久しぶりに会った親の歩き方が、前より遅い。廊下で壁に手をつきながら歩く姿を見て、「杖じゃ足りないかもしれない」と感じていませんか?
先に結論をお伝えします。歩行器は介護保険でレンタルでき、1割負担なら月100円台〜300円くらいが目安です(地域や事業所、機種によって変わります)。最初に試すなら、「軽い・車輪つき・押しやすい」タイプから。合わなければ変更も返却もできます。
私は社会福祉士として福祉の現場に20年。現在はケアマネジャーとして、歩きに不安が出てきた方へ歩行器を提案する場面が何度もあります。提案のたびに家族から出る質問は、だいたい決まっています。「外でも使えるの?」「買い物したものを入れられるの?」「座って休憩できるものがいい」「壊れたらどうするの?」。この記事では、歩行器の種類と選び方、借りるまでの流れに加えて、その「よく出る質問」にまとめて答えます。
歩行器はレンタルできる?月いくら?
できます。介護保険には「福祉用具貸与」という月額レンタルの制度があり、厚生労働省が定める対象13種目の中に「歩行器」がはっきり入っています。
しかも歩行器は、要支援の方から借りられる種目です。介護保険のレンタルには、車いすや電動ベッド(特殊寝台)について「要支援・要介護1の方は原則対象外」という決まりがありますが、歩行器はそのリストに入っていません。厚生労働省の資料でも、手すり・スロープ・歩行器・歩行補助つえの4種目は、介護度が軽い方の利用が多い種目として整理されています。要支援の段階から相談できる種目です。
気になる金額です。私の現場の実感では、歩行器のレンタル代は安いもので月100円くらい、私がよく提案するタイプで月250〜300円くらいです。ただし、この数字には前提があります。
- 1割負担の場合の金額です(所得によっては2割・3割負担になります)
- レンタル価格は事業所ごとに違うため、地域や事業所、機種によって変わります
- あくまで私の担当地域での実感値です。正確な金額は、見積もりの段階で確認してください
月に数百円。この金額なら、「まず借りて試してみる」という選び方ができると思いませんか?
なお、2024年4月からは制度が少し変わり、固定式・交互式(車輪のない脚だけのタイプ)の歩行器については、レンタルか購入かを利用者が選べるようになりました。ただし車輪つきの歩行車はこの対象に入っていません。この記事は「まずレンタルで試す」の考え方で書いています。理由は、この後の章で出てくる「合わなければ変えられる」にあります。
どの歩行器から試す?「軽い・車輪つき・押しやすい」の理由
私が最初に勧めるのは、軽めで、車輪がついていて、押しやすいタイプです。
理由は3つあります。
1. 持ち上げなくていい。車輪がないタイプは、一歩ごとに歩行器を持ち上げて前に置く動作が要ります。腕の力が落ちてきた方には、この動作そのものが負担です
2. 歩くリズムを止めない。押して進めるタイプは、歩く動きと歩行器の動きが途切れません。杖と壁づたいの歩き方から移る人にとって、感覚のギャップが小さい選択です
3. 軽いと本人が使い続けやすい。重い歩行器は、出し入れや向きの変更がおっくうになり、部屋の隅に置きっぱなしになりがちです。使われない歩行器は、月数百円でも高い買い物です
ただし、これは「最初に試す1台」の話です。坂道でも安全に歩けることや、安定感を何より重視する方もいます。その場合は、軽さより、しっかりした作りの歩行車や、下り坂でブレーキがきくタイプを優先します。腕で支える力が弱い方なら、ひじから先をのせて体重を預けられる前腕支持型という選択肢もあります。歩行器の主なタイプを、使う場所と一緒に整理すると次のとおり。

- 固定型(四脚型): 車輪がなく、4本の脚で立つ。持ち上げて前に置き、また一歩進む。安定感はあるが、腕の力を使う。主に屋内
- 交互型: 左右のフレームを交互に前へ出して進む。持ち上げずに歩けるが、動かし方に慣れが要る。主に屋内
- 車輪つき(前輪つき・四輪歩行車): 押して進む。軽くて動きが途切れにくい。屋内向けのコンパクトなものから、屋外向けの大きめのものまで幅がある
- 前腕支持型: ひじから先をのせて、体重を預けながら押して進む。腕や手首で握って支えるのがつらい方向け。屋内・屋外の両方に対応するものがある
どれを選ぶかを、家族が決める必要はありません。後の章で出てくる福祉用具の専門職が、体と部屋を見て提案してくれます。家族がやることは、「家の中で使いたいのか、外にも出たいのか」を伝えることです。
屋内用と屋外用は何が違うの?
