介護保険の住宅改修20万円|対象工事・申請の順番・注意点を現役の社会福祉士が解説

介護保険の住宅改修 上限20万円・工事の前に申請・対象6種類・自己負担1〜3割 介護とお金

親の家の玄関で、段差につまずいて転びそうになった。トイレから立ち上がるのがつらそうで、手すりを付けたい——そう思って調べ始めた方に、まず2つだけお伝えします。

介護保険の住宅改修は、上限20万円までの工事費を、自己負担1〜3割で使えます。 そしてもう1つが最重要——工事の前に申請しないと、原則1円も戻りません。先に工事してしまってから「介護保険で」と言っても、後からは支給されないのです。

この記事では、対象になる工事の種類、申請の順番、実際に戻る金額、そして「20万円がもう一度使える例外」までを、順番どおりに説明します。制度の数字は市区町村(保険者)によって運用が違う部分があるので、最後は必ずお住まいの窓口で確認してください。

そもそも介護保険の住宅改修とは?20万円で何ができるの?

要介護・要支援の認定を受けた人が、自宅を安全に暮らせるよう小さく直すための制度です。

対象になるのは、手すりを付ける、玄関の段差をなくす、といった生活に直結する工事。大がかりなリフォームやバリアフリー”新築”ではありません。

  • 支給限度基準額は20万円(工事費の総額に対する上限)
  • このうち自己負担は所得に応じて1〜3割
  • つまり保険から戻るのは、工事費と負担割合によって幅があり、おおむね9万円〜18万円(20万円をフルに使った場合は、負担割合に応じて14万円〜18万円が戻ります)

たとえば18万円の工事をして負担が1割の人なら、自分が払うのは1万8千円。残りが介護保険から戻ります。「20万円まるごともらえる」ではなく「20万円分の工事の1〜3割を自分で払う」と覚えると誤解しません。

まだ要介護認定を受けていない場合は、住宅改修の前に認定申請が必要です。流れは介護保険の申請の流れで解説しています。

対象になる工事は?介護保険で認められる6種類

住宅改修として認められる工事は、次の6種類に限られています。おしゃれなリフォームは対象外、という線引きの根拠がここです。

  1. 手すりの取付け(廊下・階段・トイレ・浴室・玄関など)
  2. 段差の解消(居室と廊下の段差、玄関の上がりかまち、スロープの設置など)
  3. 滑りの防止・移動の円滑化などのための床材の変更(滑りにくい床材や、畳からフローリングへの変更など)
  4. 引き戸などへの扉の取替え(開き戸を引き戸や折れ戸に変える、ドアノブをレバー式にするなど)
  5. 洋式便器などへの便器の取替え(和式トイレを洋式に変えるなど)
  6. 上記1〜5に付帯して必要になる工事(手すりを付けるための壁の下地補強、床材変更に伴う下地工事など)

ポイントは、「1〜5をやるために必要な工事」までがセットで対象になること(6番目)。手すりを付けるのに壁の補強が要るなら、その補強も含めて申請できます。

一方で、単なる老朽化の修繕や、介護に直接関係しない模様替えは対象外です。何が認められるかは市区町村やケアマネジャーと事前に相談して決めます。

なぜ「工事の前の申請」が必須なの?ここが最大の落とし穴

この制度で一番つまずくのが、申請の順番です。

住宅改修費は、工事を始める前に保険者(市区町村)へ「事前申請」をしていないと支給されません。良かれと思って先に工事を済ませてしまうと、対象の工事だったとしても、後から申請しても戻らないのが原則です。

現場でも、「親孝行のつもりで先に手すりを付けてあげたのに、事前申請をしていなかったために支給を受けられなかった」というご家族を見てきました。工事の質が良くても、順番を外すと制度は使えません。

覚えておきたい鉄則

「良い業者を見つける」より先に「ケアマネジャーに相談して事前申請する」。順番はいつも申請が先、工事は後です。

だからこそ、思い立ったらまず工事ではなく、担当のケアマネジャー、いなければ地域包括支援センターに連絡するのが正しい第一歩になります。

実際にいくら戻る?自己負担はいくら?

