「今日の体調はどうですか?」と聞いても、「おかげさまでいいよ」で会話が終わってしまう。面談の場をきちんと整えるほど、なぜか利用者さんの本音は遠ざかっていく——そんな経験はありませんか。
結論から言います。本音は「質問の仕方」ではなく「場面」を変えることで引き出せます。
福祉の相談屋・社会福祉士のむむぶどう🍇です。社会福祉士として福祉の現場に20年、現在は現役のケアマネジャーとして働いています。
デイサービスで生活相談員兼介護職をしていた頃、フロアではなかなか本音で話せない方が、送迎の車内では思いを話してくれることがありました。この記事では、その経験をもとに次の2つを解説します。
- 本音が出る場面を意図的に作る手順(横並び・二人きり・ついでの時間)
- 聞いた本音を、本人が悪者にならない形でケアマネなどへつなぐ方法
送迎を「ただの運転業務」だと思っている同業者の方にこそ、読んでほしい内容です。
送迎の車内では、どんな本音が出るのか?
まず実例からお見せします。私がデイサービスの送迎車内で実際に聞いた本音は、たとえばこんなものでした。
- 「デイのスタッフの◯◯さんのことが苦手…」
- 「ケアマネさんはちっとも話を聞いてくれない」という愚痴のようなもの
- 「家族はこう言うけど、本当は私はこう思う…」
共通点があります。どれも、フロアや面談室では絶対に出てこない種類の話だということです。
スタッフへの苦手意識は、そのスタッフがいる場所では言えません。ケアマネへの不満は、支援してくれる人への「文句」になってしまうから言えません。家族と違う本心は、家族の耳に入るのが怖くて口にできないもの。
つまり利用者さんは、話したくないのではなく、話せる場面がなかったのです。
なぜフロアでは話せないのに、車内だと話せるのか?
理由は車内ならではの空気感にあります。分解すると2つです。
- 横並びで、目が合わない。 運転席と座席は同じ方向を向いています。正面から見つめられる面談と違い、視線の圧がありません
- 他の人が聞いていない。 フロアには他の利用者やスタッフの耳があります。車内なら、話が誰かに漏れる心配がありません
言い換えると、面談室は「さあ、話してください」という構えの場です。構えられるほど、人は当たり障りのないことしか言えなくなります。
車内は逆です。移動という別の目的の「ついで」の時間だから、ぽろっと出る。フォーマルな質問より、何気ない雑談の中にこそ本音が隠れている。これは送迎に限らず、相談援助の場面全般に通じる話です。
本音が出る場面は、どう作ればいい?【3つの条件】
送迎車内の空気感は、条件に分解すれば他の場面でも再現できます。意図的に使いたい条件は次の3つです。
- 横並び:正面で向き合わず、視線が合わない位置関係を選ぶ
- 二人きり:他の利用者・スタッフ・家族の耳がない環境を選ぶ
- ついでの時間:「面談」と構えず、移動や作業など別の目的のすきまで話す
送迎に乗る機会があるなら、この3条件がそろった車内は絶好の場面です。乗る機会がない職種でも、たとえばこんな場面で条件を再現できます。
- 居室やトイレへ歩いて付き添う数十秒(横並び+二人きり)
- 帰りの支度を手伝う玄関先のひととき(ついでの時間)
- 面談室ではなく、廊下や庭を一緒に歩きながら話す(横並び+ついで)
注意:無理に聞き出す話ではありません
1つだけ、はっきり書いておきます。これは「車内で質問攻めにしよう」という話ではありません。
- 運転中は運転の安全が最優先です。深い話を意図的に掘り起こす場面ではありません
- やることは「話せる空気を用意して、待つ」だけ。出てきた言葉を受け止めるのが基本姿勢です
- 話が出なければ、それでかまいません。場面を用意すること自体に意味があります
- そして大前提は普段の信頼関係です。日頃のコミュニケーションで人間関係を築けていなければ、車内のような環境を整えても本音は話してもらえません。場面づくりは、信頼の上に載る技術です
聞き出そうとした瞬間、車内は「移動する面談室」に変わってしまいます。それでは意味がありません。
聞いた本音は、どう扱えばいい?【記録より伝え方】
場面づくりと同じくらい大事なのが、聞いたあとの扱いです。私はデイの相談員兼介護職だったからこそ、車内で出た声を特に大事にしていました。扱いの手順は2つです。
手順1:そのまま記録には書かない
「◯◯さんが苦手」「ケアマネが話を聞いてくれない」といった声を、聞いた言葉のまま記録に残すことはしませんでした。