同じ「車輪つき」でも、家の中で使うものと外で使うものは、作りが違います。
- 屋内向け: 幅が狭く、小回りがきく。廊下やトイレの入口を通れるサイズが選ばれる。車輪は小さめ
- 屋外向け: 車輪が大きく、小さな段差やでこぼこで引っかかりにくい。ブレーキがついていて、腰かけて休める座面や、買い物したものを入れるかご・バッグがあるものも多い。そのぶん幅と重さは増える
ここで大事なのは、「家の中でどこを通るか」です。廊下の幅、トイレの扉、寝室からリビングまでの動線。屋外向けの大きな歩行器を家の中で使おうとすると、扉を通れず、結局玄関に置きっぱなしになることがあります。
逆に、外に出たい方に屋内向けの小さな歩行器だけを渡すと、道路の段差で車輪が引っかかり、外出そのものをあきらめてしまうことがあります。「外にも出たい」なら、その希望を最初に伝えてください。
思い出してみてください。親が歩くのを怖がっているのは、家の廊下ですか?それとも、近所のスーパーまでの道ですか?答えによって、最初に借りる歩行器が変わります。
借りるまでの流れは?
前提がひとつあります。介護保険のレンタルを使うには、要介護認定(要支援を含む)を受けていることが必要です。そのうえで、流れは3ステップです。

1. 相談する
- 認定をすでに受けているなら → 担当のケアマネジャーに「歩くのが心配で、歩行器を考えたい」と伝えてください。それだけで話が動き出します
- 認定をまだ受けていないなら → お住まいの地域の地域包括支援センターへ。認定の申請から一緒に考えてくれます。本人が同席しなくても、家族だけで相談できます
▶ 関連記事: 地域包括支援センターとは?相談できること・使い方・探し方
▶ 関連記事: 介護保険の申請から要介護認定までの完全ガイド
2. 福祉用具の専門職に自宅で見てもらう
ここで来てくれるのは、「福祉用具専門相談員」という資格を持つ担当者です。リハビリを受けている方なら、担当の理学療法士・作業療法士に歩き方を見てもらうこともできます。
ケアマネジャーを通じて、福祉用具貸与の事業所が自宅に来てくれます。廊下の幅、扉のサイズ、玄関の段差、本人の歩き方を見て、体格に合う機種を選ぶ。カタログから自分で選ぶのではなく、プロが現物合わせをしてくれる流れです。
このとき、契約にあたって重要事項の説明があり、契約書を交わします。月額だけでなく、故障したときの対応や、紛失・盗難のときの扱いもここに書かれています。後の章で出てくる「直すには?」「盗まれたら?」の答えは、正確にはこの書類の中にあるんです。目を通しておいてください。
3. 試して、合わなければ変えられる
事業所によっては、契約の前に無料で機種を試させてもらえることがあります(有無や期間は事業所ごとに違います)。契約したあとも月額レンタルなので、使ってみて合わなければ、機種の変更も返却もできます。「一発で正解を選ばないといけない」買い物とは違います。
たとえば、最初は屋内向けの小さな歩行器で始めて、外出の意欲が出てきたら屋外向けに切り替える(2台目が必要なら、理由を明記したうえでケアマネジャーに相談する)。あるいは、車輪つきで始めたけれど体の状態が変わったので別のタイプに変える。そうした変更を、月額の範囲で追いかけられるのがレンタルの強みです。
制度の入口全体(お金の話・買うタイプの用具・相談先の一覧・シルバーカーとの違い)は、シリーズ第1弾にまとめています。本人に「まだ大丈夫」と断られたときの動き方は第2弾で書いたので、提案の前に読んでもらえますか?
▶ 第1弾: 福祉用具や手すりは買う前に誰に相談する?20万円の助成枠を逃さない「制度の入口」
▶ 第2弾: 親が福祉用具を「まだ大丈夫」と断ったら?説得より効く”種まき”の考え方
▶ 第3弾: 手すりはレンタルできる?月100円台から借りられる「置き手すり」と壁工事の違い
家族からよく出る4つの質問
歩行器を提案すると、ご本人やご家族から出る質問はほぼ決まっています。現場での答え方を、そのまま。

Q. 外でも使えるの?
よく聞かれる質問のひとつです。「買い物したものを入れられるの?」「座って休憩できるものがいい」という声も同じくらい多く、どれも「外に出たい」が前提にあります。外で使うことを前提に選ばれる歩行器はあります。前の章で書いた屋外向けの歩行車がそれで、大きめの車輪とブレーキ、休める座面、買い物用のかごがついているものが選ばれます。
ただし、「どこまで行けるか」は道具だけでは決まりません。本人の体の状態、家の周りの道の状態、坂や段差の有無によって、専門職の判断が変わります。だから答えは「外でも使えるものはあります。外に出たいことを最初に伝えてください」です。希望を伝えれば、外で使う前提で機種を選び、使い方の説明もしてくれます。
外で使うときに、事業所からきちんと説明を受けてほしいことが3つあります。下り坂では歩行車が先に進みやすいので、ブレーキを軽くかけながら歩くこと。段差は正面から入り、大きな段差は避けること。座面つきなら、座る前に駐車ブレーキをかけること。坂の多い地域なら、上り坂を軽くし、下り坂で自動でブレーキがかかる電動アシストつきの歩行車もレンタルの対象です。