戻る金額は、「工事費(20万円まで)× 保険給付の割合」で決まります。

自己負担の割合は本人の所得によって決まっていて、1割・2割・3割のいずれか。多くの人は1割です。

  • 1割負担の人が20万円の工事 → 自己負担2万円 / 戻るのは18万円
  • 2割負担の人が20万円の工事 → 自己負担4万円 / 戻るのは16万円
  • 3割負担の人が20万円の工事 → 自己負担6万円 / 戻るのは14万円

注意したいのは、20万円を超えた分は全額自己負担になること。25万円の工事をしたら、超えた5万円は保険の対象外で、自分で払います。

自分が何割負担かは、介護保険負担割合証(毎年7月ごろ届く書類。色は自治体によって異なります)に書かれています。手元で確認できます。

申請の順番は?初めてでも迷わない手順

初めての家族が迷わないよう、時系列の手順に並べます。

  1. ケアマネジャー(または地域包括支援センター)に相談する……「手すりを付けたい」「段差をなくしたい」と伝える
  2. 困りごとと工事内容を一緒に確認する……本人の体の状態に合わせて、どこに何を付けるかを検討
  3. 施工業者から見積もりを取る……工事内容と金額を書面でもらう
  4. 「住宅改修が必要な理由書」を用意する……ケアマネジャーなどが作成(次の見出しで解説)
  5. 保険者(市区町村)に事前申請する……申請書・見積書・理由書・図面や工事前の写真などを提出
  6. 保険者の確認・承認を待つ……ここで承認が下りてから着工するのが鉄則
  7. 工事を実施する……工事後の写真も残しておく
  8. 完成後、支給申請(費用の請求)をする……領収書・工事後写真などを提出して、保険給付分を受け取る

5番と7番の間に「承認」を挟むことが、この制度の背骨です。承認前に工事を始めないでください。提出書類の細かい種類や様式は市区町村ごとに違うので、窓口またはケアマネジャーに確認しながら進めます。

「住宅改修が必要な理由書」は誰が書くの?

申請には、なぜその工事が必要かを説明する「住宅改修が必要な理由書」が要ります。

これは家族が書くものではなく、担当のケアマネジャーなどが作成する書類です。ケアマネジャーのほか、地域包括支援センターの職員、作業療法士、福祉住環境コーディネーター2級以上などが作成できます。本人の体の状態、どんな場面で困っているか、その工事でどう安全になるかを、専門職の視点でまとめます。

だから、まだケアマネジャーが付いていない人は、先に相談窓口とつながることが実質的な第一歩になります。理由書を用意できる人が近くにいるかどうかで、申請のスムーズさが変わります。

お金の払い方は2つ?償還払いと受領委任払い

支払い方法には、大きく分けて2つのやり方があります。ここは市区町村によって使える方法が違うので、事前確認が要ります。

償還払い(原則のやり方) いったん工事費の全額を自分で立て替えて業者に支払い、あとから保険給付分(9〜18万円)を市区町村から受け取る方法。手元にいったんまとまったお金が必要になります。

受領委任払い(自治体により使える) 自己負担分(1〜3割)だけを業者に払えばよく、残りは市区町村から業者へ直接支払われる方法。立て替えが少なくて済みます。

  • 原則は償還払い
  • 受領委任払いが使えるかはお住まいの市区町村しだい
  • まとまった立て替えが難しいときは、使えるかどうかを窓口で必ず聞く

「一度に全額は出せない」というご家庭こそ、受領委任払いが使えるかを最初に確認しておくと安心です。

20万円は一度きり?リセットされる例外はある?

住宅改修費の20万円は、原則として1人につき生涯で1回分の上限です。使い切ると、基本的には再支給されません。

ただし、次の2つの場合だけは、20万円の枠がリセットされて、あらためて使えるようになります。

  1. 転居した場合……引っ越して住まいが変われば、新しい住宅について再び20万円まで使える
  2. 「介護の必要の程度」が3段階以上、重くなった場合……国が定めた「介護の必要の程度」の段階表で、最初に住宅改修をしたときより3段階以上あがったとき。ここで注意したいのは、要介護度のランクが3つあがること=3段階、ではないという点です。段階表では要支援2と要介護1は”同じ段階”として扱われるなど、ランクの数え方とは違います。たとえば要支援1から要介護2になったケースは、ランクでは3つあがって見えても、段階表では2段階分にとどまり、この例外には当てはまりません

この2つ以外では、原則リセットされません。「介護度が1段階上がったから、また20万円使える」ではありません。判定は要介護度のランクの数ではなく、国が定めた「介護の必要の程度」の段階表で行います。自分のケースが当てはまるかは、市区町村に必ず確認しましょう。

なお、20万円は一度に使い切る必要はありません。上限に達するまでなら、複数回に分けて使うこともできます(例: 先に玄関の手すり、あとでトイレの改修)。

賃貸住宅でも使える?