考えてみてください。記録は複数の職員が読みます。「あの人、私のこと苦手って言ってたんだ」と当のスタッフが知ったら、関係はどうなるでしょうか。「ここで話したことは書かれる」と利用者さんが感じた瞬間、二度と本音は出てきません。
ただし、これは人間関係の愚痴や本心レベルの話です。転倒・体調の変化・虐待の疑いなど、安全に関わる情報は別。こちらは迷わず記録し、共有してください。
手順2:本人が悪者にならない伝え方で、ケアマネ等へつなぐ
記録に書かない代わりに、支援の方向性に関わる声は、ケアマネなど必要な相手にこっそり伝えます。このとき絶対に守りたいのが、本人が悪者にならないように伝え方・言葉選びに気をつけることです。
たとえば「ケアマネさんはちっとも話を聞いてくれない」という愚痴なら——
- ❌ そのまま伝える:「◯◯さんがあなたの悪口を言っていましたよ」と同じ構図になり、利用者さんが「告げ口された人」になってしまう
- ⭕ 翻訳して伝える:「◯◯さん、本当はもっと話したいことがあるようです。次の訪問で少しゆっくり時間を取ってもらえませんか」
愚痴の形をした言葉の中身は、多くの場合「もっとこうしてほしい」という要望です。愚痴のまま運ぶのではなく、要望に翻訳して運ぶ。これは、本音を聞き出して支援につなげる技術の1つだと私は考えています。
よくある質問
Q. 運転中に深刻な話が始まったら、どうすればいい?
その場で深掘りしないでください。運転の安全が最優先です。「その話、もう少し聞かせてほしいので、着いたら少しだけお時間いいですか」と一度受け止めて、停車後や次の機会につなぐ。話の腰を折らずに、場面だけを移すイメージです。
Q. 送迎業務がない職種には関係ない話?
いいえ。核心は送迎そのものではなく「横並び・二人きり・ついでの時間」という3条件です。訪問の帰り際の玄関先、施設の廊下の付き添い、買い物同行の道すがら。3条件がそろう場面は、どの職種の日常にもあります。
Q. 送迎って、そもそもサービスの一部なの?
制度上も、送迎は通所介護というサービスの一部に位置づけられています。介護報酬では、送迎を行わない場合に減算される仕組みがあるほどです(出典:厚生労働省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準」)。「ただの運転」どころか、報酬上も支援の一部。そこに本音が出る空気感まであるのだから、使わない手はありません。
Q. 聞いた本音を全部ケアマネに伝えるべき?
全部ではありません。支援の方向性に関わる声(サービスへの不満、家族と本人の意向のズレなど)を選んで伝えます。単に吐き出したかっただけの話は、聞いて受け止めて終わりでいい。何でも報告してしまうと、それも「筒抜けの場所」になってしまいます。
まとめ:本音は「場面」が引き出す
- フロアで話せない人も、送迎の車内でなら話せることがある。理由は横並び(目が合わない)+他の人が聞いていない空気感
- 本音が出る場面は作れる。条件は横並び・二人きり・ついでの時間の3つ。送迎がない職種でも再現できる
- 無理に聞き出さない。話せる空気を用意して、待つだけ
- 聞いた本音はそのまま記録に書かず、本人が悪者にならない伝え方でケアマネ等へつなぐ。愚痴は要望に翻訳して運ぶ
明日の送迎当番が回ってきたら、少しだけ楽しみにしてみてください。ハンドルを握るその1時間は、フロアのどこよりも本音に近い場所かもしれません。
参考文献
- 厚生労働省「介護報酬」(指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準・通所介護費・送迎を行わない場合の減算)
この記事を書いた人
むむぶどう🍇
社会福祉士・ケアマネジャー。社会福祉士として福祉の現場に20年、介護施設・在宅サービスでご本人とご家族の支援に関わってきました。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。
▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou
▶ X(毎朝のつぶやき・現場の小ネタ):https://x.com/mumubudo
ブログでは「制度の使い方」を、noteでは「現場のリアル」を、Xでは「今日の気づき」を発信しています。
記事が役に立ったらブックマーク・SNSシェアいただけると励みになります。


コメント