、初めて親の施設を探す家族が、区別できないのは当たり前です。「特養が安い、他は高い」でとりあえずスタートする——このスタート地点は、責められるものではありません。責められるべきは、“漠然イメージのまま最後まで走ってしまう”設計の方です。
だからこそ、ひとりで検索を続ける前に、順番を整理する時間を作ってほしいのです。
慌てて施設を探す前にやること3つ
現場で「相談してよかったです」と言ってもらえるご家族は、たいていこの順番で動いています。逆に、この順番を飛ばして施設パンフレットを集め始めると、疲弊します。
1. 「減免が効くか」を先に確認する
一番先にやることは、施設見学ではありません。自分の家族に負担限度額認定が効くかどうかを、市区町村の介護保険担当窓口か、担当のケアマネに確認します。ここで第1〜3段階の見込みなら、特養は現実的に「安い」候補になります。第4段階の見込みなら、特養と有料老人ホームの月額差は縮まり、「特養一択」を疑う理由が生まれます。
2. 「時間軸」を確認する
- 退院までに決めないといけないのか
- 半年以内が目安なのか
- 1年以上待てるのか
これで、選ぶべき施設の種類が変わります。特養は地域によっては数か月から数年の待機が発生します。退院期限のあるご家族が「特養一択で待ちます」で止まっていると、行き場を失います。時間がない方は、時間がない方の選び方があります。
3. 「家族の意向」を確認する
親自身がどこで暮らしたいか、通える範囲か、キーパーソンは誰か。兄弟間の意見が割れているまま施設探しを始めるのは、いちばん消耗する動き方です。
現場で最近あったケースは、こんな流れでした。ご本人はまだ自宅生活が可能で、家族にも時間の余裕がある。減免も第4段階の見込みで、特養に絞る必然性はない。相談のなかで「有料も候補にしてよかったんですね」となり、選択肢が広がった。最後にご家族から「相談してよかったです」と言われました。特別なことは何もしていません。順番を整理しただけです。
あわせて読みたい
- 特養・老健・有料老人ホームの違い完全ガイド(施設種類を選ぶときの入り口)
- 在宅介護にかかる月額費用シミュレーション(施設と在宅の月額差を並べて考える)
- 親の施設入居、どう切り出す?|家族会議の進め方(家族の意向すり合わせ)
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まとめ|「特養は安い」で止まらず、”うちの場合”に置き換える
- 「特養は安い」は、負担限度額認定(減免)が効いてこその話
- 減免が効かない第4段階でユニット型に入ると、目安で月14〜15万円弱
- 有料老人ホームとの差は縮まり、「特養一択」を疑う理由が生まれる
- 施設の種類はこの十数年で急増し、家族が違いを見分けられなくて当たり前
- 慌てて施設を回る前に、①減免の見込み ②時間軸 ③家族の意向 の3点を先に整理する
漠然イメージのまま施設パンフレットの山と向き合うのは、時間も気持ちも消耗します。逆に、順番を先に整理しておくと、施設見学は一気に解像度が上がります。“うちの場合”に置き換える一手間が、後悔しない施設選びの土台になります。
参考・出典
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/index.html
- e-Gov 法令検索「介護保険法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123
- 負担限度額認定の最新の基準額・申請方法は、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口/地域包括支援センターで必ず確認してください(毎年度の見直しで基準が動きます)
- 各市区町村の介護保険担当窓口・地域包括支援センター(負担限度額認定の該当段階・地域の空き状況は、こちらで確認できます)
※本記事の金額はいずれも一般的な目安です。年度の基準額改定・施設のタイプ・地域・要介護度・所得段階により実額は変わります。個別の判断は必ず担当ケアマネ・地域包括支援センター・入居候補の施設にご確認ください。
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この記事を書いた人
むむぶどう 社会福祉士20年・現役ケアマネジャー。介護施設・在宅サービスの現場で、ご本人とご家族の支援に関わってきました。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。
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