賃貸住宅にお住まいでも、住宅改修そのものは使える場合があります。ただし条件があります。

  • 原則として本人が実際に住んでいる住宅が対象
  • 壁や床に手を加えるため、大家さん(所有者)の承諾が必要

貸主の許可なく工事はできません。手すりの取付けなど壁に穴を開ける工事は、必ず所有者の同意を得てから進めます。賃貸の場合は、承諾書の要否も含めて、早めにケアマネジャーと大家さんの両方に相談しておくと安心です。

なお、退去時の原状回復の扱いなど、賃貸ならではの確認事項があります。契約内容によって変わるので、こちらも事前に整理しておきましょう。

費用が心配なときは?在宅介護全体のお金も一緒に考える

住宅改修は「入り口の1つ」で、在宅介護には手すり以外にもお金がかかります。

福祉用具のレンタル、デイサービスやヘルパーの利用料など、月々の費用も合わせて見通しておくと、あわてずに済みます。全体像は在宅介護の費用シミュレーションでまとめています。

住宅改修の20万円をどこにどう使うかは、「今いちばん危ない場所」からが基本。玄関、トイレ、浴室など、転ぶと大けがにつながる場所を優先すると、限られた枠を活かせます。

よくある質問(FAQ)

Q. 手すりはレンタルの福祉用具とどう違うの? 工事で壁に固定する手すりは「住宅改修」、置くだけ・突っ張り式で工事不要のものは「福祉用具」の扱いになることが多いです。どちらが向くかは体の状態や住まいで変わるので、ケアマネジャーに相談を。

Q. 業者は自分で選んでいいの? 基本的に施工業者に指定はありませんが、介護保険の住宅改修に慣れた業者だと書類がスムーズです。ケアマネジャーや地域包括支援センターに紹介してもらえる場合もあります。

Q. 申請から工事までどれくらいかかる? 書類の準備と保険者の確認に時間がかかります。急いでいても、承認前の着工はできません。余裕をもって、早めに相談を始めてください。

Q. 自己負担分が高額になったら戻る制度はある? 医療・介護の自己負担には別途、負担を軽くする仕組みがあります。ケースにより異なるため、市区町村の窓口で確認してください。

まとめ:順番さえ守れば、20万円は心強い味方になる

最後に、この記事の要点を3つに絞ります。

  • 上限20万円までの工事を、自己負担1〜3割で使える(戻るのは9〜18万円)
  • 工事の前の事前申請が必須。先に工事すると原則戻らない。順番はいつも「申請が先、工事は後」
  • リセットの例外は「転居」と「『介護の必要の程度』が3段階以上あがったとき」の2つだけ(要介護度のランクの数ではなく、国が定めた段階表で判定。要支援2と要介護1は同じ段階)

手すり1本、段差1つでも、転倒は暮らしを大きく変えてしまいます。思い立ったら、まず工事ではなくケアマネジャーへの相談から。それがこの制度をムダなく使う、いちばん確実な一歩です。

なお、支給額・申請書類・受領委任払いの可否などは、市区町村(保険者)によって運用が異なります。具体的な手続きは、必ずお住まいの市区町村の窓口で確認してください。

参考文献・出典

  • 厚生労働省「介護保険における住宅改修」(PDF)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001016043.pdf
  • 介護保険法 第45条(居宅介護住宅改修費の支給)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123/20250401_505AC0000000031
  • 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「居宅介護住宅改修費(介護予防住宅改修費)とは」 https://www.tyojyu.or.jp/net/kaigo-seido/kaigo-service/kaishu-hi.html
  • 20万円のリセット要件(転居・要介護状態区分3段階以上の上昇)の例=千葉県袖ケ浦市「住宅改修の支給可能算定額の例外」(PDF)https://www.city.sodegaura.lg.jp/uploaded/attachment/18454.pdf
  • ※支給額・申請書類・受領委任払いの可否などの具体的な運用は、お住まいの市区町村(保険者)の案内ページで必ずご確認ください

この記事を書いた人

むむぶどう
社会福祉士・ケアマネジャー。社会福祉士として福祉の現場に20年、介護施設・在宅サービスでご本人とご家族の支援に関わってきました。福祉の制度を「使える形」にして届けたい、と思って発信しています。

▶ note(現場のリアル・体験談):https://note.com/mumubudou
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ブログでは「制度の使い方」を、noteでは「現場のリアル」を、Xでは「今日の気づき」を発信しています。

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