Q. 家の中でも使えるの?
使えます。むしろ、歩行器の出番として多いのは家の中です。夜中にトイレへ向かう廊下、キッチンからテーブルまでの数歩、玄関の上がり口。転びやすいのは、こうした「毎日通る短い距離」ではありませんか?
家の中で使うなら、幅が狭く小回りのきく屋内向けを選びます。専門職が廊下の幅と扉のサイズを測ってくれるので、「通れなかった」という失敗は起きにくい。家具の配置を少し変えるだけで動線が通ることもあり、そうした提案も同時にしてくれます。
Q. 直すのはどうすればいい?
レンタル事業所に連絡してください。それだけです。
車輪の動きが悪い、ブレーキがきかない、ガタつく。こうした不具合は、事業所に連絡すれば対応してもらえます。私の担当地域では、通常の使い方の範囲であれば無料で修理や交換をしてもらえることが多いです。家族が工具を出して直す必要はありません。
ただし、修理の扱いは契約内容によって変わります。故意や不注意による破損は別扱い、という定めがある場合もあります。契約時の重要事項説明と契約書に「故障・修理」の項目があるので、そこを確認してください。分からなければ、担当のケアマネジャーに聞けば一緒に見てくれます。
Q. 盗まれたり、なくしたりしたら?
ニッチな質問ですが、実際に聞かれたことがあります。外で使う歩行器だからこそ、気になりますよね。
ケースによりますが、福祉用具の事業所が保険に入っていることが多く、本人の弁償はないことが多いです。とはいえ、これも契約内容次第です。保険を使う場合は、警察への盗難届が必要になることもあります。保険の範囲、免責の有無、届け出の期限などは事業所ごとに違います。契約書の「紛失・盗難」の項目を確認したうえで、もし起きたらすぐに事業所とケアマネジャーに連絡してください。連絡が遅れるほど、扱いが不利になることがあります。
4つの質問に共通する答えは、ひとつです。困ったら、レンタル事業所とケアマネジャーに連絡する。家族が一人で抱える必要はありません。
まとめ: 歩行器は「買う」前に「借りて試す」
要点は4つです。
- 歩行器は介護保険のレンタル対象(13種目の1つ)。要支援の方から借りられる
- 月額は1割負担で100円台〜300円くらいが目安(安いものは月100円くらい、よく提案するタイプで250〜300円)。ただし地域・事業所・機種で変わる
- 屋外向けの大きめの歩行車や電動アシストつきは、これより高くなる。希望を伝えたうえで見積もりで確認する
- 最初に試すなら「軽い・車輪つき・押しやすい」タイプ。屋内用と屋外用は作りが違うので、「外にも出たいか」を最初に伝える
- 修理は事業所に連絡。盗難・紛失も本人の弁償はないことが多いが、契約書で確認する
親の歩き方が気になっているなら、通信販売で歩行器を探す前に、月数百円のレンタルから始めてみませんか?相談先は、担当のケアマネジャーか、お住まいの地域包括支援センターです。「歩くのが心配で」のひとことで、話は動き出します。
【この記事を書いた人】
むむぶどう。社会福祉士として福祉の現場に20年、現在はケアマネジャーとして働いています。歩行器を提案するたびに「外でも使えるの?」「直すには?」と同じ質問が出るので、その答えをまとめて置いておきたくて、この記事を書きました。
参考資料(一次資料)
- 厚生労働省「福祉用具・住宅改修に関する告示・通知等」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58897.html
- 厚生労働大臣が定める福祉用具貸与に係る福祉用具の種目(平成11年厚生省告示第93号・現行版) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001506161.pdf
- 厚生労働大臣が定める特定福祉用具販売に係る特定福祉用具の種目(平成11年厚生省告示第94号・現行版) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001506168.pdf
- 「介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて」(老企第34号・現行版および令和6年3月15日改正通知) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001506170.pdf
- 厚生労働省「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会(第1回)資料2」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000921892.pdf
※レンタル価格は事業所ごとに異なり、負担割合・市区町村の運用によっても変わります。修理や紛失・盗難時の取り扱いは、契約時の重要事項説明と契約書をご確認ください。実際の金額や手続きは、担当のケアマネジャーまたはお住まいの市区町村の介護保険担当課にご確認ください。


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